第1000話 ターブレ・ド・バラデュールの葬儀

夕食後、私はアレクと騎士学校へ来た。スティード君の所へと。


「カース君……信じられないよ……」


「スティード君……遅かったよ……ごめん……」


「スティード君……ごめんなさい……私もアイリーンも後ろから……不意を……」


スティード君は泣いていた……

それを見た私達は、もう涙を堪えきれなかった……




「バラデュール君を殺したのは盗賊なんだよね……」


「ええ、どこにでもいる……クズのような盗賊だったわ……」


「バラデュール君は人質を取られたために……何もできず……くっ!」


あのメンバーの中でクタナツの人間はアレクのみ。そのアレクが気を失っていたから……誰も抵抗できなかったんだよな。人質がいたから……


「カース君……明日は多分全校で集会になると思う……良かったら来てくれないかな? バラデュール君の葬儀もあると思うし……」


「分かった。出席させてもらうよ。アイリーンちゃんは……」


「アイリーンには私が伝えておくわ。今夜帰ってくればだけど……」


明日か……バラデュール君はそこそこの上級貴族だよな。葬儀か……




それから私達は自宅に帰り風呂に入り同衾した。こんな時でも私とアレクは……止まらない……失くした何かを埋めるかのように。




翌朝。目が覚めるとまだアレクがいた。

ヴァルの日。前世で言うところの月曜日の朝にアレクがいるのは珍しい。たいてい私より先に起きて寮に帰っているのに。


「おはよ……朝からアレクの顔を見れて嬉しいよ。」


「おはよう。今日は学校へは行かないわ……私も騎士学校に行くことにするから……アイリーンへはリリスに伝言を頼んだわ。寮に帰っていればいいのだけれど……」


昨日の今日でもう葬儀。

それが普通ではあるのだが、バラデュール君のご家族はどう思っているのだろうか。当然私は話などしていない。アレクもだ。誰が彼の最期を伝えたのだろうか。


朝食もそこそこに私とアレク、そしてコーちゃんは騎士学校へと向かった。カムイは留守番だ。





騎士学校へ着いてみると、学生だけでなく来賓らしき人間も多数来場していた。つまり葬儀の現場はここなのだ。てっきりバラデュール君の実家へ移動すると思っていたのだが。


受付を済ませて中へ入る。校庭に祭壇が作ってあり、バラデュール君の棺桶が安置されていた。




騎士学校の校長らしき男性が挨拶をして、葬儀が始まった。ローランド神教会の神官がお経を唱えている。


お経が終わり説法が始まった。

思えば、私が転生して初めての葬儀はスパラッシュさんだった。その次がセロニアス騎士長、あれは慰霊祭だったが。今回で三度目。バラデュール君が葬儀を開いてもらえるレベルの人間であったことも関係あるかも知れないな。大抵の人間は死んだら焼かれて終わりだもんな。焼かないとアンデッドになってしまうのはファンタジーあるあるか。




「それでは生前の彼の姿、生き様、信念を思い起こしながらパイローナ神の御許に往けるよう祈りを捧げましょう。ナマス・アミターバ」


『ナマス・アミターバ』



そして数人がバラデュール君の棺桶の近くへと集まった。両親兄弟だろうか。


『総員合掌』


校長の声がかかる。


『火柱』


葬儀のフィナーレだ。家族により魔法が唱えられた。人を焼く臭いが以前の葬儀の時よりも強く感じられる。火力が低いためだろうか。




全て燃えるまでおよそ三十分。

これで葬儀は終わった。




「アレク……アイリーンちゃんはいた?」


「いないわ……どこにも……」


来てないのか……何を考えているんだ? それとも伝わってないのか?


スティード君達、騎士学校生はそのまま校舎内へと入っていった。平日だし今から授業があるのだろうか。


バラデュール君の家族らしき人達は神官とどこかへ行ってしまった。


「カース……私やっぱり学校へ行くわ……もしかしたらアイリーンが来てるかも知れないし……」


「そうだね。そうかも知れないよね。じゃあ僕は辺境の一番亭に行ってみるよ。ゴモリエールさんから話を聞いてみるよ。聞くだけで何もできないけどね。」


「ええ……ねえカース。今週末は会えるかしら?」


「もちろんだよ。いつも通りケルニャの日の放課後に迎えに行くからね!」


「うん……楽しみにしてる。じゃあ、またね。」


「うん。またね。」


そう言ってアレクは私の頬に軽く唇を触れさせた。ふわりと髪の香りが漂う。いつものことだが名残惜しいものだ。


さて、辺境の一番亭へ行ってみるか。




到着。従業員に取り次ぎを頼んでみると、すぐに案内してくれた。ここのような高級宿にしては珍しいな。


「おおカースか。よく来たの。まあ入るがよい。」


「おはようございます。昼間から何やってんですか?」


ゴモリエールさんは全裸だった。腹筋がすごい。背中の筋肉もすごい。これを鋼の肉体と言うのだろうか。


「なに、ちとアイリーンを可愛がっておったまでよ。なかなかに素質ある女子おなごでの。」


何の素質だよ……


「アイリーンちゃんはまだここにいるんですか?」


「おるぞえ。今はエロイーズと戯れておるわ。」


どうなってんだ……もうバラデュール君の葬儀は終わってしまったんだぞ……


「じゃあ結局アイリーンちゃんは……?」


「妾達のパーティーに入ることになったわえ。身も心も強くなりたいそうじゃ。学校も辞めてついて来るとの。」


もう立ち直ったのか? いくら何でも……

それならそれでいいが……あの扉の向こう側で何が行われているか、私が知る必要はないだろう。


「じゃあアイリーンちゃんにはアレクが心配してたとだけお伝えください。では僕はこれで。」


「うむ。伝えておこう。カースも楽しんでいけば良いのにのう。せっかく妾が相手をしてやると言うのに、欲の無い男よ。」


「あはは……」


本当にどうなってるんだか……

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