第1091話 王太子妃登場

そうやって談笑していると不意に演奏が止まった。


『皆のもの! 今日の良き日にさらにめでたい知らせがある!』


国王の声だ。拡声の魔法を使ってやがるな。


『今まで保留にしていた王太子ブランチウッドの婚約者が正式に決まった! ゆえにこの場で発表したいと思う! 二人とも入って参れ!』


会場の照明が落ち、入り口にスポットライトが当たる。新郎新婦入場かよ。宮廷魔導士も大変だな。


華やかな音楽とともに姿を見せたのは、王太子ブランチウッドと、なんとソルダーヌちゃんではないか。こいつはびっくり。


「アレクは知ってたの?」


「もちろん知らないわ。まさかあの子がカースを諦めるなんてね。でも、さすがの決断力だと思うわ。」


決断力一つで王太子妃の座はゲットできまいが……それにしてもすごいな。すごいのは辺境伯の政治力かソルダーヌちゃんの行動力か。だって王太子の正室にはアジャーニ家の直系の女の子でほぼ決まりって聞いていたが……何にしてもめでたいことだ。祝福するぜ。ねー、コーちゃん。「ピュイピュイ」


『ローランド王国を支える諸侯よ! 王都を支える重臣たちよ! 本日は父、クレナウッド陛下の即位式によくぞ来てくれた! このめでたき日に予の婚約を発表できるとは望外の喜びである。さて、肝心の相手だが、卿らも知っていよう。フランティア辺境伯家の四女ソルダーヌだ。勇者の血と英雄の血が結ばれるのだ。これほど王国の将来にとって明るいことがあろうか!』


勇者と英雄。言葉にするとすごいよな。今回が初めてってわけじゃあないんだろうけど、王家と辺境伯家か。心からかどうかは分からないが歓声がすごいな。


『ソルダーヌ・ド・フランティアでございます。この度は長年恋い焦がれておりましたブランチウッド様に婚約者として選んでいただき天にも昇る思いです。ローランド王国を想う気持ちは私も皆様も同じはずです。共に手を取り合い王太子殿下を支えていこうではありませんか。』


すごいな。思ってもないことを真剣に訴えてるな。領地持ちの貴族が王国全体のことなんか考えてるはずがないってのに。それともソルダーヌちゃんも自分のことしか考えてないという皮肉か?


『どうだ皆よ。暴れ一角馬ユニコーンと渾名されたソルダーヌも随分と成長したと思わぬか? さて、結婚なのだがソルダーヌが貴族学院を卒業する三年後を予定している。この場の全員が生きて参加することを予は望んでいる。どうかその日まで壮健たることを祈っているぞ!』


拳を突き上げた王太子に大きな歓声があがる。健康を祈ってんのか反乱を牽制してんだか分からない挨拶なのに。反乱か……今って結構チャンスなんだよな。近衛騎士に宮廷魔導士、それに王国騎士が軒並み数を減らしてんだもんな。王都の動乱から二年半ぐらいじゃあまだまだ回復してないだろうし。先王の退位に合わせて引退した人材だってかなり多いもんな。




またまた賑やかな宴が始まった。今日はもうずっとお祭り騒ぎか。


「カース殿、アレクサンドリーネ嬢。本日はよくぞ出席してくれた。礼を言うぞ。クタナツからはるばる来てくれたのだろう?」


おおう、王太子だ。ソルダーヌちゃんも一緒か。


「お久しぶりです。本日はおめでとうございます。」


朝ぶりかな。


「おめでとうございます。王太子妃様もおめでとうございます。」


「ちょっとアレックスったら! まだ早いわよ! それにそんな他人行儀な……」


「冗談よ。おめでとうソル。」


アレクとソルダーヌちゃんは二人でわいわい話し始めた。仲が良くて素晴らしい。おっ、キアラも一緒か。女三人寄れば何とやら。


「それで、カース殿はいよいよ旅立ってしまうのか? 寂しくなるな。」


「いえいえ、私とアレクサンドリーネがいなくなったところで、さしたる影響など。」


「兄上、カースは私の誘いを蹴って旅立つと言うのです。酷い男です!」


フランツも参戦か。


「ふふ、我ら王族には叶わぬ夢だな。いや、お前は行きたければ行けるな。カース殿に同行するか?」


「ご冗談を。私は私でキアラとの将来を固めるべく動かなくてはなりませんので。なあカース、無事に帰ってきてくれよ?」


「ああ。フランツとキアラの結婚式も見たいしね。」


うっ……私は何を言っているんだ……


「三年後に帰ってくれば予とソルダーヌの結婚式だ。合同開催もできるぞ? そなたとアレクサンドリーネ嬢の結婚式とな。」


「それはおもしろそうですね。気に留めておきます!」


三年後か。私もアレクも十八歳だ。結婚式にはぴったりの歳だな。王太子の結婚式と合同ってのはちょっと嫌だけど、心の片隅には置いておこう。


「三年後では私とキアラの結婚にはまだ早いな。早くてもう六年ぐらいか。」


あーフランツぶん殴りてぇ。


「三年も先のことを話すと魔神が笑うと言う。ここには魔王がいるから笑い飛ばそうではないか。さあ、杯を持て。改めて今代のローランド王国に乾杯だ!」


王太子は上機嫌か。いつの間にかアレク達も集まって乾杯だ。ところどころイラッとはするが楽しい夜だ。すっかり王太子や王子とも仲良くなってしまったな。取り込まれてる気もするけど、どうせもうすぐ出発だしね。何年で帰ってくるんだろうな。一週間だったら笑うけど。

何にしてもソルダーヌちゃんが幸せになることを祈るのみだな。私の心に少し引っかかってた罪悪感が消えたぜ! ダミアンとリゼットの結婚式を見たらさらに消えるかな。旅立ち前の最後の予定だもんな。

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