第1285話 カースの意地

地下六階を進んでいる。普通に歩いて。ここでの魔物はコボルトだった。強さも一階と特に変わりはない。数が少しだけ増えたぐらいだろうか。


そうしてのんびり歩くこと一時間半。ついに安全地帯を見つけた。まったく、親切な迷宮だこと。今夜はここで一泊だ。今が本当に夜なのかは分からんが。


カムイをしっかり洗ったら私達もゆっくり入浴タイムだ。あーいい気持ち。


「こんなところでもお風呂に入れるなんて最高ね。贅沢だわ。」


「だよねー。風呂っていいよねー。」


はぁ……ここが迷宮だってこと忘れてしまいそうだよ。あーいい気持ち。


「うーい今日も疲れたぜー」

「何食うー?」

「あーそーだなー。ん? なんだありゃ?」

「風呂? マジで? こんなとこでか?」

「うわ、めっちゃかわいいぞ。ここはテンモカの店か?」

「んなわけねーだろ。もしかして冒険者か?」


赤兜か。二百人からいるんだったな。何人が潜ってるんだろうね。まったく、せっかくのんびりとお湯に浸かってたのに!


「どうだ、お前らも風呂に入るか?」


この湯船は大きいからね。


「おー入る入る!」

「ついでにその女もいただきだな!」

「お前は出ていいぞ。お疲れー!」

「ぎゃははは! ひでー!」

「こんな所で風呂たぁ贅沢だぜ!」

「よーし入ろうぜ!」


よし、全員鎧を収納したな? では『解呪』


くくく、見事にハマったな。湯船にアレクがいるのだ。入らずにはいられまい。そうやって鎧を脱がせてから魔法をかける。恐るべき戦略!


その後はいつも通り。有り金と素材を没収して契約魔法をかけて放り出した。

最高で四十五階って話だもんな。まだまだ深いところに潜ってる奴らもいるんだろうし、油断はできないな。


さーて、風呂から出たらいつもの時間。黄金の時だ。







ふぁ……あ。よく寝た。朝かな? 本当に朝なのか? まあいいや。寝たいだけ寝てたら一体どんだけ寝てしまうことやら。


せっかく起きたことだし少し体を動かそうかな。まだまだ筋肉痛は治ってないけどさ。




ふー。いい汗かいた。やった後で何だけど、どうせなら魔物を相手にすればよかったな。いくらでも出てくるんだから。


やがてアレクも起きてきたので出発だ。今日は私が先頭に立とう。先頭で戦闘、ぷぷっ……私は何を言っているんだ……


さて、ここの魔物はコボルトだ。コボルトなのだが……苦戦している。三匹とかなら魔法なしでも楽勝なんだよ。でも五匹以上出られるときついんだよな。やっぱ雑魚でも数は力だよなぁ。さすがに怪我をするほどではないが手間がかかっている。


げっ、今度は十一匹かよ!


どいつもこいつも牙を剥き出しにして襲いかかってくる。不動を横に大きく振り回し手前の数匹をまとめて片付ける。しかし間髪入れず押し寄せるコボルト。ここからは丁寧に一匹ずつ胸を突く。当然討ちもらしはある。手が回らないんだよ! くっ、前腕に噛みつかれた! 痛、くはないけどさ! 私の棍の腕なんてこんなもんだよな、くそ! 脚にも噛みつきやがった! こんな時は落ち着いて……一匹ずつ、上から突き下ろす! 普通のコボルトって大きくても一メイル五十センチってとこなんだよな。小さい奴は一メイルそこそこだし。不動を短く持ってコツコツ殺してやる!


後三匹! こうなったら適当に不動を振り回すだけで終わる。私の好きな力技だ。


はぁー疲れた……

トラウザーズはいくら噛みつかれても無傷だけど、シャツは少し汚れてしまったな。防汚が付いてるってのに。さすがに効果が薄れてきたかな? でも穴が空かなくてよかった。

まあなんだ。ここまでまとわりつき、噛みついてくるコボルトの群れを相手に最後まで倒れなかった私の足腰の勝ちってところだな。


「カース、大丈夫? 苦戦してたわね。」


「いやーお待たせ。やっぱり数は力だよね。」


ちなみにアレク達の方にはカムイが居るせいかコボルトが向かっていかないんだよな。あー疲れた。まーだ筋肉痛が治ってないし。でも、この階はこのスタイルでいこう。ボス以外は。さすがに五メイルもあるボスに肉弾戦では……勝てなくはないか。やっぱやってみようかな。




結局、ボス部屋に着くまで私は魔法なしで戦い続けた。正直もう限界だ……

フェルナンド先生ならめっちゃ楽勝なんだろうな……たぶん鼻歌気分でここまで来てるはずだ。


うーん……


よし。決めた。とことんいこう。ボスにもこのまま肉弾戦でやってやる!


ただし、身体強化は使うけどね。筋肉痛なんか知ったことか!




終わった。身体強化の魔法を使い不動を振ればそりゃあ楽勝だよなぁ。後先考えず暴れたかったんだよ。でも……筋肉痛が……ぐおぉぉぉ……痛すぎる……


風呂だ! すぐ風呂に入らねば!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る