034 魔法

 水を飲み、一息ついたリンゴがこちらへと戻って来る。


 あ、斧。


「リンゴ、これ」

 リンゴに真銀の斧を手渡す。なかなか優れた武器だったよ。是非、譲って貰いたいくらいだ。だが、まぁ、うん、このまま借り続ける訳にいかないし、まぁ、仕方ないよね。

「ああ、うむ。タマちゃんがやってくれたのだな」

 リンゴは大猪の死骸の方を見ている。


「リンゴが助けてくれたからです」

 リンゴが庇ってくれなければ俺は生きていなかった。勝つことは出来なかった。だから、二人の勝利だぜ。


 リンゴが歩き、落としていた荷物を拾う。青銅の斧、盾、背負い鞄。そして、その背負い鞄に真銀の斧と青銅の斧を改めて結びつける。

 そのまま俺のところへと戻ってきたと思うと、あぐらを掻いて座った。金属製の鎧を着たまま、しかも歪んで動きにくくなっているだろうに、器用なものだ。


「タマちゃん、少し休憩するのだ」

 リンゴがそう言いながら背負い鞄の中を漁る。そして、その背負い鞄の中からいくつか干し肉を取り出す。あ、食べ物。そういえば、さっき、リンゴはお腹の中を空っぽにしたもんな。朝食が外に出ちゃっていたもんな。うん、食べ物が必要だよな。

「タマちゃんも食べるのだ」

 リンゴがこちらへ干し肉を伸ばす。あ、すいません。ありがとうございます。食べ物のこととか全然考えていませんでした。いや、むしろ、倒した魔獣を焼いて食えば良いんじゃね? くらいに考えていました。


 あ、干し肉って焼いたら美味しいんですよ。知ってました? 火なら俺が用意しますよ。そのために火打ち石は持ってますからね。


 ……。


 えーっと、うん。


 まぁ、火を起こそう。


 そこら辺に生えている草を摘み、重ねる。えーっと、それで火打ち石ってどうやって使うんだ? よく考えて見れば火打ち石なんて使ったことなかった。普通の人生で火打ち石を使うことってあるか? あまり無いよな? えーっと、これ、叩きつければ良いのか?

 火打ち石を手に持ち、悩む。


 まぁ、いい。適当にやってみるだけだ。

 カチカチっとな。お、火花が飛び散る。これで火が点くのかな?


 だが、何度やっても火は点かない。


 おかしい。どういうことだろうか。


「タマちゃん、何をやっているのだ?」

 リンゴが干し肉を囓りながら、こちらを見ている。ずんぐりな鎧から人の顔が生えているのは何というか違和感が凄い。しかも容姿が良い分、余計に、だ。違和感が凄いッ! なれないなぁ。


「いや、えーっと、火を点けようかと……」

「止めるのだ。火事になるのだ! いや、それ以前に、水分を含んだ植物を燃やすのは難しいと思うのだがな」

 リンゴがちょっと呆れたような顔でこちらを見ている。あー、表情が分かるって素晴らしいなぁ、じゃない。何だってッ!? あー、火事か、考えていなかった。それに、水分か。言われてみれば……その通りか。火が点いて勢いが出てからなら関係無いのだろうが、最初の火花の段階なら乾燥させたものが必要だよな。


 俺はとぼとぼとリンゴの横に戻り、座る。干し肉を囓る。


 もそもそ。


 はぁ……。


 あー、そうだ、タブレットを確認しよう。この辺りのヌシを倒したんだから、がっつりレベルが上がっていてもおかしくない。


 俺はタブレットを確認する。確認しながらリンゴに話しかける。

「そういえば、何でリンゴは素顔を隠していたんですか? あー、えーっと、もちろん、言えない理由があるのなら無理には聞きません」


 レベルは、と。


 おお!



 レベル8

 称号:ボアキラー・ノービス・ごっこ勇者

 クラス:無し

 BP:4

 スキル:共通語3

     共通語書読1

     辺境語0

     獣人語0

     剣技0

     槍技0

     斧技0

 魔法:草2

    ・サモンヴァイン0

    ・グロウ0


 おお、称号が増えている。それに!


「ふむ。この外見の通りなのだがな。いや、タマちゃんは記憶が無いのだったな」

 リンゴが何かを言っている。ん? 何のこと?


