1670話 その男キミヤ・クドウ

クロミのところに醤油樽が運ばれた。


「へぇー、いい匂いするしー。人間にしてはやるしー。あっりがとねー!」


クロミのやつ……何も考えてないのかよ……

私も人のこと言えないけどさ……

別にクロミがダークエルフだと知られても不都合なんかないからいいけどさ。


「ところで、そちらの女性二人が気になっているのだが。彼女らも踏破したメンバーなのだろう?」


クロミの発言はスルーしたようだな。


「そうだが、それがどうかしたか?」


「煌めく金のおぐしが美しい方、私はここ、天都イカルガで赤兜騎士団の騎士長を務めるライコウ・ロクジョウ。名をお聞きしてもよろしいだろうか?」


この野郎……アレクに何の用だ?


「改めて名乗っていただかずとも覚えておりますわ。私はアレクサンドリーネ・ド・アレクサンドル。私の父も騎士長を務めておりますわ。」


「あなたほどお美しい方を見たことがありません。どうかあなたをエスコートする栄誉を私にいただけないでしょうか?」


この野郎……私の目の前で何を言ってやがる……

いい歳こいてこの野郎……見た感じだと三十代前半だがこの野郎……


「残念ながら無理ですわ。私はこちらの魔王カースと将来を誓い合った身。例えローランド王国国王陛下の勅命であろうとも我が意を曲げることはあり得ません。」


そう言って私の腕に腕を絡めてくるアレク。ぬふふ。好き。もう大好き。


「それは残念だ。そうか、ローランドの。ようこそヒイズルの都、天都イカルガへ。天王陛下との面会までまだ時間があるのでぜひとも楽しんで欲しい。できることならパーティーにも招待したいものだ。それぐらいならばいいだろう?」


そう言って私を見た騎士長。実はそっちが狙いだったんじゃないのか? しかもこっちの情報をこつこつとゲットしやがって。別に隠すことじゃないからいいけどさ。いいけど、こいつは油断ならない野郎だな。


「それならば断る理由もないな。宿に連絡をくれたらいい。」


「分かった。近いうちに招待させてもらおう。何せ史上初のシューホー大魔洞の踏破者達だからな。お近付きになりたい者は大勢いるだろうさ。」


そこら辺はドロガーに任せておけばいい。


「分かった。じゃあ今日のところは帰っていいな?」


「ああ。今日はよく来てくれた。またの会う日を楽しみにしている。アレクサンドリーネ嬢もな。」


この野郎……

大抵の男がアレクを見る時は目から隠しきれない欲望が漏れてるものだが……こいつの目からは……

何の感情も見えてこない。冷たいというわけではない。ただ、普段通りに振る舞っているだけって感じだ。やはり若くして騎士長にまでのし上がる男ってのは違うものか。


「お待ちください! こやつらをこのまま帰すわけにはいきません!」


土縄の向かい側に並んでた五人のうち残った一人が何か言い出した。


「クドウか。ならばどうする?」


「知れたことです! 私一人でこやつらに目にものを見せてくれます!」


「すでにこの場では終わった。続けたいのならば自分で場を作り上げてみるがいい。」


「ありがとうございます! お任せください! 赤兜親衛騎士団の名誉は私が奪還いたします!」


何やら騎士長とあれこれ話しているようだが……こっちはもう帰る気満々なんだよな。


「貴様ら冒険者よ! この私と戦う勇気はあるか! あるならばかかってこい! 親衛騎士団第三席、キミヤ・クドウだ!」


かかってこいって言われてもねぇ……


「ドロガー、相手してやれよ。」


「嫌だっての。魔王こそやりゃあいいだろ。適当に金ぇむしり取ってやれや。」


「仕方ないな。おいお前、金は持ってるのか? 賭けるんならやってもいいぞ?」


「所詮は下賤な冒険者か! 言え! 貴様の望む額で受けて立ってやる!」


「じゃあ一千万ナラーでいい。別に手持ちに無いなら無いでいいぞ。」


「なっ!? 一千万ナラーだと!? 大口を叩きおって! そう言えばこちらがひるむとでも思っているのか! いいだろう受けてやる! 土縄に上がるがいい!」


受けてやるって……そもそも言い出したのはお前だろうに。


「なあ騎士長。こいつはこう言ってるが、払えるのか? こっちはこの通りちゃんと持ってるが。」


そう言って現金を見せる。さすがに重いな。


「ふざけるな! その程度の金ぐらい持っておるわ! 騎士長! 早く始めてください!」


私は騎士長に質問したんだがな。


「じゃあ約束な。賭けるのは一千万ナラー。もし払えなければ借金にしてやるよ。」


「ふん! いいだろう! さあかかってこい!」


契約魔法は使ってない。さすがに今日はこれ以上手の内を晒すべきではないからな。


「ではよいな? 構えぃ!」




「始め!」


『徹甲弾』


「効かん!」


そうでもないぞ?


『徹甲連弾』


「うぐっ……くっ!」


ムラサキメタリックの盾か。初弾は見事に弾いたが、間断なく撃てばどうなるかな?


『徹甲連弾』


「ぐっうおおおおーー!」


終わりだ。いくら防ごうとも完全に受け流さない限り衝撃は残る。そうやって徐々に後退させ、ついには場外に落とした。よくこいつこれで私に勝てるつもりだったな?

いい盾持ってることだし一発防げば後は間合いを詰めて勝てるとでも思ったのか? 普通に考えればあの魔法は一発撃つだけでもかなりの魔力を消費するからな。ましてや連発は相当に難易度が高い。

結局また一つ手の内を晒してしまったわけか。いいように踊ってしまったかな?


「さて、約束の金をいただこうか。」


赤兜は生意気にも意識がある。全方位から徹甲弾を当てたが中身は無傷だろうしね。


「くっ……持っていけ!」


おっ、すんなり払うのね。さすがに騎士だけあるね。つーかこいつらの年収ってどれぐらいあるんだろうね。父上の騎士時代や近衛騎士である兄上がどんだけ稼いでいるのかすら知らないってのにさ。


さて、これで財産が四千万ナラーになったぞ。では帰るとしようか。どうにか魔力は持ったな。残り二割ってとこか。やれやれ。

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