第981話 秋の大会2

魔法部門は対戦形式ではなく、魔法の速さと正確さ、威力、防御の堅さを競う種目となっている。

まず最初は標的射撃。

様々な距離、方向に二十ほど直径一メイルの標的が並んでいる。近くて五メイル、遠くて三十メイルほど離れているというものだ。


まずは一人目、サヌミチアニ代表のカスタマニちゃんか。


「始め!」


『火矢』


うーん、一度に二発だけ……正確さはまあいいとしても威力が……酷い。辛うじて的に黒い焦げ跡が残る程度で刺さるまでには至ってない。また、連射速度も遅く、二十の的全てに当てるのに五分近くかかっている。よくこれで代表になれたな……




二人目はホユミチカ代表のセキュアロス君だな。


「始め!」


『氷弾』


おっ、中々の威力じゃないか。的のど真ん中を撃ち抜いているぞ。正確さもバッチリだ。


ん? 次はどうした? どんどん撃たないと。




結局彼が全ての的を撃ち終えたのは十二分後だった。しかも最後の方は魔力が切れたらしく威力、正確さともに見れたものではなかった。全く、最近の若いもんは……




三人目は領都代表のシュレット君。どこかで聞いた家名なんだよな。


「始め!」


『風斬』


おおー! これは凄い! 風斬一発につき的を四つばかり真横に斬り裂いているではないか。しかも的の中心をきっちりと通っている。


その結果、一分も経たずに全ての的を切断することに成功した。やるなあ。




次の種目は標的破壊だ。

三つの標的を破壊する競技で、文字通り壊してもいいし、穴を開けてもいい、切断でも焼失でもよい。

標的は、木、岩、金属。一辺が五十センチほどの立方体が無造作に置かれている。それなりに硬そうなんだよな。


一人目は、サヌミチアニ代表か。ポーションでも飲んだのだろう、魔力は回復しているようだが……


木の立方体の角を一つだけ切り落とすことに成功した。




二人目のホユミチカ代表はポーションすら飲んでなかったのだろうか。何もできず延々と魔法の詠唱を続けるだけだった。よってナウム先生により失格を宣告された。




三人目は領都代表、シュレット君。

期待しているぞ。


『風斬』

『風斬』

『風斬』


おおー。風斬三連発で木の標的に大きくヒビが入った。もう少しで真っ二つになりそうだ。


『風斬』

『風斬』

『風斬』


おっ。やっと真っ二つになった。やるもんだね。次は岩の立方体か。


『風斬』

『風斬』

『風斬』


さすがに切り傷ぐらいは付くがヒビとまではいかないな。さあどうする?


『浮身』


おっ? 金属の立方体を高く浮かせて……岩の立方体に向けて落とした。これは当時アレクがやった方法だ。ご丁寧に金属の角を岩の切り傷に命中させる徹底ぶり。見事に岩の立方体は割れた。やるなあ。


「ここまでにします」


そこまでアレクと同じなのか。魔力配分にも隙がないようだ。私ならあの金属の立方体をどうやって破壊するかな? たぶん燃やすのが手っ取り早そうだ。




さて、最終種目は魔法受撃。ナウム先生が撃ち込む魔法をその場から動かず防がなくてはならない。


「最後は魔法受撃です。私が魔法を二十発撃ちますので、躱さずに防御してください。壁系の魔法で受け止めてもいいですし、球系の魔法で迎撃してもいいです。その場を動かずに魔法で対処するなら何でもいいですよ。魔法は段々強くなりますが避けてはいけませんよ。まずはあの標的をご覧ください。」


ナウム先生が指差したのは標的射撃の時の的だった。


「一発目はこのぐらいです。」


的の真ん中に水球がペチッと当たる。無傷だ。


「そして二十発目はこのぐらいです。」


キィンと鋭い音がしたと思ったら岩の立方体に大穴が貫通していた。氷弾かな?


「頭と胴体は狙いませんので、防げなくても死にはしません。でも降参するなら早めにしてくださいね。」


どこかで聞いたセリフだ。


サヌミチアニ代表とホユミチカ代表は棄権した。もう魔力がない上に領都シュレット君の腕前を見て心が折れたのだろう。


そんなシュレット君は現在十四発目を防いだところだ。風壁を巧みに展開し、ギリギリで体に当たらないよう軌道をずらしている。

そのまま十五発目も逸らしたが、十六発目が肩を掠めた。ナウム先生の氷弾の威力の前に逸せなくなってきているのだ。


ついに十七発目が肩に命中した。血が滲む。しかしそれでも倒れない。このままだと次が……


そして十八発目が寸分違わず同じ所に命中し、貫通する。苦しげな顔を見せるものの、それでも倒れないシュレット君。もう血が滲むどころではない。五年生でこの根性はすごいな。


とうとう十九発目。痛みのためか風壁を展開できてない。


「ぐがあっ!」


痛みのあまり叫び声まで……でも倒れてない。


「棄権はしませんね?」


ナウム先生が問いかける。


「僕は……負けられないんです……」


「いい返事です。では最後の一発です。」


ナウム先生の手元から氷弾が発射され、シュレット君は為す術なく同じポイントを貫かれた。あの先生もすごいよな。ふらふら揺れるシュレット君に何度もワンホールショットだもんな。


そして結果は。


「気を失っておりますが、最後まで倒れませんでしたので、記録は二十発となります。皆様、ナッシュビル・ド・シュレット選手に盛大な拍手をお願いします!」


見事だ。確かアレクでさえ二十発目は棄権したのに。防ぐ、逸らすに次ぐ第三の方法、耐える、か。避けるのはルール上だめだもんな。


あ、母上がすっと近寄りさっと治している。聖女と言われるだけあるよな。

さあ、そろそろキアラの出番かな。魔法ならキアラの独壇場とは思うがね。

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