1702話 領主と蔓喰

あまり集中できなかった……

何かにつけて「お茶です!」「それとも酒にしやしょうか!」「お茶うけです!」「肩をお揉みしやす!」「女ぁ呼びやしょうか!」ときたもんだ。


私を歓待しようとする気持ちは嬉しいんだが放っておいて欲しかった……好意を感じたもんだから、さすがの私も放っておけって言えなかったんだよ。


おっ、ドタドタと足音が聞こえる。帰ってきたかな。


「魔王さぁーーん!」


「やあヨーコちゃん元気っにっ!」


ぶほっ、いきなり腹に飛び込んできちゃったよ。いつ私にこれほど懐いたんだ?


「魔王さん魔王さん! 今回はありがとうございました! おかげで蔓喰は助かりましたぁーー!」


「それはよかったね。アラキ島を領主に献上したって聞いたから気になって来てみたんだよ。ヨーコちゃんがいいなら問題ないね。」


「はいっ! 全部魔王さんのおかげです!」


「どうも魔王さん。ようこそお越しくだすった。今回の件はあっしからご説明しやしょう。」


若者頭かしらだったな。名前は……うーん……


「簡単にでいいよ。ヨーコちゃんが納得してるならそれでいいんだからさ。」


「へい。実ぁあの後、エチゴヤの巻き返しに遭いやして。結構な大軍で攻めてきやがったんでさぁ。しかもアラキ島だけでなくテンモカとトツカワムの間の街、セニシーにまで手勢を送り込みやがったんで。」


「よく分からないが、セニシーってのはアラカワ領なのか?」


「そうなんでぇ。アラカワ領と隣のタニガイト領を分けるブンゴス川の西岸の街だぁ。そこにはウチのモンだっておりやすがね。一夜明けてみりゃあ、見事に制圧されちまったんでぇ。何とか逃げのびたモンの知らせを聞いてねぇ。こいつぁ一大事ってことであっしとゴッゾで人数引き連れて大急ぎで向かったんでさぁ。」


青紫烈隊バイオレッタとかいなかったのか? よく勝てたな。」


「ええ、ちったぁいやしたが、手強いやつぁあっしとゴッゾでどうにか仕留めやしてね。なんとかセニシーを奪回したってわけでぇ。」


青紫烈隊に勝つなんてやるじゃん。


「そうなるとアラキ島は?」


「へい。あっしらがそんな状況だったもんで島にぁ人手がさけなかったんでぇ。そこを助けてくだすったのがなんと領主様ってわけでぇ。」


闇ギルド間の争いに騎士団を投入したのか? 後先考えてない? 勝ったみたいだからいいけど負けてたら国辱もんだろ。この場合は領辱って言うのか?


「どんな風に?」


「海路を封鎖してくだすったんで。なんつってもアラキ島は名目上はアラカワ領なもんで。そんでカドーデラが獅子奮迅の活躍をしたらしく、すでに上陸したエチゴヤのモンだけぁ仕留めたってわけでさぁ。おっと、ビレイドも誓約魔法で元から島にいたエチゴヤの奴らを上手く使ったみたいでさぁ。」


なるほど。うまく立ち回ったわけね。闇ギルドを相手に騎士団が出動すると、場合によっては物笑いの種になったりもするけど。今回の場合は自領を攻められてるわけだし大義名分に問題ないよな。


「アラカワ騎士団はアラキ島に上陸はしなかったのか?」


「そうなんで。さすがに白昼堂々闇ギルドと共闘するわけにゃあいきやせんわなぁ。あぁ、でも海からの増援分はエチゴヤの船が領主様の御座船に触れたって理由で全滅させたみてぇですぜ?」


「おおー。さすがに容赦ないな。ならしばらくは問題ないな?」


「そう思いやすぜ。ところで魔王さん今夜の予定は?」


「悪いな。夕方までにはイカルガに戻らないといけないんだ。ここにはあれこれ用事が済んだらまた来ると思う。」


「えー! 魔王さんそんなぁー! せっかく来てくれたのにぃー! まだ何にもお礼できてないんですよ!」


「ごめんねヨーコちゃん。また来るからね。」


「はぁい……あっ! それから迷宮の踏破おめでとうございます! ドロガーさんが一緒だったからなんて言う人もいるけど! 僕は分かってますよ! 魔王さんがいたからですよね! さすが魔王さんです! すごいです!」


「はは、ありがとう。あれはみんなの力だよ。ドロガーだけでも、僕だけでも無理だったと思うよ。みんなの力、ヨーコちゃんならよく分かってるはずだよね?」


「は、はい! その通りだと思います! うわぁやっぱり魔王さんの言うことって深いですね! 僕あこがれちゃいます!」


普通のことしか言ってないよ。この子だまされたりしないよな? カシラやゴッゾがいるから大丈夫か。いや、ゴッゾはだめだ。頼れるのはカシラだけだろうな。


「これからも力を合わせてがんばってね。」


「はいっ! 魔王さんもまた来てください!」


こんな小さな子に、闇ギルドの運営がんばってね、とは……私は何てむごいことを言っているんだ……


「カシラもまたな。ゴッゾによろしく。」


「へいっ! この度はとんでもなくでっけぇ借りができやした! 本当にありがとうございやす! あっしら蔓喰つるばみ一同! 魔王さんの偉業を語り継いでいくつもりでさぁ! おうおめぇら! 整列だぁ!」


またこのパターンか……


入口の両サイドに人垣が……


「魔王さん! 城門までお送りします!」


そう言ってヨーコちゃんは私の手を握ってきた。キアラみたいでかわいいな。キアラより何歳下だっけ? 三つか四つぐらいかな。


「じゃあ行こうか。」


「はいっ!」


「行ってらっしゃいやし!」

『行ってらっしゃいやし!』


あれ? カシラは来ないの? ヨーコちゃんは帰りどうするんだ? いくら何でも城門からこんな裏通りまで一人で歩かせるわけには……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る