第1037話 試験終わって

教師の号令に合わせて氷弾を撃つ。だいたい二秒に一発ぐらいだ。これって教師もキツいよな。だから私に頼んできたのか?


「クラック! 記録は八回!」


「グラース! 記録は七回!」


「ゼルライト! 記録は七回!」


みんな結構やるよな。五発目ぐらいから結構ハードな威力なんだけどな。


「次! ゼマティス!」


「はい!」


おっと、お姉ちゃんの出番か。


「さあカース! きなさい!」


「一発目!」


『氷弾』


『氷壁』


ふむふむ。堅実に防いだね。


「次!」


『氷弾』


うんうん。さっきの氷壁は健在だ。このまま五発目まではクリアできそうだな。




「次!」


『氷球』


ここからは六発目。速度だけでなく大きさもアップ。斜めに氷壁を構築して威力を逸らそうとする学生もいたが、そんな相手にはこちらも撃つ向きを変えて対応している。つまり、ギリギリで新しい氷壁を構築するか何かをしないとあっさり壊れてしまうぞ。お姉ちゃんは……


『氷壁』


めっちゃ分厚くしてるじゃないか。魔力でごり押しかよ……なんだかんだ言ってもやっぱり魔力がないことにはどうにもならないもんな。


「次!」


『氷球』


それほどの氷壁でも七発目で崩れさった。撃つ間隔が短いからな。魔法が強力になればなるほど発動時間もシビアになるよな。


『風球』

『風操』


おお、ギリギリで逸らしたではないか。やるな。


「次!」


『氷球』


『氷球』

『氷球』


今度は斜めに打ち当てて方向を変えてようとしてきた、が……


『氷壁』


危な……ギリギリで防御が間に合ったようだ。半端な威力の氷球では私の魔法は逸らせないぞ。


「次!」


九発目だ。


『氷塊弾』


『旋風陣』


ほう……中級魔法か。大して溜める時間もなかったのに、さすがお姉ちゃん。竜巻並みじゃないか。私の氷塊がするりとお姉ちゃんを避けていった。


「最後だ!」


『氷塊弾』


『旋風陣』

『氷壁』


最後の一発は旋風でも逸らしきれず内側の氷壁に直撃した。崩れた氷壁の向こうではお姉ちゃんが両手で氷壁を受け止めていた。最後は力技かよ……もはや意地だろうな。


「ゼマティス! 記録は十発!」


「どう……やったわよ……」


お姉ちゃんはへなへなと座り込みながらもドヤ顔だ。魔力は大丈夫なのか? 試験はまだ終わりではないだろうに。




結局、十発の記録を出したのはシャルロットお姉ちゃんだけだった。さすがは首席。


「はぁ、ふぅ……アンタはあれだけ撃ちまくっても余裕みたいね……」


「余裕だよ。でもさすが魔法学院だね。みんなレベル高いんだね。」


「何上から見てんのよ……生意気ね……」


それは悪いが当然だな。さて、次の試験は何だろう?


「よし最後の試験は魔法対戦だ! まずはゲイモスとスプレイド! 位置につけ!」


これはいつも通りのルールだ。相手を円から出せば勝ち。ただ距離が近いな……五メイルぐらいしか離れてない。激しい撃ち合いになりそうだ。


「構え! 始め!」


魔法学院の二年生は見たところ五十人ぐらい。その五十人でのトーナメント戦が始まった。試合の効率は悪いが魔力の回復という面もあるのだろうか。各種ポーションは禁止らしい。


ちなみにお姉ちゃんは一回戦、どうにか勝った。首席って割には苦戦してるな。さっき魔力を使いすぎたせいだな。ペース配分は大事だよな。手首も痛めているようだし手の平はズタズタになっている。


中には魔力に余裕がある学生もいるようだが、魔力量が多いのだろうか。それとも上手く配分していたのだろうか。


これだけの人数がいるのに試合は一試合ずつしか行われない。試験だもんな。チェックする教師も大変だ。それにしてもさんざん魔力を使わせた上で最後に対戦とは……中々に意地の悪い試験だよな。


二回戦、三回戦と進みとうとうお姉ちゃんは四回戦で負けた。ついに魔力が切れたらしい。そして実技試験は終了。結果は後日発表されるらしい。トーナメントで優勝したからって首席とは限らないわけだな。昼からは筆記試験をやるらしい。昼にはまだ時間があるが、そろそろ王城に行くとしようかな。


「魔王殿。今回はご協力をありがとう。聞きしにまさる絶大な魔力に精密な制御。いいものを見せていただいた。これは私からのほんの気持ちだ。」


「おや、スペチアーレですか。よくご存知で。」


私の酒の趣味まで知られてんのかよ。ありがたくいただくけどね。


「ぜひともまた来て欲しい。それにここの施設は好きに使って構わない。」


「ああ、それなら一つ質問が。あれは何ですか?」


パラボラアンテナみたいなやつが気になってたんだよな。


「あれか。あれは魔法反射回路だ。あれに魔法を撃ち込むと跳ね返ってくるのさ。一人で鍛えるのには最適だ。」


「なるほど。ならさっそく使ってみます。」


自分の魔法がそのまま返ってくるなんて面白いじゃないか。


「おっと、先ほどのような硬い魔法はやめてくれよ。あくまで火球や風球などの硬さのない魔法限定だからな。」


おお、危なかった。狙撃を使うところだったぞ。


ならば普通に『火球』


ほほお! これは面白い! 壁に向かって蹴ったサッカーボールのように私めがけて返ってくるではないか! 返ってきた火球に火球をぶつけて相殺。威力を小さくして魔力感誘の練習にもいいし、心眼の稽古にも使えそうだ。うわぁこれ欲しいな。かなり高そうだが……


あまり時間もないし最後に少しだけ。


『豪火球』


自分で撃って自動防御で防ぐ。私の魔法はこんなにも危ない威力だということを改めて実感してしまうな。自動防御の魔力消費が異常すぎる……もう少し気合を入れたらドラゴンのブレス並みじゃないか……


よし、王子の用が終わったらまた来よう!

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