1691話 無法者カース

ここだな。エチゼンヤ商会。へー、本店って書いてあるじゃん。つまり方々の街に支店があるってことか。手広くやってんだねぇ。周囲の建物の比べても一際大きいし。


「いらっしゃいませ。何をお求めでしょうか?」


店内に入ってみて驚いた。ここは武器屋か。いや、防具もあれこれ揃ってる。ポーション屋じゃなかったのかよ。


「あぁ気にすんな。見てるだけだぁ。気に入るもんがあったら買うぜぇ?」


そっちはドロガーに任せよう。私の用は別だ。


「番頭を出してもらおうか。」


「は? いやいやお客さん、いきなりそんなことを言われましても無理ってもんですよ?」


「変だな。天都イカルガにいるって聞いてるぜ? 大番頭のカンダツ・ユザがよ。」


カンダツ・ユザ。シーカンバーのナマラの旦那、アンデッドになってまでナマラを忘れなかったクロマが船に刻んだ名前だ。天都イカルガにいて、エチゴヤ四番頭のトップに立つ大番頭だとな。


「お客さぁん、わけの分からないこと言わんでくださいよ。うちの番頭はそんな名前じゃありませんよ?」


「じゃあその番頭でいいよ。呼んでくれよ。」


「だーかーらー、無理なもんは無理ですって! あんまりしつこいと騎士さん呼びますよ?」


なんてまともなことを言うんだ……まるで私が無理難題を吹っかけてる無法者みたいじゃないか。エチゴヤとつながってるくせに生意気な。


「それなら仕方ないな。あ、そうそう。この前さ、薬屋のトヤクヤに借金の取り立てに行った三人だが今どうしてる?」


「はあ? なんでそんなこと知って……てめぇかぁ? あの三人が帰ってこねぇのは……おまけに借用書までねぇしトヤクヤはすでに金は返したの一点張りだしなぁ!」


おっ、やっと本性を表したな。カッコつけて商売人ヅラしてんじゃないぞ? 所詮は闇ギルド関係者のくせに。


「知らんな。俺がトヤクヤで楽しく買い物をしていたら邪魔してきた三人組なんてな。あ、そうそう。薬屋は確かに三千万ナラーぐらい渡してたなぁ。そして借用書も受け取ってたし。じゃ何か? その三人はその金を持ち逃げしたってのか? 三人だもんなぁ。仲良く一人一千万ナラーずつか。あーあ、追い込みがんばれよ。」


「てめぇ……何を知ってやがる? おう! てめぇら出てこいや!」


おっと、奥からゾロゾロと悪そうな奴らが現れたな。いつも通り。


「なんだぁ? お客様に何やってんだぁ?」

「んだぁ? 揉め事かぁ?」

「あー眠ぅ……」


いつも通りじゃない。やる気が感じられない上に服装に闇ギルド感がない。とても普通だ。


「おーいドロガー、助けてくれよー。イジメられそうなんだがよー。」


「あぁ? 何わけ分かんねぇこと言ってんだぁ? おうてめぇらよぉ。この俺の顔ぉ知らねぇたぁ言わねぇよなぁ?」


ドロガーの威を借る私? 違うな。利用できるものは利用するだけの話だ。面倒なことをドロガーに任せただけとも言う。


「傷裂ドロガーか。エチゼンヤ商会に来といてでけぇツラぁしてっと長生きできねぇぞ?」

「なんぼ五等星だぁつっても所詮は冒険者だからなぁ? ウチぃ敵に回すと生きていけんよぉなるぜ?」

「そーそー。帰った帰った。安全第一でいこうぜー?」


へー。こいつらドロガーでも容赦しないんだな。


「仕方ないな。帰ろうか。」


「あ? いいんかよ。そりゃ俺ぁ別に構わんけどよぉ……」


「ああ帰る。じゃあなお前ら。邪魔したな。また会おうぜ?」


「ほぉ……せいぜい長生きできっといいなぁ?」

「命は一つだからよぉ? 大事にしろよぉ?」

「俺らの仕事増やすんじゃねーぞー」


ふーん。えらく余裕こいてやがるな。そこまで腕が立ちそうには見えないが……




さて、店を出たら次は……


「えらくあっさり引き下がったじゃねぇか。いいんかよ?」


「よくはないけどな。まあどうせ近いうちにまた会えるだろうよ。そんじゃ次は天都の中でも治安が悪いところに連れてってくれよ。」


「あー、中にぁねーけど近くにならあるぜ。」


「じゃあ行こうぜ。」


「あんま行きたくねーけどよぉ。あっちはくせぇんだよなぁ……」


「えー? 臭いのぉー? ウチやだー!」


クロミ、やっと喋ったかと思えば……私だって嫌だよ。


「あーじゃあだいたいの場所だけ教えてくれたらいいわ。後は二人でデートでもしとけよ。」


「おっ、そうかぁ? いやー悪ぃなぁ。どうよクロミ? デート行こうぜ!」


「えー? じゃあニンちゃんも行こーよー。わざわざ臭いとこなんか行かなくてもさぁー!」


そう言われればそうなんだけどさー……

だいたい私がいたらデートにならないだろ。


「悪いな。そうもいかないんだよ。二人で楽しんできな。」


だってローランド人奴隷を探さないといけないんだからさ。天都イカルガにも結構たくさんいるって聞いてるしな。


「えー、つまんなーい! ニンちゃんも来てよぉー!」


「しゃーねーなぁ。近くまでぁ案内してやんよ。それからデ、デートしようぜ、な?」


「まー、いいけどぉ……」




それから三人で城門へと向かう。


「次!」


この門番の騎士に見覚えはないな。色んな奴がいるもんなぁ。


「ほらよ。」


「冒険者か。なっ!? き、傷裂ドロガー!? ブラッディロワイヤルの!? お目にかかれて光栄だ。どうぞお通りを。」


「おう。」


ドロガーに任せておけば楽でいいよなぁ。私とクロミもほとんど素通りだし。


城門を出て右に歩く。方向的には西か。




「ほれ、あの先だ。見るからに汚ねえ建物ばっかだろ?」


全然近くないし……結構歩いたぞ。


「あー……もう分かった。わざわざありがとよ。」


いかにもスラムって感じだなぁ。オワダのシーカンバーの家を思い出すな。なんだかあそこより暗そうだな。


「じゃあ後でな。夕方にぁ帰ってくんだろ?」


「ああ。もし夕方までに帰らなかったらここら一帯を丸焼きにしてくれ。」


「分かったしー。丸焼きにするねー。」


「無茶言うな……魔王に不測の事態なんて起こるかよ……」


一応保険ぐらいはね。だって一人なんだもん。せめてコーちゃんに付いてきてもらうべきだったか。


「じゃあ後でな。デート楽しめよな。」


「おうよ!」


「もぉー……ニンちゃん早く帰ってきてねー!」


よし。では、いざスラムへ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る