1325話 迷宮の豪華料理

氷のテーブルにずらりと並べられた料理の数々。すごい……どれも美味しそうだ! どれから食べよう……


「せっかくだからこのお酒を飲むわよ。」


「それ、珍しいボトルだね。」


そう。大抵の酒は樽に入っている。それがボトルとは……ワインかな。


「実は母上に貰ったの。好きな時に飲みなさいって。母上の故郷アレクサンドル領はセーラム産赤ワイン、ベゼル・ベイヤードよ。こんな時だからこそカースと飲みたいと思って。仕方ないからあなたにも一杯だけ飲ませてあげるわ。カースに感謝するのね。」


「かたじけない。ありがたくいただこう……」


なんと。アレクママはアレクサンドル領出身だったのか。ならばパパと一体どこで出会ったのか。気になるねぇ。


「ありがとね。美味しそうだね。」


「ピュイピュイ」


コーちゃん、いつの間に!? あっちのサウナルームで飲んでると思ったら!


いいグラスがないのが悔やまれるな。王都に行った時に買おう買おうと思っていたのに結局買ってなかったんだよな。


「さあ、飲みましょ!」


「うん! 乾杯!」


「ピュンピュイ」


「乾杯……」


おおお……これは赤ワインとは思えない爽やかな味だな……うっま……


「美味しいね! これはいいワインだね!」


「旨い……空の息吹、大地の恵みをふんだんに取り入れた高品質のブドウ。そこに愛情と技術を併せ持つ職人の丁寧な仕事が見える……まるで、私の体に生命力そのものが語りかけてくるかのようだ……なのにこのシルキーで滑らかな口当たりはどうだ……つくづくローランドの酒は……凄いな……」


すごいのはお前だよ……こいつ何なの!? そんなに酒好きなの!? 私だって上手いこと言いたいけど旨いとしか言えないんだよ!


「偶然かも知れないけど、今が飲み頃みたいね。私の魔力庫に入れてたこともよかったみたい。母上に感謝だわ。」


アレクのは私のに比べたら多少は性能が劣るからな。それは仕方ないだろう。逆に言えばワインや肉を熟成させるには向いてるってことだ。それより料理だ! せっかくアレクが作ってくれたんだから!


まずはこの皿から……見た目は枝豆だが……


おお……皮ごと食べられる。この歯応えは……きぬさや? 軽く塩味がついておりワインともよく合う。旨いな。


「それは皮ごと食べられるグリンビーンね。カースが買い取った食料の中に入ってたから軽く塩茹でにしてみたの。その上から少し岩塩を振ってあるわ。」


「北の方の村だろうな。さすがにあの辺は小さな村が多く名前までは覚えてないな……」


「ピュイピュイ」


コーちゃんも気に入った? よしよし。


さて、次の皿は見た目は出汁巻き卵だが……


「美味しい! 甘いのも辛いのも、どっちも美味しいよ!」


「甘い方にはキラービーハニーを少しと魚醤を入れてあるわ。辛い方は細かく刻んだネギとペプレの実で味付けしたの。」


「この卵は……ワイルドチキンだったな。どこの山の物か……久々に食べたが……旨いな……そして繊細なこの卵の味を壊すことなく焼き上げた腕は賞賛するしかない……」


くそぅ、コメントのレベルが違うじゃないか……でも美味しい!


「全然焦げてないのに中までふっくら火が通ってるってことはアレクの魔法制御が完璧だったってことだね。」


「ありがとう。カースにそう言われると嬉しいわ。」


アレクだって毎日修練を積んでるんだもんな。そりゃあ上達するよね。偉いなぁ。


さて、次の皿は……あっ! これは!


「軟骨だね! フリッターかな?」


「ええ。カースの好きな軟骨を揚げてみたわ。ただしコカトリスじゃなくてワイルドチキンなのよね。」


「ほほう、膝の軟骨を揚げたのか。どれ、いただこう……」


やっぱ軟骨は旨いなぁ。最高だよ。初めてアレク宅にお呼ばれした日を思い出すなぁ。あの時はバジリスクの軟骨だったっけ?


「これは旨いな。軟骨とはこのように揚げるとここまで旨いものだったとは……やはりお前達に付いてきて正解だったようだ……」


こいつ……酒目当てかと思ったらそっちもか。人生ぶん投げてんなぁ……


それからもご馳走は続いた。

季節野菜の炒め物、ブラックブラッドブルのヒレステーキ、その脂を利用した焼き飯。

おまけにブラックブラッドブルのテールスープまで。最後はアプルの実でおしまい。満足満足。


「いやー最高だったよ。よくあんな短時間でここまで作れたよね。いつもながらアレクの料理は凄いね! ありがとう!」


「どういたしまして。ほとんどカースが買った材料なんだから。私は料理をしただけよ。でもカースが美味しそうに食べてくれて嬉しいわ。」


アレクが嬉しいと私も嬉しい。エンドレス嬉しい。


「馳走になった。及ばずながら明日の夜は私が腕を奮ってみよう。ヒイズルの味を堪能して欲しいのでな……」


「それは楽しみね。少し期待しておくわ。」


そうするとますますアレクの料理の幅が広がるって寸法だな。これまたいい循環だな。この隊長いい拾い物だわー。こいついつまで私達に付いてくるんだろ?


「お前、たまには先に風呂に入るか?」


「いいのか? ならば先に失礼しよう……」


私はサウナでたっぷり汗をかいたしね。さて……隊長がいなくなったことだし……


「アレク、いい汗かこうよ。」


「も、もう……カースったら……」


アレクったら勘違いしてるな? まずはサウナが先なんだからな。アレクにも味わって欲しいだけなのだ。

夜のお楽しみはその後さ。今夜も長い夜になるかな……

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