第1005話 アレクサンドリーネの成人祝い

デメテの日、前世で言うところの土曜日だ。

前世か……たまには夢に見ることもあるが、すっかり思い出すこともなくなったな。みんなどうしてるんだろう……


「おはよう……」


「おはよ。起きたね。お昼まで何してようかな。二度寝してもいいけど。」


「ねぇカース……夢を見たの……バラデュール君が……タリス達三人が……私を責めるの……なぜ自分達がこんな目に遭うのだと……なぜお前は無傷なんだと……」


「アレク……」


さすがのアレクもこたえたようだな。子供を撃ってしまったことは気にしてないようだな。いいことだ。


「私が油断したばっかりに……勝てるはずの相手に……あんな目に遭わされて……」


「つまり、アレクが弱かったのがいけないってことだね。でも、それを言ったら全員そうだよね。結局みんな弱かったのが悪いってことになるかな。」


「そうよね……同級生だからって隙を見せた私が甘かったのよね……それに依頼は信頼できる者としか行くべきではないわね……今さらだけど……」


私もよく甘いって言われるからな。あまり人のことは言えないが。


「とりあえず今回の件で大事なことはアレクが生きてるってことだよ。タリスちゃんだっけ? その子達に対しては何も言えないけど。それが全てだと思うよ。アイリーンちゃんも今からどんどん強くなるだろうし、アレクも負けていられないよね。」


「そうね。カースの言う通りだわ。生き残った者の勝ちよね。ねえカース、お風呂に入らない? 嫌な汗を流したいわ。」


「それがいいね。朝からお風呂でのんびりお酒ってのもいいね。よし、決まり!」


昼からも飲むだろうが、朝から飲んで何が悪いものか。冷えたエールが良さそうだ。ツマミは……リリスにお任せだな。


「ピュイピュイ」


酒の話題になるとコーちゃんは必ず反応するよね。お湯は好きじゃないくせに。水風呂を用意しようね。




色々とあってそろそろ昼が近い。コロシアムに出かけるとしよう。


「そうだったわ。ダミアン様はリリスにも来て欲しいそうよ。」


「そうなの? リリス、来るよな?」


「かしこまりました。」


今朝からマーリンはいないことだし、家は留守になるな。




私とアレク、コーちゃんとカムイ。そしてリリスの五人で馬車に乗りコロシアムに向かった。

何だか人が多くないか? 出店まで出ているし。そして入口に到着。受付までいるのかよ。


「ダミアン様に呼ばれたアレクサンドリーネよ。どこに行けばいいのかしら?」


「貴賓室へ向かわれてください」


「そう。ありがとう。」


貴賓室か。私は行った覚えがないな。アレクが知ってるなら問題ないだろう。


アレクの後を歩く私達。さーてダミアンは一体どんなイベントを考えているのやら。

おっ、ここかな。


「ダミアンいるかー?」


「おうカース来たかよ。アレックスちゃんも成人おめでとな。よく来てくれたぜ。」


「本日はお招きに預かり光栄でございます。」

「ピュイピュイ」

「ガウガウ」


「アレクサンドリーネ様。成人おめでとうございます。本日はどうぞ楽しまれてくださいませ。」


リゼットも来てたのか。


「リゼットもありがとう。」


「さて、そんじゃあ説明するぜ。今日の催し物はアレックスちゃんの成人祝いだ。本当はよ、うちのダンスホールでやろうと思ってたんだがよ。ドストエフ兄貴が先に押さえてやがってな。だから思い切ってこっちにしてみた。ついでだから一般客も入れて派手にやるってわけよ。」


アイデアはすごいが一般客か……人の成人祝いなんかに来て面白いものか? でも実際たくさん来てたしな。間近でアレクを見れるチャンスと考えると滅多にないことだわな。


「余興もたっぷり用意してあるからよ。何なら飛び入り参加もしてくれや。」


「おう。アレクのためにありがとな。さてアレク、それではお召し替えといこうか。」


「ええ、少し待っててね。」


さーて、アレクはどっちのドレスを着てくれるのかな。楽しみだぜ。


「お手伝いいたしますわ。」


リゼットは気が利くな。しかしアレクは普段から自前でやってるからな。手伝いが必要なものかどうか。


「それでダミアン? 何考えてんだ? オメーそんなにアレクを可愛がってたか?」


「ああ? 当たり前だろ? 俺はただ純粋にお前に恩を売りたいだけだぜ?」


「どうせそんなことだろうと思ったぜ。それにしてもやり過ぎだな。面白いからいいけどさ。ちっとは恩に感じなくもないぜ?」


「へっへっへ。俺は手際がいいからよぉ。昔から言うよな? 王を操りたければ王妃を操れってな。」


将を射んとすればまず馬を射よ、みたいなものだな。


「カース、お待たせ。どう……かしら?」


「おおお! アレクすごいよ! きれい! かわいい! 最高に似合ってるよ!」


昼だからだろうか。深い青の方を着ている。そして胸元に青く輝く金緑紅石。両耳を飾る小さなティアドロップ型のイヤリング。軽く頬紅を付け、ほんのりと赤い口紅を引いている。ほぼすっぴんだな。それでいてなんという美貌だ……


「うん……ありがとう……」


うわー、顔を赤くして照れるアレク。可愛すぎるぞ。


「おお、いいじゃねーか。さすがアレックスちゃんだぜ。おっ、いいネックレス着けてんなぁ。カースからの贈りもんか?」


「ええ、カースから……金緑紅石なんです。」


「ほおぉー。やっぱカースぁ金持ってんなぁ。」


「もうねーぞ。白金貨一枚すらねー。」


「はっはっは。お前も苦労してんなぁ。よし、そんじゃあそろそろ行くか。おお、カース。せっかくだからコロシアムの上を闇雲で覆ってくれや。ちょいと演出するからよ。」


誰のせいだと思ってんだよ。


「おう、任せな。」


貴賓室から出て、コロシアム内部へ。先日子供武闘会を行った武舞台がある場所へと。今日は武舞台はない代わりにステージが一つ、それ以外は全て丸いテーブルだ。料理がたくさん乗ってるじゃないか。みんな好き勝手に食べてるな。


ではアレクが入場する前に『闇雲』

日光を遮り、会場はほとんど真っ暗と化した。

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