1328話 四十五階のボス
カムイの誘導に従って四十五階を進む。罠あり魔物ありでペースはゆっくり、安全第一だ。
そういえば気になってることがあったんだよな。
「サザールさあ、なぜ今まで四十五階が踏破されてないんだ?」
「それが分かっていれば攻略できていたとは思わんか? まあ私の考えでは準備不足だろうな……魔力庫の容量の問題もあるが……」
「あー、三十階ぐらいからほとんど食料の類を落とさなくなったもんな。どっさり用意しておかんとどうにもならないよな。」
「五番隊以上はここ一年ほど死者を出していない。それは裏を返せば記録を更新しようという意欲に欠けているからなのかも知れんがな……」
つーかこいつらって荷運び隊とかって概念がないんだよな。全部自前で解決しようとしてるよな。洗脳されてるから頭が悪いのか?
「ふーん。あれ? でも今回はなんか本気で下を目指すとかって代官が言ってたような。」
「ああ……六番隊以下はここ二年ほど四十五階に来ることすらほとんどできていなかったからな。お代官も焦っているのだろう……」
なるほどね。あっ、しまった。一番隊に解呪かけるのを忘れてた。隊長が一見まともな奴かと思ったもんですっかり忘れてたな。まあいいか。
それにしてもウェアウルフはしぶといな。ウェアタイガーやウェアパンサーと違って連携だって上手いし。さすがにカムイとは比べ物にはならないけど素早いもんなぁ。厄介な魔物だわ。
それから歩くこと三時間半。ついにボス部屋に到着した。あー疲れた。座ってばかりなのも良くないかと思ってリハビリがてら歩いたのだが……
「じゃあ今度は私がやるってことでいいわよね?」
「もちろんいいよ。カムイもいいよな?」
「ガウガウ」
譲ってやるから手洗いしろって? この贅沢ものめ。
「ついに新記録を打ち立てる時が来たのか。我が手で成し遂げるわけではないのが残念だが……楽しみにしているぞ……」
大きな扉を開けて中に入る。広さは今までと変化はないようだ。一辺二百メイルはある立方体ってとこか。
扉が自然と閉まり、ボスが姿を現した……こいつ!?
「アレク! 構えて!」
『氷壁』
危なかった……間一髪、アレクの氷壁が間に合った……
『浮身』
『風操』
『氷散弾』
宙に逃れてから氷の散弾で牽制。全て避けられたが距離を空けることには成功した。ふぅ……びっくりしたなぁもう。アレクの目の前五メイルに現れたと思ったらいきなりトップスピードで近寄ってきやがった。私と同じぐらいの体格のウェアウルフ。今は左手で銀色に輝く毛皮を誇らしげに整えていやがる。別に乱れちゃいねーよ。余裕かましやがって……
『降り注ぐ氷塊』
おほっ、容赦ないね。当てる気はさほどなさそうだけど逃げ場を奪う目的がありそうだ。
「おっとサザール、俺の後ろにいた方がいいぞ。流れ弾が飛んでくるからな。」
アレクは私にお構いなしで広範囲魔法を使うタイプだからね。そんなところもかわいいんだよな。
「あ、あぁ……凄まじいな……」
「なかなかやるだろ? アレクは向こうじゃ『氷の女神』って呼ばれてるんだぜ? だからって氷系しか使えないなんてことはないからな? 火だって風だって何でも使えるんだからな! 王国一武闘会で準優勝だぜ? つまり国の同年代の中で二位ってことだ。すごいだろ!」
「凄いことは凄いが……どうせ一位は貴様、魔王なんだろう? それぐらい予想できるさ……むしろ貴様より強い者はいないのか?」
「いるに決まってんだろ。何年か前にヒイズルにも来たそうだが知らないか? 剣鬼フェルナンドって名前を。」
「いや……聞き覚えがないな。剣鬼と言うからには剣の達人なのだろう? 興味深いな……」
「この春に神の祝福を受けて『剣神』と名乗るよう言われてたけどな。たぶん名乗ってないわ。いやー凄い達人なんだぞ?」
「ほう……神の祝福か……」
あらら、黙ってしまったよ。たぶんこいつらって迷宮に潜りっぱなしだから先生と遭遇もしなけりゃ噂を聞くこともなかったんだろうな。ツイてないやつ。いや、会わなくてラッキーだったのか?
さて、アレクは先程の氷塊でボスをぐるりと囲んでしまった。まるで詰将棋だね。さすがアレク。
『業火球』
うおっ!? 当たれば即死の業火球! 少しぐらい避けても意味ないやつだ!
『カアアアアァァァァーーーー!』
なっ!? 魔声か! そんなもんでアレクの業火球をかき消しやがった!?
『火球』
『火球』
『火球』
おお、威力を落として連発に切り替えた!
『カアァッ! ゴアァッ! ゴオォッ!』
ボスも対応するかのように魔声を連発してやがる……手強いな……
「ゴハァッ!?」
おお! ボスが前のめりに倒れた! さては後ろから見えない風球をぶち当てたな?
『氷塊弾』
いっけー! そのままぐちゃっと潰せぇー!
「カアッ!」
ちっ、ぎりぎりで避けやがったか。ん? あの体勢は……
「カアァァァーー!」
ボスのやつ、四足歩行のままアレクの氷塊を駆け登りそのまま飛んだ! 奴の爪がぎらりと……いかん! アレク!
「ようこそ。待ってたわ。」『浮身』
なんと! ボスに浮身をかけた!? それも魔力特盛!? 逆バンジーのような勢いで天井に叩きつけられるボス。その後は当然……
『火柱』
落ちるボスを迎え撃つかのようにアレクの火柱が立ち昇った。普段は火葬ぐらいにしか使わない範囲も狭けりゃ魔力効率も悪い魔法だが、その火力は並じゃないぞ? 骨まで焼き尽くす魔法だからな。
あっ、いかん。それは良くない!
「アレク! 魔法を止めて!」
「えっ!? わ、分かったわ!」
よし、間に合ったかな……
「どうした魔王? トドメを刺さなくていいのか……?」
「まあ待てって。」
数秒後、瀕死のボスが落ちてきた。毛皮にはわずかしか焦げ跡が見えないが力なく地べたに叩きつけられた。
「よしアレク! トドメだよ!」
「分かったわ!」
『氷刃』
大抵は刃渡り五十センチほどしかない氷刃だが、今回はまるで鉈のように分厚く発動している。そして首元目がけて……落とした。
斬る、というよりも押し潰すといったイメージでボスの首は切断された。アレクの勝ちだ。お見事!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます