第1288話 カースの追憶
さあ、地下十一階だ。なのに……うーん、全くと言っていいほど変化を感じない。でも罠もあるって聞いたし、油断せずにいこう。特に毒矢の罠が危険なんだったかな。
「じゃあここからしばらくは僕が先に歩くね。」
「ええ、頼むわね。」
「間隔は広めに開けて付いて来てね。」
アレクのことだから大丈夫とは思うが一応ね。さすがに一階の時のように二人で腕を組んで歩くわけにもいかないし。
てくてく歩いていると、さっそく現れたのは少し大きめの蠍だった。しかし、ヘルデザ砂漠でよく見るようなヴェノムスコルピオンとは比べ物にならないほど小さい。昆虫の蠍にしては大きいというぐらい、体長三十センチ程度だろうか。このサイズって地味に相手にしにくいんだよな。よし、不動でこつこつ仕留めよう。
ふう。蠍のくせに手強かった。なぜか飛び上がってくるし、毒らしきものを吐いてくるし。総勢十二匹ほどいたが、問題らしい問題はなかった。これって多分剣を使ってたら苦戦してたような気がする。棍でよかったわー。落としたのは……やはり魔石か。でも一階のコボルトより小さくないか? 数だけは多いけどさー。
ちなみに道が分かれている場所はカムイに頼んでボスへの道を判断してもらった。ありがたいぜ。
そうやって数百匹もの蠍を退治した果てに私達はボス部屋へ到着した。あー疲れた。ボスがどんな奴かは分からないが、もう魔法で一気にいこう。
ここのボスは何かなー。
ほほう、全長五メイルの蠍か。ん? どこかで見たような……
あーこいつ、ヘルデザ砂漠で見たことがあるような……ヴェノムスコルピオンか!
ヴェノムスコルピオン……ぐっ……なぜ涙が……
いかん、目の前が滲んできた……
「カース危ない!」
『おっ、ヴェノムスコルピオンですぜ。あいつは衝撃や斬撃に滅法強いんでさぁ。坊ちゃんなら水壁とかで溺死させるのが手っ取り早いですぜ』
『こいつぁグランサンドワームでさぁ。先端より少し下辺りに一回り太い部分がありまさぁね? その周辺に魔石があるんでさぁ』
『坊ちゃん! デザートハイエナですぜ! 獲物を盗られないよう注意してくだせぇ!』
『ぐげっ! まさか!? ノヅチ!? 坊ちゃん! ここから離れてくだせぇ! 今すぐ!』
スパラッシュさん……
初めてスパラッシュさんと二人でヘルデザ砂漠行った時……あの時、遭遇した魔物は……
グランサンドワーム、デザートハイエナ、ノヅチ。そしてヴェノムスコルピオン。
だめだ……涙が止まらない……
なんでこんな時に……
とっくの昔に死んでしまったスパラッシュさんのことを思い出しただけなのに……
なのに……くそっ! 涙が止まらない!
スパラッシュさん……
ぐうう……スパラッシュさん!
くそぉ! なんで死んだんだよ! 自分だけ満足したように死にやがって! くそっ! スパラッシュさんのバカ野郎!
なんで私は今になって! こんなことを! くそ……
だめだ! 涙が全然止まらない! どうなってるんだよ!
「カース? どうしたの? スコルピオンはカムイが始末したわよ?」
「…………アレク……ごめん。カムイもごめんよ……」
「それはいいんだけど、一体どうしたの?」
「いや……ヴェノムスコルピオンを見たら……なぜかさ……スパラッシュさんのことを思い出してしまったんだよね。」
「あぁ……スパラッシュさん……あの人って本当に不思議な人だったわね。どう見ても冴えない、うらぶれたおじさんにしか見えないのに。」
だよな。どう見てもしょぼくれた中年のおっさんだもんな。それなのに、なぜ私は……今頃……
ふぅ……落ち着いた。
いかんな……どうしてしまったんだよ。
「いやーごめんよ。取り乱してしまったね。」
「いいのよ。でもヴェノムスコルピオンにいいようにやられてるから……少し心配してしまったの……たぶんカムイも。」
いくらヴェノムスコルピオンが攻撃しようとも私にダメージに及ぶことなどない。でも、アレク達に心配かけてしまったな。はぁ……
よし、次の階からはきっちりやるぞ!
地下十二階の魔物は蛇だった。魔法を使い容赦なく全滅させようとしたのだが、コーちゃんから「蛇を虐めないで」と言われたのでフルスピードで逃げた。
だが、さすがにボス部屋だけはそうはいかない。コーちゃんには涙を飲んでもらった。
さあ地下十三階だ。そろそろ腹が減ってきたな。今日はここまでかな。適当に安全地帯を見つけてから休憩するかね。カムイもしっかりと洗ってやらないとね。迷宮をどこまでも進むだなんて今回が初めてだもんな。色んなことがあるもんだよなぁ……
いやー今日は疲れたな。風呂に入って寝よう……
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