 斧技が増えているのは俺が斧を使ったからだろう。やはり、それに対応した武器を使えば増えるようだ。これは予想通りだ。例えば、弓を使えば、弓技がって感じなんだろうな。


「私は竜人と人の親を持つ、半分の子なのだ」

 へー、ハーフなんだ。ちょっと蜥蜴ぽい瞳だなって思ったのは竜人の血が流れているからなのかな。竜人って種族は見たことがないけど、リザードマンみたいな蜥蜴に近い種族なのかもしれないなぁ。


 と、それよりも、だ。


 レベルだ。


 『8』に上がっているッ! BPも『4』だ。三も上がっていると思うべきなのか、あれだけ苦労して三しか上がっていないと思うべきなのか。

 ああ、そうだな。って、これ、どうしよう。


 BPが『4』だ。これだけ余裕があるなら、何かを上げてみるのも悪くない。候補は、槍技、草、魔法自体、だ。


 ここはやはり、魔法だな。

 魔法だよなぁッ!


「両種族から忌み嫌われる忌み子なのだがな……」


 魔法は興味がある。リンゴは魔法を使うことは出来ないと言っていたが、魔法にBPを振ってみれば使えるようになるかもしれない。

 だがッ!


 そう、だが、だ。ここで一つ考えることがある。今、出ている項目はサモンヴァインとグロウの二つだ。これは、多分、草が『2』になっているからだろう。つまり、草を上げれば魔法の種類が増えるかもしれない。サモンヴァインとグロウ、どちらも微妙そうな名前だ。多分、草を生やすのと成長だろうか?


 ……うーむ。


「あー、えーっと、はい。そうだったんですねー」

 さて、どうしよう。


「半分の子と呼ばれる忌み子は、その種族の力を強く受け継ぐ。例えば竜人との混血であれば、その生命力の強さ、毒などへの耐性、力強さなのだ。それらは元の種族よりも強く、なる。だが……」


 えーい、今は『4』もあるんだ。まずは草に振ろう。


 草を『3』に上げる。


 ……。


 予想通り、魔法が増えた。

 増えたのは……。


 ……。

 ……。

 ……。


 『シード』の魔法だ。えーっと、これって種、だよな。種って意味だよな。シールドとかじゃあ、無いよな。種を飛ばして攻撃する魔法だろうか?


 想像してみよう。


 ……。


 すっごい微妙じゃないか。あー、くそう、草って名前の通り、微妙なのしかない。


「はぁ……」

 仕方ない。サモンヴァインにでも振ってみるか。


 サモンヴァインにBPを『1』だけ振ってみる。


 あ、痛ッ!

 その瞬間、頭の中にチクりとした痛みが走る。だが、我慢できないほどじゃない。共通語書読スキルを覚えた時のような転げ回るような痛さじゃない。


 そして、その瞬間、理解する。理解した。


 魔法を、世界に存在する魔力を、その使い方を。


 使える。使えるぞ。


「だが、その代償として魔力を失ってしまうのだ。世界の仕組みから外れるのだ。それ故、半分の子は嫌われる。忌み子と呼ばれるのだ。つまり、忌み子は魔法が使えない、そういうことなのだ」


 さあ、魔法を使うぞッ!


 体内の魔力に呼びかけ、魔法を発動させる。そして、それは起こった。


――[サモンヴァイン]――


 魔法。


 草。


 俺が指定した地面から草が生えた。そう、草が生えたのだ。どう見ても、この周辺に生えているのとは違う種類の草。葉が細長い、いかにも雑草という感じの草。それが地面から生えた。


 あー、うん。


 言ってしまえば草が生えるだけの魔法だ。その名前の通りだった。


 だが、俺は、その魔法に感動してしまった。魔法だ。だって、本当に魔法だぞ。草という『命』を生み出したんだぞ。


 凄いッ!


 実用性は無いかもしれないけど、これは凄いことだ。


 感動した。

 本当に感動した。


 これが、魔法、か。


 ……。


 ……。


 あー、でも。でも、だ。こうなってくると火とか水みたいな魔法が使いたかったなぁ。贅沢なことだとは思うが、どうしたって欲は出る。


「た、タマちゃん、今、何をしたのだ?」

「へ? 草魔法を使ってみたんですけど?」

 何故か、リンゴが驚いた顔でこちらを見ていた。

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