1326話 深夜の来訪者

自家製サウナでアレクと一緒にいい汗かいて。

少し涼んでから入浴。それからピラミッドシェルター内でもいい汗をかいた。




ふぅ……今夜もよく眠れそうだ。




コンコン……


シェルターをノックする音だ……


ガンガン……


「魔王、起きてくれ。来客だ……」


なんだよもう……いい気持ちで寝入りそうだったのに……

まあシェルターに穴を開けられるよりはいいか。あの時の穴は土の魔法で塞いではいるが。アレクはよく眠っているから起こさないように……『消音』


「来客? あー、赤兜か。もしかしてあれが例の一番隊?」


「ああ。一応紹介しておこう。赤兜騎士団の一番隊隊長のコグリス・レニタニ殿だ……」


「コグリス・レニタニだ。ナミクサから貴殿が魔王だと聞いたが?」


ナミクサって誰だよ……あぁ隊長か。サザール・ナミクサだっけ? よく覚えてたな私。


「本当に魔王かどうかはともかく、ただそう呼ばれているだけだ。名前はカース・マーティン。六等星冒険者をやってる。」


「ここまで来るような者がただの六等星であるはずもない。ナミクサからはくれぐれも丁重に対応しろと聞いた。当然の話だが私は強者には敬意を払う。」


ま、まともだ……赤兜は上になるほどまともになるのか……


「それはどうも。じゃ、俺は寝る。風呂は好きに入っていいからな。」


「待てよ! まだ隊長の話が済んでねんだよ! 冒険者のくせに調子に乗んなよ!」


おー、活きのいい若いもんか。いや、私の方が若いな。


「何かあるのか?」


「うちの者がすまない。貴殿は食料をたくさん持っているそうだな。いくらか融通してもらうことはできないだろうか?」


「あーなるほど。構わんよ。割高になるがいいか?」


「もちろんだ。このような場所なのだ。相場通りとはいくまい。」


「てめっ! 欲かいてんなよ!」


別に足元を見たり欲に目が眩んでいるわけでもない。


「行商人から街に届ける予定の食料をことごとく買ったからな。それで相場の五倍ほど払ったわけだ。その価格でよければ譲ろう。こちらに儲けはないからな?」


「五倍だぁ! ざけんなよテメェ!」


こいつさっきからうるさいな。


「それならやめとくか?」


「足元見てんなよ! てめ『徹甲弾』えぶっ」


安全地帯の外までぶっ飛ばしておいた。それにしても赤い鎧もそこそこ丈夫だよな。徹甲弾で穴が空かないんだから。


「交渉を有利に進めようとしてんじゃないぞ。お前は平和的に、若い者は威圧的にってか。まさかそれで上手くいくとでも思ってたのか? せっかく五倍でいいって言ってんのによ。」


私も鬼じゃないんだから暴言も三回はスルーした。だがさすがに四回目はアウトだ。


「貴様!」

「よくも!」

「このっ……!」


「待て。そんなつもりはなかったが、あいつを掣肘しなかったのは事実だ。すまない、こちらが悪かった。言い値で買わせてもらおう。」


「分かればいいんだよ。どれぐらいいる?」


とりあえず大きな箱を丸ごと出す。


「ほう。これは助かるな。この一箱だといくらだ?」


「えーと、これは……三百万ナラーだな。」


「貴様!」

「なっ!?」

「このっ!」


奇しくも一番最初の行商人から買ったやつだ。もちろん私に儲けなどないぞ?


「ふむ、確かに相場の五倍か……いいだろう。だがあいにくそれほどの現金などない。鉱石でどうだ?」


「いいぞ。モノによるけどな。」


「この紅柘榴石べにざくろいしでどうだ? おそらく四、五百万ナラーにはなるだろう。」


へー、人差し指と親指で作った輪よりは小さいが、悪くないな。クリアな赤褐色ってとこか。これってガーネットかな? 赤系ならアレクに似合うからぜひ欲しいんだよな。髪飾りなんかにちょうどいいかも。


「隊長、適正か?」


「ああ、間違いなくそのぐらいはすると思う。」


宝石の目利きなんかできないからな。知ってそうな奴に聞くのが一番だ。隊長には契約魔法もかけてるし。


「いいだろう。その値段ならもう少しおまけしてやるよ。この肉も持ってけ。」


肉はかなり多めにあるからね。蛭が落とした肉なんてあんまり食べたくないし。どーんとサービスするぜー?


「それはかたじけない。いい魔力庫を持っているようだな。で、あの風呂だが入ってもいいのだな?」


「構わんよ。ちゃんとかけ湯をしてから入れよ?」


必要はないが気分の問題だからね。


「ではありがたく。よしお前達、分担して収納しておくぞ!」


「はっ!」

「うす!」

「はいっす!」


へー。均等に分けるのね。リスクヘッジってか? そんなことするぐらいなら魔力庫の設定を見直せばいいのに。


よし、今度こそ寝るぞ。次はシェルターに近寄らせないように……『氷壁』

こっち来んなよ?

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