1367話 夢の雫のなれの果て
「会長、あなたヒチベって言ったわね。どうやってヤチロに攻め込む気だったの?」
おお、アレク! 頼んだぞ! 私は何も考えてなかったんだから!
「ふっ、どうもこうもないさ。我ら一堂が夜陰に乗じてヤチロの領主邸に攻め込むだけのこと。アカダだけでも領主の居場所まで侵入できれば勝ったも同然だ。」
へー。スパラッシュさんみたいなこと言うじゃん。ん? じゃあ番頭は元殺し屋なのか? 興味ないから聞かないけど。
「じゃあ狙いは領主の命なのね? クラヤ商会はいいの?」
「そっちもどうにかしたいとは思っているが……領主だけでもギリギリといったところだからな。もっとも、領主がいなくなればクラヤも長くないだろう。」
「なるほどね。じゃあ素直に配下になったご褒美にヤチロまで連れてってあげるわ。カース、いい?」
「もちろんいいよ。今日はダメだけどね。」
魔力庫の残量的にね……こいつら大人数だし。
「我らの仲間は四十七人もいるのだが、一体どうやって? 先ほどは宙に浮いていたようだが……まさかこれほどの人数を?」
「カースなら容易いことよ。いつここを出発する予定だったの?」
「一週間後だ。今から三日後、ここから南の街道をクラヤ商会の商隊が通る。そいつらの荷には武器が入っているそうだからな。それを奪ってからの予定だった。我らの武器はかなり傷んできてるからな……」
武器か……
「それならこれやるよ。オワダでエチゴヤから貰ったものだ。良かったら使え。」
どっさりゲットしたけど使い道がなかったんだよな。どこかで売るつもりだったけど。
「エチゴヤだと……」
「エチゴヤの手先か……」
「こいつ……」
おや、警戒を露わにしたではないか。お前ら私の配下じゃないのかよ。
「エチゴヤと関係があるのか……?」
「あると言えばあるな。なぜか賞金をかけられてる関係だけど。オワダのエチゴヤを潰したもんでな。」
賞金をかけたのはエチゴヤなのかどうかは知らないがね。全く意味が分からない。
「そういえば噂が流れて来てたな……白袖黒服に身を包んだローランド人がエチゴヤのオワダ店を第三番頭ごと葬ったと……」
「その通り。ちなみにこの服装はローランドでは魔王スタイルって呼ばれてるぜ?」
誰が言い出したのやら。
「それで読めた……ずっと不思議だったのだ。なぜオワダ随一の大店クウコ商会が跡取り息子であるナルタをクラヤ商会に婿入りさせようとしたのか。確かにエチゴヤが潰れてしまった以上後ろ盾は必要だろう。だがそれでもこの国におけるエチゴヤの影響力は大きい。すぐにとはいかなくてもいずれオワダには次の番頭が立て直しにやってくるだろう。だがクウコ商会の会長ハネドはエチゴヤを切ってクラヤ商会と手を組もうとした。これはつまりオワダに
なんだなんだ? えらく複雑な状況になってきたぞ? あの盆暗長男は婿入りする予定だったのか。跡取りなのに?
「ハネドはよほど君、いや配下に入ったのだ……魔王様と呼ばせてもらおう。魔王様が恐ろしいようだ。今まで通りエチゴヤと組んでいれば自分まで潰されると考えたようだな。さりとて闇ギルドと無関係でいられないのはどこの商会も同じだ。背後に力のない商会などすぐに潰されてしまうからな。だから蔓喰と手を組むべく、クラヤ商会との縁談を決めたのだろう。蔓喰はオワダ進出のきっかけになるし、クラヤも蔓喰に恩を売れるからな。」
ふーん。そんなものなのか。商人の世界も楽じゃないよな。でもローランドとは全然違うんだな。冒険者を雇うより闇ギルドをバックに付けた方が安全とは……
「ちょっと待てよ
「そうだぁ! そんなやべぇことやってられっかよ!」
「やりてぇんならユメヤの残党だけでやれよなぁ!」
おや? 半数ほどの盗賊どもが騒ぎ始めたぞ? こいつらは元ユメヤ商会ではないってことか?
「ほう……お前たちはヤチロに帰りたくないのか? このまま一生盗賊稼業でいいのだな?」
「死ぬよりゃマシに決まってんだろぉ!」
「せっかくいい稼ぎができるよぉんなったってのになぁ!」
「アカダだってそんな狼にあっさり負けたくせによ!」
お前ら程度じゃカムイに一瞬でも立ち向かえないけどな。あの番頭が凄腕ってことが分からないのかねぇ……仲間じゃないのか?
「抜けたいのなら抜ければいい。だが魔王様から受け取った武器は置いていけ。」
「ふざけんな! 一度貰ったもんは俺らんもんだぁ!」
「誰が返すかよ! ガタガタ言ってっとやっちまうぞ?」
「それがいいや! 金出せや! 餞別に貰ってやっぜ!」
あーらら。内輪揉め、いやもう内輪じゃないのか。これでも何年か行動を共にしてきたんだろうに。やっぱ盗賊は盗賊だな。こんな奴らが手強いってギルドは何やってたんだろうねぇ?
「魔王様、アカダを解放してもらえないか?」
「いいぞ。」
『水壁解除』
「アカダ、半分殺せ。」
「分かった……」
「何が殺せだこの野郎ぉ! 死ぬのぁテメーだ!」
「やっぜぇおい! ついでにあいつらもよぉ!」
「ぎゃっはははぁ! あの女は俺んだからよぉ!」
「そんじゃあ俺ぁこっぎっあが……」
へー。やっぱ番頭の奴やるなぁ。するりと盗賊の横を抜けたと思ったら首をサクッと斬ってやがる。敢えて首を飛ばすほど斬る必要はないって考えか。五秒以内に高級ポーションでも飲めば助かりそうだけど、まあ無理だろうな。
そもそも持ってないだろうし、そんなに冷静に行動できるような奴なら今このタイミングで反乱なんか起こすわけないもんな。ほーんと盗賊ってバカばっかりなんだな。そこら辺はローランド王国と同じか。
ちなみにアレクは私の前に出て、近寄ってきた盗賊を殺している。アレクの色香は強烈だもんね。仕方ない仕方ない。
だが、そろそろ危ないな。さっさと場所を変えないと……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます