1334話 カースのマナー違反

あぁ……痛い……でもだいぶ激痛ではなくなってきたな。そこまで悪くない目覚めだ。

でも『無痛狂心』

よし、痛くない。

さて、朝かな。サザールが持ってた昼夜が分かる魔道具があると便利なんだけどなぁ。どこか大きい街に行ったら聞いてみようかな。




あーおいしかった。朝食も済んだことだし街を探検してみようかな。いきなりだけど代官府へ……




うーん。見事に誰もいない。マジで何が起こったんだ?


「うゔぅ……」

「げけぇ……」

「あぼぉ……」


アンデッドはいるのに。『火球』

建物を焦がすことなくアンデッドのみを燃やす。私の魔法制御は完璧だ。


「今のは普通の役人っぽかったね。」


「そうみたいね。騎士を全然見ないわ。赤兜も。」


さすがにあいつら腐っても騎士だからアンデッドごときには負けないんだろうな。


応接室や代官の執務室など色々と行ってみたけど面白そうなものは何もない。あの代官が身の安全を優先して逃げ出すとは全然思えないんだよなぁ。そう考えるとますます何があったのか気になるなぁ。


わずか一時間程度で探検終わり。特に何もめぼしいものはなかった。探し方が悪いせいかも知れないが、そこまで目くじら立てて探す気もないしね。あくまで物見遊山の一環さ。よし、次は街の中だな。


うーん、荒れ放題だ。おかしいな……そんなに長いこと迷宮に潜ってたっけ? せいぜい一ヶ月ぐらいだと思うが……


ここの街にはさっぱり記憶がないから、どこがどうなっていようとも分からないんだよな。唯一、最初に泊まろうとした宿があるのだが、それですらもうどれだったか分からない状態だ。何か残ってそうな気もするが、平民から貴族まで魔力庫を持ってるのが当たり前だから逃げる前に詰め込めるだけ詰め込んだんだろうね。なーんにも残ってない。テーブルや椅子なんか要らないし。


「ねえアレク。」


「なぁに?」


「ここを歩き回っても全然面白くないからさ。もう次の街に行こうよ。」


「いいわよ。途中までは来た道を戻るのよね?」


「そうそう。ある程度西に向かって元の道に戻ったら、そこから南だね。」


次の目的は畳の街ヤチロだ。ここで何が起こったのか分からないが、どうせ正気に戻った赤兜が暴れたとかそんなもんだろ。外から冒険者もたくさん集まったんだろうし。知ーらね。せっかくだからこの調子で他にも天王直轄の街があったら潰してやろう。あれ? 私は物見遊山に来てるんだよな……? まあいいや。その時の街の感じで決めよう。それがいい。でも畳は楽しみだなー。領都や楽園の自宅に和室ができると思うと、めっちゃ楽しみなんだよな。ふふふ。


かと思ったら人影が……あっちから来たってことは、迷宮から出てきたのかな?


「ようお前ら。もしかして今出てきたばっかりか? この街のこの状況だけど何か知ってる?」


「あぁ? なぁに舐めた口きいてやがんだこんガキャ!」

「俺らがキムチャッカルって知らねーんだろうぜ? バァカなガキだぜ!」

「俺ぁそっちの女を舐めたいぜぇー!」

「ぎゃっはぁ! お前いっつもそれだなぁ! バっカでぇ!」

「舐めるんなら俺のここを舐めてくれやガキぃ?」


なんて下品な奴らだ……しかも迷宮帰りのせいか臭い……口から髪まで全部臭い。


「会話する気がないんならもう行け。一回だけ見逃してやる。次、ゴタゴタ言ったら殺すぞ?」


「ぎゃはっはぁ! こいつぁたまげたぜぇ!」

「笑わせんなってんだよ! 殺すぜキリッ! だってよ!」

「ひいっーひっひ! ダメだ! 笑いが止まらねぇー!」

「俺もだぁ! 見逃してくれるんだってよ! こいつぁ助かったぜー! ぎゃははぁ!」

「勘弁してくれよー! 俺あやまっちまうぜー! ひーひゃひゃひゃー!」


そうそう。これだよこれ。やっぱこいつら系はこうでないとね。『狙撃』


「ひゅ」

「そぬ」

「だど」

「ばっ」

「えっ? は? はぁ!?」


四人ほど殺して一人だけ残した。おおー、素材をどっさりぶち撒けやがった。やはり迷宮帰りか。せっかく儲かっただろうに残念だったね。


「お前はもう助からないが、どうせなら楽に死にたいだろ? 何か言うことはないか?」


「えっ? はぁ!? いっ、いったい何が!?」


「お前、どこの冒険者だ?」


「え? お、おれらは、トツカワムの……」


トツカワム……えーっと、南の方だったっけ? あーそうだ! エチゴヤの何番目かの番頭がいる街だ。てことは……


「南から直接ここに来たのか? オワダなんかには寄らずに?」


「そ、そうだ……ほんとはオワダに行くはずだったが、噂で迷宮に入れるようになったからって……」


なるほど。


「そいつはツイてなかったな。オワダに寄ってりゃ俺らの話も聞いていたかも知れないのにな。じゃあもういい。死ね。」


「ちょっ! ちょ待っ『拘禁束縛』『麻痺』『狙撃』


約束通り痛くないようにしてやった。では落とし物をいただこうかな。


「結局事情は分からなかったわね。」


「まったくだね。こいつらが来た時がどうだったかぐらい聞ければよかったけどね。まあこんな臭い奴らとなんて話したくないけど。」


『浮身』

『風操』


こいつらが落とした素材を一箱に詰め込んでから……よし、収納終わり。

現金は拾ったが武器や鎧は放置だ。何の価値もない。


よーし。短いようで長かったカゲキョーの街もこれまでだ。また旅の再開だ。ヤチロはどんな街かなー。


ちなみに死体は放置している。せいぜいアンデッドになって彷徨うといい。うーんマナー違反。

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