1683話 目覚めの時
やれやれ。どうにか日没までにイカルガに戻ってこれたぞ。城門に入る行列がそこそこ長いなぁ。今の私は一人だから貴族用の門から入るわけにもいかないしなぁ。待つしかないか。
よし、やっと順番がきた。
「次!」
「ほれ。」
ギルドカードと賄賂の千ナラー。私も気ぃ遣いだなぁ。
「ん? 十等星か? ふん、しけてやがる。さっさと通れ!」
「ちっ、腐れ騎士が……」
賄賂を平然と受け取る門番のくせに生意気な口ききやがって。
「待て貴様ぁ! 今何と言ったぁ!」
なんだよ。しっかり聴こえてやがったか。無駄にいい耳してやがる。
「なんだ。聴こえなかったのか? 腐れ騎士だけに耳まで腐ってるな。」
「たかだか十等星の底辺冒険者がぁ! よくもそのような口をぉ!」
「おいおいルピタどうした? まあ落ち着けよ」
「さくさくやろうぜ。さっさと終わらせて飲みに行こうぜよぉ?」
「ルピさぁん、持ち場に戻ってくださいよぉ……」
おお、他の騎士は意外とまともだな。
「貴様の顔は覚えたからな! 次にここを通る時が楽しみだなぁ? 覚悟しておけ!」
嘘だな。自分で言うのも悲しいが私の顔は普通。どこにでもいる顔とよく言われるだけあって一目見ただけで覚えられるはずがない。しかもこいつは私を底辺冒険者だと認識してやがる。まあ、覚えてたら覚えてたで面白くなりそうなんだけど。さて、宿に帰ろう。アレクが待っているからな。ここから歩いて三十分てところかな。途中で何かお土産でも買うのもいいかと思ったが、どう考えても私がさっさと帰った方が何よりのお土産だよな。
「ピュイピュイ」
コーちゃんもそう思うよね。少し早歩きしようかな。特に胸騒ぎがするってわけでもないけどさ。
よし到着。うんうん、どう見ても問題なんか起きてない雰囲気だね。
「おかえりなさいませ」
宿の従業員が挨拶をしてくる。
「ただいま。ドロガーは部屋にいる?」
「いえ、昼過ぎにお出かけされまして、まだお戻りになっておられません」
「そっか。ありがとよ。」
ドロガーに大事な用があるってわけでもない。ほんの少し聞いておきたいことができただけだ。
私たちが泊まっている部屋。その扉を開けようとしたら、あっちから開けられた。開けたのはもちろんアレクだった。
「ただいま。大丈夫だった?」
「おかえりなさい。それはこっちのセリフよ。ノルドフロンテに日帰りだなんて。きっと勇者ムラサキでも不可能だわ。」
「はは、問題なかったよ。ところでお腹すいてる?」
そろそろ夕方だからね。
「ガウガウ」
アレクのすぐ後ろでお座りをしていたカムイが先に返事をする。それより、昼間は退屈だったから後で散歩に行かせろ? そりゃあ構わんが、まだ待てよ。真っ暗になってからな。
「私はそこまででもないわ。先にお風呂にしない? カースは疲れてるでしょ?」
「そうだね。まずはのんびりしよっか。」
体は疲れてないけど、気疲れって言うのかな。やたらお使いをさせられた気分だし。
かぽーん。なんて音はしないがいい湯だな。やっぱ宿が高級かどうかの目安は風呂だよな。
さて、今日の出来事をアレクにも話しておいた。アレクは宿でのんびり本を読んでいたそうだ。
「ねぇカース。明日は何をするの?」
「明日はね、ドロガーに相談してからかな。ほら、拐われたローランド人の件でさ。」
「やっぱりカースね。忘れてたわけじゃないのね。それでこそローランド王国貴族だわ。本当に素敵……」
普通の貴族は自分とこの領民でない限り拐われても放置だよな。自領民が拐われても放置する奴は多いだろうし、積極的に輸出する奴も多いんだろうなぁ。アレクが言っているのは本物の貴族のことだな。自領のことだけでなく、王国全体の目線で考えることのできる貴族。何人いるんだろ。私は平民だってのに。あ、でも母上ったら身分は平民でも心まで平民に落ちるなって言ってたな。うーむ……深いね。
私は別に王国のことを考えてるわけではない。ただ無辜の民が傷つけられているのは気に入らないし、それ以上にローランド王国が舐められているのが気に入らない。うーんこれって王族の思考か? いや、愛国心かな? まあいいけど。要は私が気に入るか気に入らないか、それで物事を判断して何も悪くないってことだ。
「んむっ……」
アレクはゆっくりと私に向き直り、唇を奪ってきた。舌を絡め、吸い尽くすかのように。
ん? 風呂の扉が開いた。カムイか? いいところなんだから邪魔すん……
「あ、あの、だ、だれ……?」
なっ!?
「アーニャ……目覚めたのか?」
「えっ、だれ……っ、
やはり私が分かる……のか? 明らかに確信を持った言い方だ。
「少し待て。外に出ておいてくれ。」
「あっ、う、うん……」
気まずそうに扉を閉め、姿を消したアーニャ。いや、たぶんアーニャではない。きっと……
「ごめんね。先に出るよ。アレクはゆっくりしてていいからね。」
「え、ええ……カースこそ私に気を使わないでいいから……ゆっくり話してあげて。」
アレク……そんな寂しそうな顔で言うなよ……
私まで寂しくなってしまうぞ。
『乾燥』
『換装』
「ガウガウ」
あぁ、寝室で目を覚ましたあいつはカムイを目の前にして驚いたのか。だから浴室まで案内したってわけね。気が利くのかそうでないのか……
「待たせたな。」
「和真ぁー! あうっ……」
いきなり飛びついてきたが、まだだ。自動防御は解除していない。
「お前の名前は? それから俺の名前も言ってくれ。」
「あ、そ、そうよね……いきなりこんなこと言って、信じられるわけないよね……私は中村 綾子、あなたは
間違いないのか……念のためにもう一つ……
「初デートの時、俺は何を踏んだ?」
「知らないよ。右足をグネッたとか言ってたけど、何を踏んだかは教えてくれなかったじゃん……いいからいいからとか言って……」
あれ? そうだっけ? 自分でも忘れてる質問しても意味ないな。えーとえーと、それなら……
「逆に質問。和真はなぜ……なぜあんな道を通ったの? どう考えても危ないのに……馬鹿……」
「むしゃくしゃしてたんだよ。クソみてぇなモンスターのせいでな。峠を攻めるってやつをやってみたかったんだ。したこともないくせに……」
「そう……馬鹿な和真……ねぇ、抱きついたらだめ?」
「あ、ああ。悪い、いいよ……」
『自動防御解除』
「和真ぁぁぁぁーーーー!」
「和真和真和真ぁーー!」
「会いたかったんだから!」
「なんで死んだのよ! 馬鹿馬鹿ぁー!」
「やっと! やっと会えた!」
「もう離さない!」
「和真ぁぁーー!」
私にしがみつき、泣きじゃくる綾子。
結論が出てしまったな……
アーニャが本当に綾子だったらどうするか、私の胸に去来していた様々な想い。それが今、形になった……
私は……
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