第1227話 突入、沈没船

船が海面に顔を出す瞬間、この時が最も魔力の消費が激しい。私はまだ海中だし、浮力は著しく減るし。


しかし、一度海中から出てしまえば……


「ただいま。いやー疲れたよ。」


あー頭が痛い……


「おかえりなさい。少しだけ心配したのよ? コーちゃんもおかえりなさい。」


「ピュイピュイ」

「ガウガウ」


コーちゃんは私の首から離れ、カムイに飛びついた。仲良しさんだね。


それにしても疲れたなー。でも、いい魔法制御の稽古になったか。はー、それでもここまで来たらこれしきの船を浮かせることなど造作もない。後は帰るだけだ。魔物が集まらないうちにさっさと帰ろう。


「あ……あ、本当に……」


「見ての通りだ。中の検分はオワダに着いてからな。」


本当は丸ごと私の魔力庫に収納したいのだが無理だった。船内にまだまだ魚や魔物がいるのだろう。とりあえずはこのままオワダまで戻るしかないか。




船を海面ぎりぎりに浮かせてのんびり飛ぶ。もう少しエチゴヤからの妨害があるかと思えば静かなものだ。だが油断はできないな。気を引き締めていこう。


「アレク、浮身を頼むね。この鉄ボードにね。」


「ええ、大丈夫よ。」


そして私は船に浮身を使い続ける。そして風操で速度を上げよう。来る時は五分とかからなかったが、帰りは結構時間食いそうなんだよな。それでも一時間はかかるまい。


夏だなぁ。ちょっと暑いな。私の場合、服装にはあれこれ魔法効果を付けてあるから暑くも寒くもないのだが、頭は帽子を被らない限り暑いんだよなぁ。被ろう。サウザンドミヅチ製ボルサリーノ風中折れ帽。うーん、かっこいいし涼しいし、最高だね。


「ガウガウ」


ん? あっちに注意?


「ピュイピュイ」


嫌な物を持ってるって?


あっちには……鳥の群れか……『遠見』

カモメのようだが……足に何か黒い石を二つ……魔石爆弾か!


「アレク! あっちから来る鳥を全て撃ち落として! 浮身は使わなくていいから!」


「分かったわ。」


『氷弾』


彼我の距離は五百メイルってところか。あー、惜しい。翼を貫いたが胴体は無傷か。遠いもんな。


断続的に氷弾を撃ち続けるアレク。近づいてくるカモメ。高度を上げる私。上はとらせないぞ。


『氷散弾』


カモメとの距離が近くなったのでアレクが攻撃を切り替えたな。やはり安心して見ていられる。カモメに魔石爆弾を持たせて特攻させたつもりだろうが、あんなもの当たらなければどうってことない。


『吹雪ける氷嵐』


おっ、最後は上級魔法で殲滅か。カモメどもはことごとく海に落ちていった。おーおー、落水の衝撃で海面では爆発だらけだ。アレクの魔法では爆発せず、落水の衝撃なら爆発するってことか。


「アレクお見事。距離に応じたいい魔法だったね。」


「ありがとう。あれは召喚魔法にしては数が多過ぎるわね。飼い慣らしているのかしら?」


「いわゆる調教テイムってやつかな。小型の魔石爆弾をネズミなんかに運ばれると厄介そうだね。」


うちにはコーちゃんとカムイがいるから大丈夫だよな。


「その例は今のところないが、奴らは人間でも平気で魔石爆弾を持たせる……そんな奴らだから……俺は……」


「ふーん。嫌な奴らだな。おっ、オワダが見えてきたな。」


さすがに港に停泊させるわけにはいかんな。港の外れならいいだろう。先日泳いだ南側、あそこなら岸辺に置いても問題なさそうだ。




ふふふ、港がざわついているようだ。当然だろう。数年前に海に沈んだ船を引き上げただけでなく、ここまで持ってきたんだからな。ふふふ、せいぜい驚くがいい。




よし、船を下ろした。しかしすごいなこの船。ゆっくりやったとは言え、着地の衝撃でどこか壊れるかと思えばどこにも壊れた様子が見えない。海面から出した時もそうだったが、すごい頑丈さだ。


改めて船底を確認してみると、確かに大穴が二ヶ所ほど空いている。空いているが……あれって内側から小さい爆発か何かが起きたって感じか? やはりランスマグロが原因ではなさそうだな。


「よし、じゃあ中を見てくるからアレクとカムイは誰も入ってこないように見張っててくれる?」


ちらほらと見物人が集まってきつつあるもんな。


「分かったわ。気をつけてね。」

「ガウガウ」


引き上げた沈没船の内部を探検するとは……気持ち悪いものをたくさん見えそうだな。


「お前も来い。案内してもらうぜ?」


「あ、あぁ……」


さーて、帰ってくる間にあらかた海水は抜けたと思うが、溜まったヘドロや死骸までは抜けてないはずだ。浄化と乾燥を使いながらゆっくり進むとしよう。


当然だが甲板の上もフジツボみたいなやつにびっしり覆われている。うーんキモい。


「じゃあこっちから……」


さあ、いよいよ内部へ突入だ。

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