第1217話 シーカンバーのナマラ
「貴様! また問題を起こしおったのか! 神妙にしろ!」
こいつ……あれだけ父親を交えて話したのに何も分かってないのか? この前私が割った兜がまだ修復できていない程度の時間しか経ってないのに。
「同じ話を何度もする気はないぞ? あの時の内容を覚えてないってんなら帰って父親に教えてもらえ。」
「ぐっ、ぐぐぅ……」
なんだ分かってんじゃん。
「分かってんなら仕事しろ。ローランド王国の貴人がヒイズルの者に命を狙われたんだぞ? これは宿の責任なんかじゃない。オワダの街を預かる騎士団の怠慢が原因だ。犯人についてはこの氷壁ごとくれてやるから持って帰れ。分かったな?」
自分で貴人って言っちゃった。まあアレクは間違いなく貴人だし。
「くっ、くうぅ……」
「まあ昨日の火事だって怪しいしな。そっちの調査も大変だろうが、せいぜいがんばりな。殺し屋ごときこっちで調べてもいいんだが、うっかりオワダの街を更地にしてしまったら困るだろ? せっかくここまで発展してるんだ。それとも中央貴族様はこんな港街なんかどうなってもいいってか?」
我ながら暴論だけどね。
「ぐっ、くっ、くうっ! 舐めるな! オワダの街は私が守るっ!」
「そうか。さすがは中央貴族。期待してるからな。何か分かったら教えてくれよ?」
「ふん! 必要があったらな!」
そう言って赤い女騎士は帰っていった。氷壁は部下の一人が嫌そうな顔をしながら魔力庫に収納していた。
「あ、あの……マーティン様……重ね重ねのご無礼……誠に申し訳ございません……」
「こちらとしては宿に文句などないけど、気になるんだったら夕食を豪華に頼むわ。量じゃなくて質的にね。」
「そっ、それはもう! 女将にも板長にも重々伝えておきますので!」
「無理のない範囲でいいから。あれだけの火事の後だから仕入れなんかに影響が出てるよな?」
「え、ええ……その通りです……」
まあ当然だよな。まだ外は見てないけど昨夜の感じだと結構焼けてたもんな。何度も頭を下げながら担当さんは出ていった。どうか更地だけは……とか言ってたような気もするが……まさか本気にしたわけでもあるまいに。
「よーしアレク。今日もおでかけしようか。」
「ええ。今日はどこへ行くの?」
「昨日の続きで山登り、と言いたいところだけど……闇ギルドで思い出したことがあるんだよね。」
「何かしら?」
「バンダルゴウでタムロが言ってたやつ。シーカンバーのナマラを訪ねてみろって話してたよね。」
タムロの組織はシーブリーズとか言ったな。闇ギルドのくせに爽やかな名前しやがって。まあもう潰れたけど。いや、代わりにシーブリーズ商会とかって言ってたような……
「あぁ。そんなこともあったわね。今回の件が少しでも分かるといいわね。」
エチゴヤのこともあるしね。多くのローランド人がヒイズルで奴隷になってるらしいし、助けてやりたい気持ちもあるんだよな。
さて、ならば誰に聞くのが早いか……
ギルドだな。
何日かぶりのギルド。昨夜の火事のせいか朝の遅い時間にもかかわらず混雑していた。並ぶのが面倒だが仕方ない。大人しく行列の後ろに付いた。
待つこと十五分、ようやく私の番が来た。
「いらっしゃい。ご用件は?」
「シーカンバーのナマラって奴に会いたいんだが、どこに行けばいいか知ってるかな?」
「あーのーさー? 知ってるよ? そりゃあ知ってるよ? でもさぁ? そいつってどっちかって言うと闇ギルドに近い人間なわけよ? だからウチらからすると仲良くないわけ! そんな奴の情報をここで訊ねるって正気ぃ?」
「そうなのか? それは知らなかった。ならば聞かない。邪魔したな。」
「ちょいちょーい! 待ちなよ兄さぁん? ギルドの沙汰も金次第って言うじゃん? ほれ? ほれほれ? 値段付けてみ?」
なんて正直な受付嬢だ……
「いや、別にそこまでして知りたいわけじゃないんだが……ヒイズルの闇ギルドや殺し屋の事情を聞けたらいいなーぐらいのもんだからな。むしろそっち方面の事情通っていない?」
スパラッシュさんみたいな人がいれば一番いいんだがな。
「そりゃあいるよ? いるに決まってるよ? でもねぇ? なーにか足りないんじゃなーい?」
やっぱそれか。そこまでして情報集めなんかする気はないぞ。まったく……
「邪魔したな……」
「あっ、ちょ、ちょっと、兄さーん!」
今日のところはこれでいい。お仕事おーわり。後は観光の時間だ。今日はどこに行ってみようかなー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます