第1174話 バンダルゴウあるある
私が目を覚ましたのは昼過ぎ。よく寝てしまったな。ちなみに起こしたのはカムイだ。腹が減ったそうだ。
アレクも起こして昼食を済ませた。
まずはヘルデザ砂漠に立ち寄ろう。
終了。鉄塊の魔法を使い、私の魔力庫のおよそ半分は鉄の塊で満たされた。ヒイズルではこれがどれほどの値段で売れることやら。
よーし、これでようやくバンダルゴウへ行けるな。そこでヒイズルに渡るのに丁度いい手段が見つからなければ飛んで行けばいいや。
「アレクはバンダルゴウは初めてだよね。あの街ってろくな街じゃないから注意しようね。」
「この前言ってたわよね。腐ってるって。」
「そうなんだよ。エルネスト君を助けに行ったんだけどさ。店の店員が契約魔法で奴隷にしようとしたり、商人はスラムに連れて行って身包み剥ごうとしてきたりするんだよ。やだやだ。」
「最低の街ね。クタナツからすると考えられないわね。」
「あ、料理は美味しかったかな。香辛料が結構使われててさ。エールが欲しくなる味だったよ。」
「やっぱり港町は違うのね。南の大陸産の香辛料が手に入りやすいのかしらね。」
「きっとそうだね。あ、そろそろ着くよ。アレク、着替えておいて。派手にね。」
「ええ、分かったわ。」
生着替えをしてくれるかと思ったら『換装』で終わってしまった。まあ……夜のお楽しみにとっておこう。
アレクの服装は肩と背中を大胆に露出した黒いドレスだ。ところどころに赤で刺繍が入ってるのがいいアクセントだな。胸元にはアルテミスの首飾りが光る。このドレスアップに大した意味はない。ただのデモンストレーションみたいなものだ。バンダルゴウに魔王と氷の女神が来たということを知らしめてやるだけのことだ。
だから、隠形など使わずいきなり城門の前に着陸する。隣に行列ができているが知ったことではない。
「貴族門はここだな? 入るぜ。」
「あ、あの、身分証を……」
私は国王直属の身分証、アレクはギルドカードを見せる。銀貨一枚はおまけだ。
「ひっ、まお、アレクサン……ど、どうぞお通りください……」
うん。快適。待ち時間なし! ではそこらで辻馬車を拾ってギルドへ行くとしよう。好んで乗りたくはないが、これも演出だ。
到着。さて入るか。普段ならカムイは外で待っててもらうんだが、今回は一緒に入ろうな。
「ガウガウ」
中は……そこまで混んではいないか。まずは受付だな。私達が建物内を歩くと人が割れる。私にしては珍しいな。悪い気分ではない。
「ご、ご用件をお伺いします」
「ヒイズルに行く船の護衛依頼はないか?」
いつものようにギルドカードを見せながら話しかける。
「あの、あるにはあるんですが……」
「いつ出港?」
「待てやぁ! てめぇどこのどいつよぉ! その依頼は俺らぁが受けることになってんだぁ! 横入りする気かぁこら!?」
おっ、ギルドあるあるかな。
「どこ依頼のことかは知らんが、すでにお前らが受注済みってことか? それなら諦めるだけだが?」
私はマナーは守るぞ。
「ゴルゾさん達の受注手続きはまだ完了してません。二日待って欲しいとお伝えしたはずですよ?」
「そんならなにか!? こんな他所モンに任せるかも知んねーってのか!? こんなチャラチャラした奴らなんかによぉ! 依頼に来た貴族かと思やぁ! 冒険者舐めてんのか、おお!?」
一気に喋りやがったな。意外に弁が立つのか?
「とりあえずお姉さん、詳しく聞かせてもらおうか。おっさんは引っ込んでな。」
「俺ぁ二十五だぁ舐めんなガキぃぃー!」
殴りかかってきた。沸点低すぎだろ。
『凍結』
おっ、アレクやるね。あーあ、拳が凍ってるよ。早く解かさないと壊死するんだよな。がんばれ。
「てめっ、このアマぁ! 舐めた真似しやがって……」
『凍結』
ぷぷっ、口まで凍らされてる。ぎりぎり鼻の穴は開いてるのか。アレクは優しいね。
「むむー、むー! むむむーーー!」
「ほれ、外か訓練場行こうぜ。アレク、話を聞いておいてくれる?」
「ええ、分かったわ。」
私はそいつを蹴り飛ばした。
「ほーれ、さっさと立って歩け。相手して欲しいんだろ? おーいお前らの中にこいつの仲間はいないのか? 助けてやったらどうだ?」
それなりの人数がいるのにしーんとしている。薄情だなあ。
どこのギルドにも訓練場はあるものだ。でも面倒だから外でいいや。すぐそこだしね。ちなみにそいつは全然立とうとしないから外まで蹴り転がした。
「さてと。お前に用はないんだけどな。うちのハニーに『アマ』なんて言いやがったな。だからお仕置きだ。それとも有り金出して許しを乞うか?」
まだ起きないから腹を蹴る。うーうー言ってるな。もちろん手加減、いや足加減はしているぞ。このブーツ、本気で蹴ったら簡単に内臓破裂しそうだもんな。
おっ、金が落ちた。魔力庫から取り出したんだな。なるほど。それなら許してやろう。
『点火』
拳と口の氷を解かしてやるよ。
「有り金はそれで全部か? えらく少ないな?」
金貨がたったの五枚。こいつが八等星だというなら納得だが、ヒイズルに行く船の護衛を受けようって奴が八等星なはずがない。
「こ、これで……かんべん……」
「素直に謝ったから許してやろうか。これからは相手を見て絡めよ?」
地面に落ちた金貨を拾おうと身を屈めると……
「ギャハハぁ! 隙ありぃ!」
ギャラリーっぽい奴がハンマーで襲ってきた。こいつの仲間かな。私に隙なんかあるわけないのに。
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