1656話 ギルドあるある

「どういったご用でしょう」


この受付嬢ってマジで冷たい目ぇしてんな。仕事する気あるのか?


「登録を頼む。今の奴と同じくドロガーのパーティーメンバーだ。」


「いくらブラッディロワイヤルのメンバーでも十等星からの開始となります。ではこちらにお名前を記入してください」


そりゃあ他国のギルドなんだから当然だよな。


氏名、出身、所属パーティー。書けるのはこんなところか。特技や使用武器なんかは書く必要ないな。


「では登録料一万ナラーいただきます」


あっ、しまった。金がない。こんな時は……


「おーいドロガー! 金くれ!」


「おー! 悪ぃ悪い! 忘れてたぜ。ほらよ!」


一万ナラーの木札が飛んできた。


「これでいいな。」


「……いいでしょう……忠告しておきますが本来五等星とは軽々しく口をきける相手ではありません……寄生もほどほどにした方がいいですよ……」


ふーん、冷たいどころか見下す目になりやがった。


「お前には関係ないことだ。それから素材を売りたい。どこに出せばいい?」


大きなお世話だってんだよ。


「買い取りはあちらの窓口へどうぞ」


あれか。


「ありがとよ。」


こっちの窓口はごっついおっさんか。ギルドあるあるだな。




「買い取りを頼む。ちょっと量が多いから倉庫かどこかに直接出したいが。」


「あぁん? 寄生ヤローがでけぇ口ぃきくじゃねぇか? 出してみろよ。何があんだぁ?」


こいつもかよ。


「出してもいいが後のことは知らんぞ? お前が言ったんだからな?」


では魔力庫どーん。


おっ、こんだけの重さなのに床が壊れてない。辛うじてひび割れで済んでる。石造りでよかったね。その代わり窓口のカウンターは壊れたけど。


「あ……なっ……こ、これ……」


虫喰岩むしくいいわって言ったか。見ての通り解体はしてない。この場合は一割引かれるのか?」


「むしくい……いわ? あっ、ああ……」


「ドロガーからはいい値段で売れるって聞いてるぜ? おっと、そうそう。イワミミタケもあるぞ。ほれ。」


「いわみみ……たけ?」


「いい値段付けろよ。」


私としては別に売らなくてもいいんだよね。イワミミタケはコーちゃんが気に入ってたし。


「ち、ちょっと待ってろ……」


「ところで天都にはテンモカの豊穣祭の情報は入らないのか? ずいぶん前の話だと思うが。」


「ああ? 入るに決まってんだろが」


「優勝者の名前をしっかり思い出してから査定しろよ?」


「はぁ?」


後はお任せだな。私だって飲みたいんだよ。コーちゃんが待ってるし。




「待たせたな。飲もうぜ。」


「ばーか! 俺ぁもう飲んでるってんだよぉ!」


「ピュイピュイ」


え? 意外といい酒があるの? コーちゃんのおすすめは……おぉー琥珀色。ヒイズルの酒って日本酒みたいなのが多かったんだけど。これは珍しいな。どれどれ、おっ、旨ぁーい!

枯れた野草を燃やした時のような心地よい香りがする。その上なんだかよく分からない甘さ。どことなくスペチアーレ男爵の酒を思い出すなぁ。これは絶品だわ。


「おいドロガー。これかなり旨いな。どこの酒?」


「へへへぇ、こいつはよぉヒイズルの北東マゾエ村の酒でスゴウ・ゼミョウってんだぁ。どうよぉ。うめぇだろぉ?」


「ああ、かなり旨い。これはいいな。ほれドロガー、乾杯しようぜ。」


ちょっと遅いけど、まあいいか。


「おーう! 魔王に乾杯だぁー!」


「お前本当はクロミに乾杯だろ。」


「それを言うなよぉ。ったくよぉ。おうてめぇら! こいつぁローランドの魔王だぁ! ぜってぇ揉めんじゃねぇぞ!」


揉めるなと言って素直に従う冒険者なんているのか?


「あぁ? てめぇドロガーさんの何よ?」

「ローランドぉ? 魔王ぉ? ドロガーさん正気っすかぁ?」

「おーおー? 洒落た服着てやがんぜこいつぅ? どこが冒険者だってんだぁ?」

「ぎゃはははぁ! ドロガーさんどうやってこんなん連れて迷宮を攻略したんすかぁ!?」


うーん。清々しいほどいつも通り。こいつらシューホーの神のアナウンスを聞いてないのか? それとも頭が悪いだけか? まあいいや、やっぱ冒険者ってこうでないとな。国は変われど冒険者は変わらず。素晴らしいことだな。ドロガーは無視かよ。火を点けるだけ点けやがって。悪い奴め。


さて、それはそれとして……


「お前ら金は欲しいのか?」


今現在、私は一文なしだけどね。


「はぁ!? てめぇ何言ってやがんだぁ!?」


「おうそこのお前。この魔王はめちゃくちゃ金持ってやがんぞ? 一億や二億なんて目じゃねぇからよぉ。どうよ、狙ってみっかぁ?」


あらら、無関心面してたドロガーがいきなり口を挟んできやがった。さては面白がってるな?


「マジっすか!? つーか魔王って何なんすか!?」


「そんなこたぁどうでもいいんだよ。俺なんざこいつからポンと一億ナラー貰っちまったんだからよ?」


間違いではないな。今は一文なしだけど。魔力庫内に残ってた現金二十億いくらと、エチゴヤから奪った金銀財宝も全てなくなったもんなぁ。


「はあっ!? 一億ナラーっすかぁ!?」

「てことはこいつ……ドロガーさんを金で雇ったってだけかぁ!?」

「そうやって迷宮を攻略したってのか!?」

「やっぱ金に物ぉ言わせた寄生ヤローかよ!」


あらら。ドロガーめ。完全に遊んでやがるな? 別にいいけど。


「で、お前らは金が欲しくないのか?」


さあ、小遣い稼ぎの時間といこうか。

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