078 連続
壁が近づいてくる。
見上げるほどの大きな壁だ。
あぜ道から大きな道に合流する。そこでは同じような馬車や旅人の姿があった。おー、あー、いかにもな街道って感じだなぁ。こっちが本街道なのだろう。
ゆっくりと幌馬車が走り、壁に向かう。
壁の前にある堀が見えて来る。堀と橋だ。橋の先には壁にある大穴。あそこが入り口なのだろう。
他に入り口は見えないようだが、そこに門は無い。もし、何かに攻められたら、この橋を落とすのだろうか。
橋はあまり大きくない。長さは百メートルくらいだろうか。もうちょっとあるかな? とにかく壁まではすぐに辿り着けそうだ。だが、実際は、そこまで辿り着くのは大変そうだった。橋の上には――俺たちの前には旅人や馬車の行列があった。
「えーっと、これは?」
「王都に入るため」
御者台の狼少女が教えてくれる。
さすがは王都。中に入るだけでも一苦労だ。行列の最後尾に並ぶ。歩みは遅い。なかなか前に進めない。あの大きな壁の中で何かをやっているのだろう。検問か?
「えーっと、なんというか、もっと早く中に入る方法ってないんですか?」
「ない」
狼少女は簡潔だ。それに反応する人が居た。おっさんだ。
「無いこともない。だが、それには大きな権力とお金が必要になるでしょう」
おっさんはそんなことを言っている。
「えーっと、魔法協会のお偉いさんじゃあないんですか?」
おっさんが頷く。
「確かにそうでしょう。ですが、王族ではないのですよ」
あー、大きな権力って王族とその関係者ってことか。そこまでの力が必要なのか。
「えーっと、ちなみにお金の方だと?」
「魔法協会が傾くほどの献金が必要になるでしょうね」
おっさんが呆れるような顔でこちらを見ている。
魔法協会が傾くほどかぁ。意外に魔法協会ってたいしたことないのか?
まぁ、とにかく待つしか無いってことだよなぁ。
橋の端により、並んで待つ。向こうからやって来るのは王都から出てきた旅人たち。だが、その数は少ない。出る方は検問がなく、待ち時間がないようだ。スムーズに流れている。
王都に入る方が大変ってことだな。
しばらく並んで待つ。
ゆっくり並んで待つ。
かなり頑張って並んで待つ。
待つ。
並ぶ。
並んで待つ。
待つ。待つ。待つ。待つ。
えーっと、これ、日が暮れそうなんですが……。
と、そんな自分たちの幌馬車の横を一台の馬車が抜けていく。そのまま壁の向こうに消える。
は、え?
こっちがこれだけ待っているのに、それを抜かしていくのかよ。
「えーっと、今のは?」
「王族とは思えないですから、騎士団か王族お抱えの探求士でしょう」
王族のお抱え? そんなのもあるのか。
「騎士団ではないのだ」
ぽつりとズタ袋のリンゴが呟く。
「えーっと、違うんですか?」
リンゴが頷く。
「紋章がないのだ。紋章を付けない騎士団はないのだ」
紋章? あー、馬車に何か目印がついているってコトか。となると、さっきの馬車は王族お抱えの探求士ってことか。
この行列を無視してサクッと王都に入れるのはうらやましいなぁ。
そして、日が落ち、夜になったところで自分たちの番になった。開かれた壁の穴の前に立っている兵士。その兵士が話しかけてくる。
「まずは身分証を」
「これ」
狼少女が金色のプレートを見せている。
「私はこれなのだ」
リンゴが鉄のプレートを。
俺も慌てて銅のプレートを取り出し、見せる。
「ふむ」
おっさんは何処にしまっていたのか小さな杖のようなものを取り出し、それを見せている。
「こちらへの目的はなんでしょうか?」
「これ」
兵士の言葉に狼少女が蝋で封印され丸められた何かの手紙? のようなものを取り出す。
「紋章官を」
兵士の一人が誰かを呼びに行く。
その場でしばらく待ち、やがて一人のおっさんがやってくる。またおっさんか。おっさんはこちらのお偉いさんだけで間に合っているんだけどなぁ。
「確認をお願いします」
兵士の言葉に紋章官と呼ばれたおっさんが頷く。
狼少女がそのおっさんに手紙を渡す。
「問題ないでしょう」
その紋章官の言葉に狼少女が何処か得意気な様子で頷き、手紙を返して貰う。
ゆっくりと馬車が進み、やっと壁の先に進む。問題無かったようだ。
しかしまぁ、凄い手間だったな。
確かに、これだけの手間をかけていたら行列が出来るな。出来るよなぁ。王都に入るのは大変だ。
そうやって馬車が壁の中を進み、抜ける。
壁を抜けた先は町だった。
煉瓦造りの建物が多い。
そして、目につくのは……壁だった。
「えーっと、また壁が見えるんですが……」
「あの先が王都」
え?
へ?
まだ王都じゃなかった?
また壁かよ。王都に入るの、どんだけ大変だよ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます