040 雨天

 食事を終え、ギルドに戻り、すぐに眠る。


 朝。


 まだちょっと薄暗いようだが、朝だ。きっと朝だ。俺の体内時計が朝だと告げている。


 ……。


 目覚めてすぐに確認する。


 うん、抱きつくように持っていた草紋の槍は無事だ。目覚めてすぐに持ち物が無事かどうかを確認するってのもおかしな話だが、こんな場所だからなぁ。このギルドのエントランスには飲んだくれがたむろしていて、無料で泊まれるここには鍵が無い。

 まぁ、ギルド内で盗みを働くヤツはいないと思うが油断は出来ない。特に、今の俺みたいな良い武器を手に入れたばかりの新人なんて狙いやすそうだもんな。


 さて、と。今日はどうするか、だな。北の森に行くのは絶対だとして……ん?


 何やら、外から何か叩くような音がする。そういえば目覚めた時からずっと聞こえているな。


 部屋に取り付けられた窓を開け、外を見る。


 ……。


 はぁ?


 雨が降っている。

 そう、外は雨が降っていた。


 雨かよ。通りで薄暗いと思ったよ。


 しかし、雨かぁ。雨かぁ。雨だよなぁ。草原が広がっているような場所にある町だもんなぁ。雨だって降るよなぁ。今まで降ってなかったのがおかしいだけだよなぁ。

 雲一つ無いような晴天が続いていたもんなぁ。


 ……。


 どうしよう。


 当初の予定では北の森に向かうつもりだったけどさ。この雨の中、行くのか?


 ……。


 無理だ。

 えーい、予定変更だ。


 今日の出発は無しだ。


 あー、でも、そうなると今日はどうしようかな。草紋の槍を買ってしまったからお金が無いしなぁ。


 ……動き回ってもお腹が減るだけだし、今日はここで時間を潰そう。


 となればやることは一つ。


――[サモンヴァイン]――


 草が生えた。


 うん、魔法の実験だな。


――[サモンヴァイン]――


 先ほど生やした草と同じ場所に草を生やしてみる。新しく生やした草が押し出されるように最初の草の上に生える。


――[サモンヴァイン]――


 もう一度同じ場所に草を生やしてみる。さらに上に草が生えた。草に草が寄生しているみたいな状況だ。これ、唱え続けたら、どんどん上に伸びていくんじゃあないだろうか。


 で、これ、根っことかはどうなっているんだろうか?


 生えた草を引っ張ってみる。あっさりと引き抜くことが出来た。


 ……。


 そして床を見る。


 あ。


 木の床には線のようになった小さな傷が入っていた。引き抜いた草の裏側を見てみる。そこには白く細長い小さな根っこが生えていた。


 地面を抉って草が生えるのか。意外と凄い力だな。これ、上手く使えば、破壊が難しいようなものを削ることが出来るんじゃないか?


 ……。


 いや、まぁ、確かに可能かもしれないけどさ。小さな雑草のさらに小さな根っこだぞ。どれだけ使い続ければ削れるんだって話だよな。

 ……まぁ、頭には入れておこう。もしかするとこの知識が役に立つかもしれないしな。


 で、だ。今、考えるべきは、この草が食えるかどうかだ。いや、まぁ、床の傷はどうしようとか、ちょっとは考えるけどさ。でも、そこは重要じゃない。この程度の小さな傷なら――武器がこすっただけでも付くような、こんな小さな傷なら怒られないだろうし、そもそもバレないだろう。うん、重要じゃないな。


 しかしまぁ、この草が食べられるなら食料事情は随分と改善されるよな。うむうむ。


 でも、雑草を食べる、か。少し勇気が要るなぁ。


 えーい、ひょいパクッとな。


 雑草を口に入れる。噛む。


 うへぇ、うげぇ。


 口の中に苦みが広がる。


 ぺっ、ぺっ。食えたもんじゃない。これを食べるのは無理だ。いや、我慢すれば、なんとか……いやいや無理だ。

 どうにか灰汁を抜くか、マヨネーズや香辛料のようなもので無理矢理味を誤魔化さないと無理だ。


 雨は降り続いている。


 このギルドのエントランスは酒場みたいになってるけどさ、そこで何か料理を頼めないだろうか。いや、飲んだくれている連中に絡まれるだけか。


 となると、食べるためには外に出る必要があるけど、雨なんだよなぁ。空腹を我慢して、ここでゴロゴロするか?


 傘、欲しいなぁ。


 ……。


 草。


 そうだよ、草だよ!


――[サモンヴァイン]――

――[サモンヴァイン]――

――[サモンヴァイン]――


 うおぉぉぉぉ。


 俺は全力で草を生やしまくる。どんどん生やす。


 草を生やす。


 草を生やし続ける。


 生えた細長い葉っぱの草を集める。本当は乾燥させた方が良いんだろうけどさ。まぁ、大丈夫だろう。


 草を生やし続け、それを集め束ねる。


 そして、完成する。


 草を束ねた傘だ。骨になるようなものがないから、ふにゃふにゃで、ちょっと油断するとバラバラになりそうだ。だが、これをかぶれば雨は防げそうだ。


 意外と使えるじゃん、草魔法。


 雑草の傘をかぶり、外へ向かう。


 飲んだくれどもが俺の分からない言葉で叫んでいるが無視する。言葉の意味が分からんからな、気にするだけ無駄だ。


 しゅたたっとな。


 ギルドの外に出る。雨の勢いはそれほどでもない。雨よりも地面のぬかるみの方がやばいかもしれない。やっと少しなれてきたけど、まだまだ尻尾のある体で歩くのは苦手だ。

 こんなところで転けたら泥だらけで大変なことになるぞ。


 幸い、草の傘が雨をしっかりと防いでくれている。水漏れもしていない。急ぐ必要はない。転けないよう慎重に歩こう。


 雨の中、頑張って飯屋まで歩く。


 そして、何とか転けることなく無事に辿り着き、その日のご飯にありつくのだった。


 ……。


 明日は晴れると良いなぁ。さすがに二日連続雨だとお金がヤバい。後先を考えずに草紋の槍を買ったのが負担になっている。まさか、こんなことになるとは思わなかったからなぁ。

 あれだけワクワク期待していた草紋の槍の試し突きも出来ないしさ、本当に最悪だ。

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