第947話 アレクサンドリーネ VS キアラ

『さーあ! 準決勝第二試合を始めます! 一組目は! アレクサンドリーネ・アイリーン組! もはや説明不要でしょう! 建国以来の名門貴族アレクサンドル家の裔にしてクタナツ騎士長の長女! おまけに魔王カース選手とは将来を誓い合った仲! 血筋! 美貌! 魔力! 全てを兼ね備えたアレクサンドリーネ・ド・アレクサンドル選手! そしてその相棒は! 魔槍ベルベッタ様を叔母に持ち! 魔法学校ではアレクサンドリーネ選手と首席の座を争うライバル! アイリーン・ド・アイシャブレ選手ぅーー!』


『魔槍ベルベッタの姪っ子かい……ミニスカートは履いてないんだねぇ。そんなんじゃあベルベッタには勝てないよぉ?』


あぁもうアレク……心配すぎる……頬骨と肋骨が折れてるんだぞ? 私なら痛みで立っていられないに違いないのに……


『二組目は! これまた運命のいたずらかぁー! 魔王カース選手の妹! キアラ・マーティン選手だぁぁーーー! クタナツ学校四年生! まだ九歳! なのにここまで一歩も動かず勝ち上がってきたぁぁあーー! 無邪気な顔して迸る魔力は無尽蔵! ここからでも感じるほどに強大だぁーー!』


『ボスみたいに魔力を感じないのも怖いが……ここまであからさまに魔力を感じるのも怖いねぇ……」


『そんなキアラ選手の相棒は! 元上級貴族ダキテーヌ家はベレンガリア選手だぁー! 現在は……マーティン家でメイドをしつつ当主であるマーティン卿、いやマーティン様の妾でもあると書いてあるぅーー! ちょっと羨ましい! なおここまでベレンガリア選手は何もしておりませーん!』


『そこそこ強いだろうにねぇ。いい女が楽することを覚えたらロクなことになんないってもんさぁ。おっと、賭け率だけど……へぇ、一対一だねぇ。当てりゃあ賭けた金が倍になって返ってくるよぉ?』


キアラとアレクか……

魔力なら間違いなくキアラの方が上なんだが……


「カー兄はどっちが勝つと思うっすか?」


シビルちゃん……ここは選手用のベンチなんだが……


「そりゃあキアラさ。アレクはもう戦える状態じゃないんだから。アイリーンちゃんだって平静を装ってるけどダメージは大きいからね。」


「そーっすよねー。キアラの魔力ってゲロヤバっすもんねー。」


無事に終わってくれればそれでいいんだ。頼むぞアレク……


『それでは! 準決勝第二試合を行います! 双方構え!』






『始め!』


じわじわと間合いを詰めるアイリーンちゃん。

片や何もしないキアラとベレンガリアさん。


「魔法を使わないの?」


思わずアレクが問いかける。


「ベレン姉がー、最初の一分は何もするなって言うからー。アー姉も好きに攻撃していいよー。」


「へぇ……ベレンガリアさん? 私達はそんなに弱いですかね……?」


「ち、ちち、違うからね! ここまであまりにもあっさり終わってしまったから! 少しは大会を盛り上げないといけないんだからね!?」


「隙ありだ!」


アイリーンちゃんがベレンガリアさんに突きを入れる。


「ええー? 私に来るのぉー? キアラちゃんに行ってよ……」


アイリーンちゃんの突きを平然と躱してから、ベレンガリアさんは剣を構えた。


「むっ、その構え……無尽流か! それもかなりの使い手……相手にとって不足はない! 破極流アイリーン・ド・アイシャブレ! 推して参る!」


「だからキアラちゃんに行ってよね……」


なぜかアイリーンちゃん対ベレンガリアさんの戦いが始まった。ベレンガリアさんは放置して二人でキアラを狙った方が勝率が上がるってのに……アイリーンちゃんは脳筋だもんな……





「アー姉、そろそろ一分だよ? いいのー?」


「いいわよ。試合は十分盛り上がってるし、私は私で好きにさせてもらうから。キアラちゃんはカースのこと好き?」


「カー兄? 大好きだよー! フランツ君も好きだけどカー兄も大好きー!」


あ!? フランツだぁ!? あのクソ王子のことも好きだと!? キアラ……

でも私を大好きと言ってくれて嬉しい。顔のにやにやが止まらないぜ……


「私もなの。カースのためなら何だってできるぐらいに愛しているの……だから……負けないわ!」『氷弾乱舞』


おおっ! アレクの魔法が炸裂した! 数百発の氷の弾丸がキアラを襲う。でも、やっぱり無傷。喜んでいいのか、悲しむべきか……


「アー姉すごーい! 今のは……こうだねー?」


なぬあっ!? 氷弾乱舞と同じ魔法をキアラが使った!? アレクはギリギリで防御が間に合った。ギリギリだ。もし間に合わなかったら……全身穴だらけになっていたぞ……


「さすがね……じゃあこれはどう?」


『降り注ぐ氷塊』


酷すぎる……武舞台への被害など無視して空から氷の塊を降らせてるよ……アレク怖い……


「へー。面白いねー」


キアラにはノーダメージ……

自動防御を突破できない……質量攻撃には弱い防御方法なのに。


「ところでキアラちゃん。なぜこの大会に参加したの?」


「えー? 理由なんかないよー。シビルちゃんが領都に来たいって言うから来てみたらーカー兄が参加する大会があるって聞いたからー、なんとなくかなー?」



なんと。そもそも領都に来たのはシビルちゃんのせいなのか?


「シビルちゃんは何しにこんなとこまで来たの?」


「いやーカファクライゼラって店がゲロウメーって聞いたんすよー。コーヒーだけじゃなくてスイーツも超ヤバって! そりゃー行くしかないっすよ!」


クタナツと領都は普通なら片道一週間、私なら一時間とかからない。たぶんキアラも似たようなものなのだろう……

そしてたまたま領都に来たらこの大会をやってたから参加したと……


いつものことだが、キアラは何を考えているんだ……?

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