第1122話 生き残ったダークエルフ

さて、到着。天然の洞窟か。山岳地帯だもんな。こんなのいくらでもあるんだろうな。


「ニンちゃーん! 会いたかったよ!」


ええーい抱き着くな。このぐらいでアレクはガタガタ言わないから別にいいけどさ。


「久しぶりだな、紹介するぞ。こちらが俺の最愛の女性アレクサンドリーネだ。」


「アレクサンドリーネ・ド・アレクサンドルでございます。ダークエルフの方々には私のカースがお世話になったそうで、ありがとうございます。」


「ピュイピュイ」

「ガウガウ」


コーちゃんにカムイも初対面だよな。


「ひええ人間がもう一人にフェンリル狼? それに大地の精霊様!? ニンちゃんって凄いんだね!」


「ニン……ちゃん?」


私が抱き着かれても顔色一つ変えなかったアレクが反応した!?


「あー、こいつらってね。人間の名前が覚えられないんだって。だから僕のことをニンちゃんって呼びやがるんだよね。」


「そ、そうなの……」


「それより、事情を教えてくれ。婆ちゃんには会ってきた。当然あのまま放ってなんかおけない。」


「うん……入って……」


ほう、中は意外と広いんだな。つーか全然岩がゴツゴツしてない。すでにフラットに加工済みってことか。やるな。


「ニンちゃんか!?」

「あの時の人間だって!?」

「来てくれたんか!」

「さあこっちだ!」


何人か見覚えがあるような気もするが、区別などつかない。


「よう、坊ちゃん。よく来てくれたぜ。」


ん? こいつも分かる。確か……


「クライフトさんだったね。その節はありがとう。この子があの首飾りの持ち主だよ。」


「んあ、あれほどの贈り物を貰うとは幸せな人間だぜ。俺ぁクライフトハンスイェルクトゥスってんだ。オリハルコンを鎖に加工する時ぁ往生したぜぇ?」


そんな長い名前だったのか……初対面でそれを名乗られたらクライフトすら覚えられなかっただろうな。




それから全員の前でアレクにコーちゃん、カムイの紹介を済ませる。


そして事情を聞く。一体どうしてこうなった……






事の起こりはほんの二週間前の朝食後。どこからともなくマウントイーターが現れてイグドラシルの幹に吸い付いた。何人ものダークエルフが戦ったものの、魔法を吸収されるばかりでどうにもならない。それどころか何人も触手で掴まれて全魔力を吸い尽くされてしまった。そいつらの大半はそのまま死んだ。


もしも、このままイグドラシルの魔力を吸い尽くしてしまったら、マウントイーターがどこまで強くなってしまうか分からない。当然ことはソンブレア村だけの問題ではない。この次は他の村のイグドラシルを襲うことも十分考えられるのだから。

他の村に恩のあるソンブレア村だ。マウントイーターを解き放つわけにはいかない。どうあってもここで食い止めるしかない。そう決断した婆ちゃんの行動は早かった。次の村長を指名すると、その身をマウントイーターに吸わせた……


吸わせながら禁術・毒沼を使い……見事、マウントイーターは消滅した……跡形もなく……

根元で使うしかなかったため、必然的にイグドラシルまでもが枯れ果てて……塵となってしまったと……


そして生き残った村人は一旦ここまで避難して今後の対応を考えているそうだ。


「婆ちゃんからはダークエルフ族を頼むと言われた。だから例えば全員をフェアウェル村なんかに連れて行くことはできる。他にも俺の領地があるからそこで好きに暮らしてくれてもいい。」


「え!? ニンちゃんって領主だったのー!? やっるぅー!」


「何もない領土だけどな。その辺りの判断は任せる。ただ俺としてはどうしても婆ちゃんを救いたい。救うのが無理なら……死なせてやりたい……」


「カース……」


私を心配するアレク。

ダークエルフの集団の中から一人が前に出てきた。美形中年だ。


「こうして話すのは初めてだろう。私は新しく村長に指名されたギーゼルベルトヒルデブラントだ。よろしく頼む。」


「カース・マーティン。何でも言ってくれ。」


「先に私の考えを言っておく。薄情だが前村長インゲボルグナジャヨランダ様を救う気はない。私の使命は生き残った全ダークエルフの命を背負うことだ。これが前村長から課せられた任務なのだから。」


さすがに婆ちゃんに指名されるだけあるな。すごい責任感だ。


「当然だろう。婆ちゃんは地獄の苦しみの中、俺にみんなを頼んできた偉大な村長だ。その意志を無にする気はない。だから一人でいい。知識が豊富な者を貸してくれないか? 禁術・毒沼を解毒する方法があるとは思えないが、何かできることがあるはずなんだ。」


「一人でいいのなら…… クロノミーネハドルライツェン。カース殿にご協力するのだ。よいな!」


「もっちろん! ニンちゃん何でも聞いてね!」


クロミかよ。


「ああ、よろしく頼む。じゃあとりあえずどうする? フェアウェル村まで送ろうか?」


私もあっちの村長に知恵を借りたいしね。


「ではまず三割ほどをフェアウェル村に頼みたい。他のエルフの村にも伝令を出さねばならぬしな。」


「乗せるだけなら連れて行くが? 確か四つか五つぐらい村があるんだよな?」


「ああ、我がソンブレア村と関係のあるエルフの村は五つだ。」


結構あるのね。気は急いているが、婆ちゃんの意志も無にはできない。まずはダークエルフ達の安息が先か。まあこいつらならどこでも普通に暮らしていけそうだけどね。


よし。まずはフェアウェル村に出戻りだ。

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