第1008話 処刑遊戯

会場の全員が興味津々といった目で私を見る。見世物じゃねーぞ、いや見世物か。

結婚詐欺で死刑。言葉だけなら重過ぎる気もするが、実際には何人もの女を食いものにし、奴隷に落としてきたんだからな。死刑じゃ足りないよな。


『氷壁』


そして『水壁』


「や、やめてくれぇーー! な、何をするんだぁぁーー! 悪いようにはしないって!」


「当たりめーだろ。オメーみてぇな腐れ外道を成敗するカースがすることだぜ? 悪いはずがねぇぜ。」


「ひっ、やだ、やだ! 助けてください! お願いします! な、何でもしますから!」


こいつって形振り構わないのね。さすが詐欺師。


「そんなことより説明聞いておかないとすぐ死ぬぜ? とりあえずこのロープ持ってろ。」


「ひ、ひいっ!」


サダークの腰から下は水壁で固定しているため逃げる事はできない。そしてギロチン台のように上には氷の塊が吊り下げられている。


「見ての通りこのロープはあの氷塊を支えている。お前が手を離せば落ちてくるだろうな。『浮身』の魔法も使っていいから一時間耐えたら無罪放免だ。分かったな?」


「ほ、ほんとなんだな!? 絶対だな!?」


「ああ、約束するぜ。一時間、腕力と浮身の魔法だけで耐えてみろ。おっと、口も使っていいぜ。」


「あぐっうぉ……へへ、約束したぜ! やってやるぜ! あの程度の氷、せいぜい百キロムだろ……俺の魔力を舐めんじゃねぇぞ!」


いきなり元気になったな。腕力には自信がないのか? せいぜい頑張れ。


「じゃあ俺の浮身を解除するからな。それから一時間だ。楽団の演奏時間で言えば五、六曲だな。いくぜ?」


浮身を解除。


「ぐっ……くそ、重てえじゃねえか……」


会場は結構盛り上がっている。みんな趣味が悪いな。こんなの見ておもしろいか?


中にはあれこれ話しかけてる奴もいる。


「何人の女を騙くらかしたんだ?」

「税の納め時だなぁ!」

「イケメン面が見る影もないぜ!」

「ねえ今どんな気持ち? ねえねえ?」


むしろいたぶってるだけか?


「うるせぇ! ガタガタ言ってっとぶち殺すぞ! 後で覚えておけやあ!」


おっ、まだまだ元気だな。


「調子に乗ってんじゃねぇぞ!」

「てめえ何様だ!」

「ちょっと顔がいいからってよぉ!」

「ねえ今どんな気持ち? ねえねえ?」


「殺す! この後でぜってぇ殺すからな! 覚えてやがっぐぉ!」


あーあ。市民の怒りを買ってしまったか。靴や酒瓶を投げつけられている。可哀想にねえ。


「いって、ちょ、待て、待てやあ! 約束が違うじゃねえか! こりゃ何だよ! 卑怯なマネすんじゃねえよ!」


「あ? 俺に言ってんのか?」


「こんなんアリかよ! やめさせろや! 約束が違ぇだろが!」


何言ってんだこいつ?


「おいっ! 黙ってねえでどうにかしろや! いっ、くっそ、おらぁ! クソ平民どもがあ! やめろや!」


こいつが口を開けば開くほどますます攻撃は酷くなっていく。ついに魔法まで撃ちこまれる事態となった。平民でも魔法は使えるもんな。


「熱っち、痛って、く、くそがあ! な、なあアンタ! 頼むよ! やめさせてくれよ!」


「知るかよ。リリスに頼んでみれば?」


「リ、リリス! 俺はお前と離れてやっと分かったんだ! お前こそが! 俺の人生最後の女だってな! だからリリス! 一緒にこれからの人生を歩んで行こう、な! 俺はお前なしでは生きていけないんだ! お前は最高の女だ! だから助けてくれええええーーー!!」


