第1133話 猛毒とスライム

階段を登り、扉を叩く。ほんの数秒後、扉が開く。浄化も忘れずにかけておこう。


「おかえりなさいませ」


「ただいま。とりあえず伯父さんと話したいな。さっきの部屋にいるかい?」


「ええ。こちらへどうぞ」


おや、さっきの部屋にシャルロットお姉ちゃんが来ているではないか。昨夜ゼマティス家に居なかったくせに。あんまり広い部屋じゃないのに女性率がまた上がったね。


「イザベル叔母様、お久しぶりです。ようこそ王立魔法研究所へ。カースも久々ね。」


『氷弾』


何やってんの母上!? お姉ちゃんの髪が切れたようだが。


「いい練度ね。その調子で頑張るのよ?」


「ありがとうございます。叔母様のおかげです。」


あー、魔力感誘か。お姉ちゃんもだいぶ使えるようになってきてるね。くそ、私はさっぱりなのに。


「さて、兄上。この毒に関して現時点で分かってることを教えてもらえるかしら?」


「さほど多くの事が分かっているわけではないがな……」


伯父さんの言うことをまとめると……


・大抵の金属は溶かしてしまうので武器に塗るだけでも一苦労する。

・百倍以上に薄めてどうにか武器に塗ることができる。

・宮廷魔導士を数人集めて全魔力を使えば、どうにか解毒できるようにはなった。ただし原液に対してはその限りではない。

・人間に使用した場合、魔力の低い平民で即死、魔力の高い貴族でも五分と持たない。体内がドロドロに溶けてしまう。

・きちんと焼けば死体を介して毒が増えることはない。

・地下室が未だに無事なのは周囲全面に抗毒とでも言うべき魔法処理が施してあるから。おそらく黒幕エルフの仕業。


「こんなところだ。何か質問はあるかい?」


伯父さんの長い話が終わった。


「伯父さん、改めて紹介しておきます。こいつはダークエルフのクロミ。何か役に立つことがあるかと思って連れてきました。」


「ウチはダークエルフ族、ソンブレア村のクロノミーネハドルライツェン。クロミって呼んでいい。悪いけど人間の名前はとても覚えられないし。適当に呼ばせてもらうから。」


「カースの伯父、グレゴリウス・ド・ゼマティスだ。好きに呼んでくれ。エルフの知識か、期待している。」


クロミは大丈夫かな? 私よりは知識があると思うのだが。でもやっぱエルフの知恵ならマリーの出番だよな。


「早速だけど、兄上の全魔力なら何リットルまで解毒できるのかしら?」


「む、無茶言うな。原液なら一ミリルだってできるものか。お前と一緒にするな。」


一ミリルは一リットルの千分の一。やっぱ原液はキツいよな。後で私も試してみよう。


「そこらの魔物はもう実験に使ったわよね? スライムはどうかしら?」


「まだだ。さすがに浄化槽スライムでは実験になるまいからな。強力なスライムの入荷待ちだ。」


入荷するものなのか?


「そこで提案があるわ。現在クタナツの北にあるヘルデザ砂漠に湖ほどもあるスライムが発生しているの。近寄るのも危険だけど実験し放題よ?」


「なんと……そんなスライムが……やはり魔境は恐ろしいな。だが、絶好の機会だな。毒の件がなくとも貴重なスライムの検体を入手できるとあれば……行かぬ手はない。」


なるほど。さすが母上、話が早い。それにこれだけの強力なメンバーが揃ってれば怖い物なしだもんな。でも王都に来たばっかなのにとんぼ帰りかよ。


「それなら持てるだけの毒を持って行きたいところね。容器はあるの?」


「あ、ああ。そこまでの数はないが、数リットル分ぐらいはあるだろう。」


「問題なさそうね。じゃあカース、あなたがその容器に毒を汲んでおきなさい。いいわね?」


「押忍!」


私が頼んだことなのだから当然だ。魔力が残り少ないので、パッと行ってパッと終わらせよう。うっかり足を滑らせて毒のお池にはまったらさあ大変だな。つーか死ぬ。やっぱゆっくり行こう。


「明日でもいいかな? 魔力が残り少ないもんでね。」


「もちろんよ。慌てることはないわ。今日のところはしっかりと打ち合わせをするわよ?」


「押忍!」


うーん、母上が仕切ってくれるからありがたい。体感で残りの魔力は一割以下。明日には三割ちょいには回復してるだろう。

毒もスライムも相手にするには魔力を食いすぎるんだよな。魔力ポーション以外の回復方法もあるにはあるんだが……あんまり意味がないしな。大人しく休むのが一番だ。

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