第1064話 週末の出来事

それからの一週間は早かった。私と母上のコンビネーションは抜群なようで仕事がすいすいと進むのだ。数十キロルにも渡る断崖絶壁だったものは船着場らしき場所へと変貌した。細かい整備や海中部分の工事はまだまだこれからだが大まかな形は見えてきた。


そしていよいよ明日はアレクに会える日だ。本当は今日の放課後に迎えに行きたかったのだが、さすがに母上が働いているのに私だけ抜けるのは気が引けたのだ。だからデメテの日である明日の早朝に出発する。そして領都で二泊して月曜日、いやヴァルの日に戻ってくる予定だ。さーて、今日の仕事も終わりだな。今夜は露天風呂にでも入って早く寝よう。




「カース君。やっと会えたよ。」


忘れてた。現場が違うせいか全然会わなかったんだよな。


「やあジーンお疲れ。今から夕食かい?」


「ああ。明日は休めるから今夜はカース君のところに泊めてもらおうと思ってな。いいだろう?」


「いいけど明日は早朝から領都に行くからね。」


「くっ、さすがにそれを邪魔する気はない。僕はこっちでゆっくり過ごすとするよ。それよりカース君の仕事ぶりは凄いな。魔力は大丈夫なのか?」


実は大丈夫ではない。


「おおむね問題ないかな。とりあえず晩飯にしようよ。」


母上から一日に三割ちょい抜かれて、自分で使うのが一割ぐらい。翌朝までに回復するのが一割半ぐらい。ちょっと前には一晩で二割は回復してたんだけどな。仕方ないから騙し騙しポーションを飲みつつ連日の作業をし続けて現在の魔力はとうとう一割以下。明日には三割近くまで回復するはずだが。領都に行くだけなら一厘も消費しないから全然問題ない。

暗くなってきたな。冬は日没が早い。あー腹減った。今夜の食事は何かなー。ここの食事はマトレシアさんが携わってんだよな。仕切ってるわけではないようだが。そりゃあ旨いわ。




カンカンカン カンカンカン

カンカンカン カンカンカン


なっ!?

この警鐘は!?


「カース君! これは!?」

「魔物だ! それもヤバい奴だ!」


ここの周囲はきっちり警備されているはずだ。ショボいけど城壁だってある。それなのにこのタイプの警鐘が鳴るってことは……



大襲撃……



マジかよ……なにもこのタイミングで来るなよ……

一体いつぶりだろう。前回は確か私の入学よりだいぶ前だから十年ぐらい昔か。あの時も冬、私は何もできなかった。しかし今日は違う!


「騎士はこっちに集まれ!」

「冒険者はこっちじゃあ! 来いやぁ!」

「平民は中心に寄るんだー!」

「魔法使いはこっちだ! 聖女様はこちらにお願いします!」


私は魔法使いグループだな。冒険者として戦うより余程役に立つぞ。問題は魔力だな……とりあえず魔王ポーションを一本飲んでおこう。これ以上は今日はもう飲めないな。こんなことなら領都の自宅からネクタールを持ってきておけばよかったな。


「カース君はそっちか。僕は君を守りたいところだがわがままは言うまい。健闘を祈る。」


「ああ、気をつけてな。」

「ピュイピュイ」


ジーンは冒険者グループだな。集団行動は苦手そうだが。それは私もか。


「行くわよカース。」


「押忍!」


母上と一緒だと心強い上に誇り高い気持ちになるな。これってフェルナンド先生と歩いた時と似たような気持ちだな。




「よくぞ集まってくれた。我はクタナツ騎士団魔法部隊隊長ヴァーノン・ド・リードルーダ。名だたる魔法使いを前に恐縮だが指揮を執らせてもらう。」


顔は何回か見たことあるがさすがに名前までは知らなかったな。父上より歳上か。細いなぁ……スペチアーレ男爵を思い出してしまう。


「まず確認しておきたい! 残存魔力が三割に満たず本日はもう魔力ポーションを飲めない者はこちら来てもらえるだろうか?」


私は当てはまるな。二割弱だ。母上は違うよな。


「よし! 諸君は南西を担当してもらう! 騎士団第一部隊に付いてくれ!」


「待った。確かに私は二割ぐらいしか残ってませんが、それでもうちの母の総魔力より多いです。激戦が予想される方へ行きます!」


普通の魔法使いの二割と私の二割は大違いだもんな。

母上と比べても二倍以上ある。


「いいだろう。では残った諸君! 魔物は南西と北東から来る! 我々は北東を担当する! ヘルデザ砂漠より押し寄せるグリーディアント、エビルパイソン、スコルピオンなどだ! また、この時期だが大小様々な虫系の魔物も交じっているようだ! 無理に倒す必要はない! なるべく海へと誘導するんだ! 具体的には…………」


なるほど。ここから一キロルも歩けば海だもんな。魔石や素材は惜しいが安全第一だもんね。大物さえいなければ十分守り切れるだろう。母上もいるし。

それにしてもグリーディアントか……あいつらマジで鬱陶しいよな。どんだけ全滅させても絶滅しやがらない。忘れた頃に来るんだもんな。


「カース、上に光源を打ち上げておきなさい。強めでいいわ。」


「押忍!」


『光源』


昼にしてやるぜ! さすがにこの程度の魔法なら全然魔力は減らない。これならみんなも戦いやすいだろう。虫系の魔物も方向感覚を失うだろうしな。


「いい明るさね。さすがカースよ。じゃあ次ね。カースは上だけ警戒してなさい。空飛ぶ魔物を通さないようにね。地上は私達に任せておけばいいわ。」


「押忍!」


この明るさだから下からでも十分見える。上は任せてもらおう。


「諸君! 準備はよいな! 来るぞぉ! 構え!」


ゾロゾロと見えてきた……先頭は、ワーム系か……デカくてキモいな……いやいや私は上に集中だ。




スティード君ママやセルジュ君ママも母上と並んで魔法を撃っている。やはりクタナツの貴族は強いな。魔法部隊も人達もそれなりの凄腕だ。安心して見てられるな。

城壁がショボいのが不安だが……

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