第1036話 魔法学院の試験

そのままゼマティス家に泊まった翌朝。


「カース、アンタ暇なんでしょ! 別に魔法学院に見物に来てもいいんだからね!」


朝からお姉ちゃんは元気だなあ。


「うーん、図書室に興味がなくはないね。」


「今日は試験なんだから! 実技を見せてあげるわ!」


「じゃあせっかくだから行ってみようかな。」


ああ、もう二学期も終わるもんな。期末試験ってとこか。図書室はそれが終わってからでもいいかな。

母上や姉上も通った魔法学院。カフェには行ったよな。王宮には昼時にでも顔を出せばいいか。あ、そんなら図書室に行けないじゃん。フランツウッドの奴は昼飯以外は暇がなさそうだし。


一応伝言だけ頼んでおこう。私が昼前にフランツウッド王子を訪ねると。




お姉ちゃんと同じ馬車に乗り魔法学院へと到着した。


「すぐには始まらないから適当に校庭をうろうろしてていいわよ。先生には言っておくから。」


「そうするよ。施設に興味があるしね。」


領都の魔法学校には様々な訓練用の施設があった。ここにはどんなのがあるのか気になってきた。うろついてみよう。広い校庭を。




まずは……定番の鉄の立方体か。一辺三メイルのものから五十センチのものまで多彩だ。みんなこれに魔法を撃ち込むわけだな。

それから魔力制御、正確性を高める射撃用の標的。これも定番だ。他には……


一風変わったものを見つけたぞ。パラボラアンテナのような曲面を持つ立体。表面にはたくさんの魔法陣が刻まれている。何をするものか全く分からない。説明ぐらい書いておいてくれよな。仕方ない、パスだ。迂闊に使って壊したら大変だからな。次行ってみよう。


小さな小屋だ。全て鉄製のようでひどく頑丈そうだ。鍵はかかっていない。入ってみよう。

何もない。何も置いてない。倉庫ではないのか……全く用途が分からん。


色々な施設はあるのだが、使い方がさっぱり分からないので意味がない。大人しく標的破壊でもやってよう。あれなら壊しても直せばいいだけだし。


あ、せっかくだからちょっと実験。鉄の立方体の前にムラサキメタリックの鎧を置く。そして前から『狙撃』

うん、やはりだめだ。立方体に傷が付かない。

生意気なことに、この鎧には『衝撃貫通』が通用してない。魔力が通らないってことはそういうことだよな。やはり小細工するよりごり押しでぶち抜くしかないか……『徹甲弾』

うん、鎧が少しだけへこんだ。古い鎧でこれだもんな。王都の動乱で偽勇者が装備してた鎧は本当に厄介だった。

絶対魔法防御か。まったく……生意気な金属だ……『五十連弾』


ふん、穴を開けてやったぞ。やはり私にはごり押しが向いているな。あー無茶な魔法は頭が痛い。試験が始まるまで座って待ってよ。錬魔循環でもしながら。




それから三十分も経たないうちにゾロゾロと学生たちが現れた。教師と思しき人物もいる。見学も私だけではないようだ。親、にしては若そうだな。身内なのかな?


「それでは実技試験を始める! 呼ばれた者から前に出て披露するように! まずは動的射撃から!」


動的射撃? まあ見てれば分かるか。



なるほど。教師が空中に氷球を打ち上げて、学生はそれを撃ち抜くってわけだな。いや、当てるだけでもいいのか。私とアレクがやった稽古と似ているな。

一秒に一回、計十回撃つわけか。正確さだけでなく断続して魔法を使う制御力までチェックしてるのね。今度アレクとやってみよう。


それにしてもみんな上手いものだ。撃ち抜けるかどうかはともかくきっちり当たっている。さすがに魔法の名門校だよな。むしろ氷の『球』なんだからピンポイントで中心に当たらないと撃ち抜けないよな。私の狙撃ならいけるか……

ちなみにお姉ちゃんも十発きっちり当ててた。中には大きめの火球で少々外れても結局当たる作戦をとっている者もいた。私の好きなごり押しをする者がいるとは。




「次は標的移動だ! これらの標的を二メイル動かせ! 制限時間は一分だ!」


おお、さっきの立方体か。てっきり標的破壊をすると思ったら、動かすのか。一辺が五十センチから三メイルまで計六個の鉄塊だ。一つあたり十秒……素手なら絶対無理だよな。一辺が三メイルの立方体って、全て鉄だとするなら軽く二百トンを超えるもんな。




ふむふむ。ほとんどの学生は『浮身』を使い、ほんの少しだけ浮かせて手で押している。試験はまだまだあるんだろうから魔力の節約も大事だよな。重量に比例して魔力を食うもんなあ。


ほう、お姉ちゃんは『浮身』と『風操』か。するっとクリアしたではないか。ちょっとキツそうだ。




「次は魔法受撃を行う!」


お、これは知ってるぞ。秋の大会でもお馴染みの種目だ。防御力のチェックだな。


「魔王殿! 試験を手伝ってはいただけないか!」


びっくりした。いきなり呼ばれたではないか。


「僕をご存知で?」


「むしろ知らない方がおかしい。噂に名高い魔王殿の手腕は興味が尽きないものでな。」


素直に頼まれたならやってみようではないか。


「おもしろそうなのでやってみます。どの程度の威力にしときましょう?」


「一発目は……『氷弾』このぐらいで。十発目は『氷塊弾』このぐらいでお願いできるだろうか。」


ふむふむ。一発目は私がよく使うライフル弾程度の大きさの氷弾か。それを手で投げる程度の速度で撃つのね。十発目は酷いな……身の丈ほどもある氷塊を新幹線並みの速度でぶつけてやがった……こんなの普通はどうするんだ? きっちり防ぐか迎撃しなければならないよな。あとは威力、サイズをきっちり十段階に分ければいいんだな。私の魔力制御を見せてやるとも。


「オッケーです。やりましょう。」


私と学生の距離は十メイル。学生は円の中に立ち、避けてはいけないし、倒れてもいけない。ルールは私の知っているものと同じだ。


おもしろくなってきた。

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