こいつマジで凄いな……契約魔法が効いてるから本音しか言えないはずなのに……助かるため心の底から思い込んでるってことか。

ちなみにリリスは無視している。口を開く価値すらないって顔だ。




「じゃあ私のことはどう思ってるの?」


ん? 誰だ? 露出高めのメイド服を着ているが。


「あ、会いたかったよ! ああ、君はいつ見てもかわいいよ! もっとその顔を見せておくれ!」


「私の名前を呼んで。」


「な、何言ってるんだよ。俺たちの間にそんなものは必要なかったはずだろう? お互いの存在が全て、逢いたいと思う気持ちが全て。そうだろう?」


それにしてもこいつ。この状態でよく口が回るもんだ。詐欺師としては一流だったのか。今では何の意味もないが。


「私の名前を呼んで。」


「なあハニー。俺たちの間に言葉はいらない。そうだろう? ああ、いつ見てもかわいらしい。そのつぶらな瞳に輝く素肌。君が幸せそうで何よりさ。」


「幸せ? 私が誰に買われたと思ってるの?」


「君のその顔色の良さからすると、上級貴族かい? 君に相応しい方ならいいんだけど。」


『火球』


「なっ! て、てめえ! 何しやがる!」


この女、ロープを焼き切りやがった。誰だか知らないが容赦ないな。これでサダークは魔力のみで氷塊を支えるしかない。魔力が切れたら即死だ。残り四十分。時計なんかないから体感だけど。


「私の名前はスカイ・アジャーニ。忘れたの? ああそう、騙した女が多すぎて覚えてないのね。政争に負けて一族丸ごと潰されて生きる術もなくて街を彷徨ってもう死んだ方がいいと思ってたら顔がいい男が助けてくれたと思ったら奴隷になって誰にも言えない目に遭わされてそんな環境が嫌でなくなった頃に、よくも私の前に姿を現せたものね……」


「もちろん覚えてるさ。スカイ。君の美しい髪を忘れるはずがないさ。会いたかったよスカイ。」


ギリギリで思い出したのを覚えてると言い張るのか。マジですごいなこいつ。


「私が殺したい人を教えてあげる。三位、魔王。二位、変態。そして一位はお前だよ。死ね。」『風弾』


「まっ、あっ、がっ、のぴっ」


あ、氷塊が落ちた。あの程度の魔法で集中を切らすんじゃないよ。まったく、血が飛んだじゃないか。危うくアレクのドレスが汚れるところだったぞ。


『しゅーりょーう! 思わぬ乱入があったが概ね予想通りの結末だったな! どうよお前ら! 魔王カースの処刑は見応えがあっただろぉ! これからのフランティアはよぉ! 強くなるぜぇ!』


「うおおおーー! ダミアン様ぁー!」

「ダーミアン! ダーミアン!」

「魔王すら配下なんですかー!」

「すごいぞダミアン様ぁー!」


結局ダミアンの人気取りに使われるのね。マジで抜け目がない奴だわ。今日の主役はアレクだってのに。


『よーし、カース! ド派手に燃やしてくれや! 跡形なくな!』


死んだら仏だしな。形だけ弔ってやるか。


『火柱』


もちろん周囲は熱くないように魔法の向きはきっちり制御しているぜ。ふふふ。




「すまんなリリス。自分の手でトドメを刺したかったんじゃないか?」


「いえ、死に様を目にできただけで十分です。ありがとうございました。」


リリスがいいならいいか。それにしてもこんなのアリなのか? まあ今回はダミアン主催の私刑みたいなもんだから法的にどうのこうの言っても意味はないが。それに見た感じあの子は青髪変態貴族の奴隷か。ならばダミアンと話がついてるんだろうな。それなら別にいいか。


『さあーお前ら! ちっと暗くなってきたが残り三十分! 盛り上がっていくぜー!』


残り時間、私とアレクはダンスに夢中になるのだった。まったく……今日の主役はアレクだってのに。あーダンス楽しい。

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