第1099話 イグドラシルの試練
出発して何時間経ったのだろうか。いつの間にか霧がかかったかのように地上は見えなくなった。そして疲れを感じた私達を待ち構えるかのように枝が真横へと伸びていた。これほどの巨木の枝ともなると下から見ればそれはもう屋根だ。横に回り込まないと上に出ることなどできまい。思わぬ手間だな。さすがにオーバーハングしている所を登る技術も体力もないからな。
「アレク、あれの上に出たら休憩しようか。」
「それがいいわ。腕がかなり疲れてきたもの。」
私もだ。私達のような素人がクライミングをすると、手ばかりが疲れるらしい。本来ならば足を有効に使うべきだとか。裸足は辛いぜ。
よし、やっと一つ目の枝の上に出た。これで休めるな。
「すごいわね。枝なのに学校の校庭みたい。その気になったら住めそうだわ。」
「かなり広いよね。とても木の上とは思えないよ。あー疲れた。休もうよ。」
寝転がる私。今は何時なんだろう。太陽は見えないのに明るい。そして疲れは感じるが眠気は感じない。妙な気分だ。
大の字に横になった私の腕を枕にするアレク。髪の香りがふわりと漂ってくる。シャンプーもリンスもないのにとてもいい匂いだ。
うーん、このまま寝てしまいたいのに全然眠くない。疲れがとれるまで横になっておくしかないな。
それからも登っては枝で休み、登っては休みを繰り返す。体は疲れるのに全然眠気が襲ってこない。時間だっておかしい。朝からもう何十時間も経過しているはずなのに明るさが全く変わらない。一体どうなってるんだ?
「カース……ここ、怖いわね……」
「うん……意味が分からないね……」
こんな所を何年も……いや、村長は二十何年経っていたことを降りてから知ったと言っていた。まさか浦島太郎状態なのか? さすがに二十年もクタナツに帰らないわけにはいかないぞ。みんなに心配をかけすぎてしまう。せめて五年以内には帰らないとな。
休めば体の疲れはとれる。しかし眠れないため精神的な疲れが全くとれない。これがイグドラシルの試練か……
そしてダークエルフのばあちゃんが言っていたことが今になって気になってきたぞ。登ったきり戻ってこない若者がいると。
それはおかしい。
ここは木なのだから下に落ちれば死体ぐらい残るはずだ。なのに戻ってこないとは一体どうしたことなんだ? 確かばあちゃんは飽きずに登れと言っていたが……全く分からないが先人のアドバイスは貴重だ。アレクとも相談しつつ、精神が参ってしまわないよう地道に登るべきだろう。
だが……
もう参った……
時間の感覚が分からなすぎて頭がおかしくなりそうだ。
「アレク……何日経ったと思う……?」
「さあ……」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
コーちゃんは気にしてないが、カムイがもう飽きたと言っている。早えーよ。そしてアレクの態度がおかしい。普段からは想像もできないほどの素っ気なさ。そこらのナンパ男を相手にするかのようだ。これは危険な状態だぞ……どうしよう……
何か遊べる物があればいいのだが、聖衣以外は持ち込むこともできなかった。完全に身一つで登るしかない。そこいくとフェルナンド先生なんか話し相手すらいない完全な孤独のはずだ。でも先生っていっつも一人旅してるから平気なのか?
とりあえず、次の枝に着いたから休憩だ。アレクを何とかしないと。
「アレク、ここに寝て。」
私の聖衣を脱ぎ、下に敷く。下は地面のようだが、実際は表面がゴツゴツした木の枝である。
「今そんな気分じゃないわ……」
うっ、アレクが冷たい……そして誤解をしている。
「いいからうつ伏せに寝て。」
ここは強引にいこう。きっと分かってくれるはず……
「もう、なによ……あっ……」
「疲れたよね。眠れないし、時間の感覚はないし。頭がおかしくなりそうだよね。でも、僕は大丈夫だよ。だってアレクと一緒だし、コーちゃんやカムイもいるからね。」
体の疲れはきっと心に影響する。だからせめて、マッサージだ。少しは違うんじゃないかな。腕、肩をゆっくりと揉む。背中や腰は指圧、脚は軽く叩いたり揉んだり。
「あっ……カース……」
「疲れが溜まってるよね。しばらくゆっくりしよう。さあ、目を閉じて。眠れないけど少しは落ち着くよ。」
「うん……」
おっ、リラックスしてくれたかな。もみもみ。
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