1655話 天都イカルガのギルド

出された料理をあらかた食べ尽くした頃、ドロガーも酔いが回ったらしい。


「おっし、そんじゃあ行くぜぇ。」


「ん? どこに?」


いきなり何言ってんだこいつ?


「ギルドに決まってんだろぉ。お前ギルドカードもねぇんだろぉ? それにキサダーニだって連絡取りてぇ時があんだろうぜ?」


「あー、ここでギルドカードを作っておくわけな。どうせどこかで登録しておこうと思ってたし。ちょうどいいか。」


キサダーニか。あいつも天都にいるのかな?


「ピュイピュイ」


コーちゃんはもう少し飲みたいんだね。なら私もまだここにいるとも。もう離れないよコーちゃん。


「ガウガウ」


カムイもそう思うか。


「まあ慌てるなよドロガー。もう少し飲もうぜ。」


「魔王がそう言うならいいけどよぉ。おい赤兜ぉ、お前大丈夫か?」


「ああ……もう大丈夫だ……」


「さっきのは衝撃波が飛んだように見えたけど、アレク知ってる?」


私は知らない。風球の衝撃強めバージョンって感じだったなぁ。


「うーん、風系の魔法のように感じたわ。でも発動も早いし軌道も見えなかったわね。どことなく、いつかのフランツウッド王子の魔法を思い出すわね。」


あー……いつだったか対戦をしたよなぁ。確かにあの野郎の魔法は感じにくかった気がする。いや、感じにくいというよりは見えないだったか。まあ、風の魔法だから見えなくて当たり前だけどさ。


「王子だぁ? ったくよぉ……で、赤兜ぉ。魔王と女神ぁこう言ってるが騎士長がやったこたぁ分かってんのか?」


「いや、分からん……剣圧との噂もあるが……」


所詮は噂だな。身動きすらしてなかったからな。まあちょっと特殊な魔法ってとこか。私が風球を使えば同じことはできる。いや、もっと高威力になるわな。注意すべきは発動の早さぐらいかな。


「ピュイピュイ」


おっと酒がなくなったね。追加の注文をしようか。いや、それとも……ついでだから河岸を変えようか。


「ドロガー、ギルドには酒場もあるだろ?」


「おう。もちろんあるぜ。ここよりいい酒があるたぁ思えねぇけどなぁ?」


「構わんさ。どうせ行くんだし。それに冒険者や赤兜を集めてバカ騒ぎしたいだろ?」


「当然だぜなぁ。こんな時に騒がねぇでいつ騒ぐんだってんだ。おし、行くぜぇ!」


「私は先に宿に行っているわね。アーニャのこともあるし。カースは楽しんできて。」


アレク……なんてよくできた言葉を……

だが、私がさっさと帰るかどうかはコーちゃん次第なんだよな。こればっかりはコーちゃんに合わせるさ。コーちゃんと一緒に飲めることがどれほど幸せか……


「ガウガウ」


おおカムイ。なんて嬉しいことを。本当はコーちゃんと一緒にいたいけど、アレクとアーニャの警護をしてくれるんだな。お前もいい子だぜ。


「ウチも宿に行くしー。ちょい疲れたしー。さっさと寝るぅー。」


クロミも腹が膨れたら眠くなったのかな。私は意外にまだ眠くないんだよな。今の時刻が昼過ぎだからだろうか。まあいいや。コーちゃんが満足したら私も帰ればいいや。正直コーちゃんが酒を飲む姿を隣で見ているだけで癒されるんだよなぁ。本当にまた会えてよかったよ。


「ピュイピュイ」


ふふ、コーちゃんも? 私に二度と会えなくなるかと思った? そうだね。本当にそうなるところだったね。二度とどこかに行かないでね、コーちゃん。


「ピュイピュイ」


「よし。じゃあギルドに行こうか。場所は分かるんだよな?」


「おう。イカルガのことなら任せとけや。」


それから私はアレクに軽く口付けをして別行動をとった。アレクとアーニャ、そしてクロミとカムイは宿へ。私とドロガー、それから赤兜はギルドへと。




ほう。ここがギルドか。さすがにクタナツギルドよりは大きいが領都のギルドほどではない。でも看板がなければとてもギルドには見えないな。木造の三階建てに屋根は茅葺きか。扉は開けっぱなしになっている。


「そんじゃあ入るぜ。赤兜も登録しとかねぇとよ。」


「ああ……」


そしてズカズカと立ち入るドロガー。


「おう! イカルガの野郎どもぉ! ブラッディロワイヤルの傷裂ドロガーが帰ってきたぜぇ!」


立ち入るや否や大声で周囲を威圧にかかったドロガー。反応は……


「ドロガーだぁ……?」

「シューホーを踏破したって話だが早すぎねぇか?」

「シューホーからここまで早くても三日はかかるよなぁ?」

「いや、でもありゃあ間違いなく傷裂だぜ?」

「たった三人でかぁ? いくらあのドロガーでも無理じゃねぇか?」


「おうてめぇら! ガタガタ言ってねぇで飲むぞ! 俺の奢りだからよお! おらぁさっさと酒場に集まれやぁ!」


「マジかよ! うひょおー!」

「こいつぁいいや!」

「さっすが五等星だぜぇ!」

「飲み放題かよ! やったぜ!」

「よっしゃあとことん飲むぜぇ!」


「そんじゃあ魔王に赤兜ぉ。俺ぁあっちで飲んでるからよ。さっさと登録してこいや。」


「おう。後でな。」

「ピュイピュイ」


コーちゃんはドロガーの首に巻き付いた。欲望に正直なんだから……コーちゃんの浮気者!


「先に行くぞ……」


「構わんよ。」


別に急ぐことではないからな。どうせ誰も並んでないし。


赤兜の登録が終わったか。次は私だ。

うわ、この受付嬢えらく冷たい目ぇしてんなぁ。なんと言うか、新人をめちゃくちゃ見下してる感じ? 使えない奴に価値がないとか思い込んでそう。


まったく、今日は記念すべきヒイズルでの冒険者デビューなんだから。言わば新しい日々の始まり。つまり新しい年。新年と言っても過言ではない。今年の抱負は……生き抜くことかな。アレクやコーちゃん、そしてカムイとともに。

もう一月後半だけど……

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