第940話 刺客の腕前

『さーあ盛り上がって参りました! 領都一子供武闘会! いい歳して参加してるオッさんもいますけど! それでは決勝トーナメントを開始いたします!』


昼からいきなり大盛り上がりだ。決勝に上がったのは十六組。すでに抽選は済ませている。私の対戦相手は分からないが出番は第三試合だ。


『さあ! それでは決勝トーナメント第一試合を始める前に解説を紹介しまーす! 公私混同も甚だしいダミアン様の愛人! 泣く子も四つに斬る極悪人! ラグナ・キャノンボールだあ!』


『元ニコニコ商会のラグナ・キャノンボールさぁ。剣鬼に組織を潰されて、魔王にぁボロクソに嬲られてねぇ。足腰立たなくされちまったよぉ。そして何の因果かダミアンに拾われた身の上さぁ。この上は領都で真面目に生きるとするさぁ。復讐がしてぇ奴ぁ受けて立つよぉ?』


「カース、おめーラグナに何したんだよ?」


おっ、ダミアンのやつ意外に気になるのか?


「大したことじゃないさ。両足をミンチにしてやっただけさ。」


「あー、榴弾か……あいつよく生きてたな……」


何で助けてやったんだっけ? 忘れてしまった。


『なお! 決勝からは相手を二人とも制圧するか場外に落とすことが勝利の条件です! さぁーて決勝トーナメント一回戦第一試合はぁ!

騎士学校の雄! 王国一の若き剣士! スティード選手! おまけはターブレ選手だぁ!

対するは!

騎士学校を卒業し、領都騎士団に入団! 期待のホープと言えなくもない! シグナリア選手! そして同僚のトラフィク選手だぁ! 先輩の意地を見せることができるか!』


シグナリア選手?

どこかで見た覚えがあるぞ?

それにしてもいきなりスティード君の出番とは。しっかり見なければ!


『双方構え!』




『始め!』



『『飛斬ひざん』』


おっ、対戦相手が二人揃って飛斬を撃ってきた。しかし、スティード君はすでに間合いを詰めているし、バラデュール君はどうにか避けている。


『乱れ飛斬四連』

『裏飛連斬十字打ち』


シグナリア選手は色んな技を使っているようだが、どう見てもただの飛斬だよな?


そんなことをしている間にトラフィク選手がスティード君によって倒された。


『おおーっと! 早くも二対一になってしまったぁー! シグナリア選手危うし!』


『飛斬』『飛突』


バラデュール君も援護をしているようだ。しかし……


『勝負あり! スティード・ターブレ組!』


『さすがに実力が違いすぎるねぇ。特にスティード選手かぃ? あの歳で隙のない剣術を使うじゃないかぃ……剣鬼を思い出してしまうねぇ……くわばらくわばら……』


スティード君はあっさりとシグナリア選手まで場外に吹っ飛ばしてしまった。現役の騎士が相手でもそうなるとは……さすがスティード君。もう絶対子供武闘会のレベルじゃないよな。



『それでは決勝トーナメント第二試合を行います!』





知り合いは出ないので気にすることもない。いよいよこの次、第三試合は私の出番か。相手は誰だ?





『会場の皆さま! 大変長らくお待たせいたしました! ついに! あの男の出番です! 見た目は平凡、顔はモブ、歩く姿はただの人! クタナツの魔王カース選手の出番です! あ、おまけにダミアン様も。』


モブだと? 姉上に黒コゲ女って呼ばれてるくせに。それにしてもモブと言って通じるんだな。


『そもそもさぁ、うちのボスをこんな大会に参加させるのが間違ってるんじゃないかぃ? 勝負になるのか疑問だねぇ?』


『ラグナさんの意見は無視です! 対するは!

フェリクス・エドゥアール組! 若手でそこそこ有望な冒険者コンビです! ぜひ食い下がって欲しい! 七等星の意地を見せてくれ!』


『掛け率は二十対一、ほぼ全員ボスに賭けてるじゃないかぁ……』


『大穴狙いは博打うちの華です! 決勝戦からのルールもカース選手には適用されませんし! ダミアン様がアプルの実を落とせば負けです! それでは始めますよ! 双方構え!』




『始め!』






『勝負あり……カース選手の勝利です……あとダミアン様も……』


悪いがやはり相手にならなかった。特大ホーミング風球は便利でいいわー。


『さすがにここまで盛り上がらないと運営が心配になるねぇ。もっとハンデを付けるかい?』


『ええ、二回戦でも賭けを盛り上げるためにも! さあ第四試合を始めます! 選手入場!』


おっ、さっきのあいつらだ。セキヤとクワナって言ったか。


『第四試合一組目はぁー! 海の向こうからやって来た! 勝利を掴みにやって来た! 東の国ヒイズルより現れた刺客! セキヤ・クワナ組だぁー! 対する二組目は! ネクタール・フリードリヒ組だぁー!』


『へぇ、あいつネクタールって言ったかぃ。いい剣持ってるじゃないかぁ。きっと金持ちなんだろうねぇ?』


『その通りです! ネクタール選手は領都一の大商会アジャスト商会! アジャーニ家の血縁なのです! 結婚したい! 前回はミスリル合金の鎧を着用し準決勝まで残っておりました! またフリードリヒ選手も惜しいところまで勝ち残った正統派魔法使いです!』


『さぁーて賭け率はと……五対二かぃ。さすがに地元有利だねぇ。あんないい剣を持ってて負けちゃあ堪らないねぇ。』


『さあ、時間です! 第四試合を開始いたします! 双方構え!』




『始め!』


先制したのはフリードリヒ選手だ。氷の魔法を乱れ撃ちしている。あいつらは見事な剣捌き、ムラサキメタリックの刀で斬り落としている。二人とも中々の腕前だ。


『なっ! あれはムラサキメタリックじゃないかいぃ!』


『知っているんですかラグナさん!?』


『ああぁ、やはりあの剣の出所はヒイズルだったんだねぇ。この夏、王都で大規模な暴動があったのは知ってんだろぉ? あれに参加した騎士や狂信者が持ってやがったのさぁ。剣も鎧も厄介な代物だったねぇ。』


『そういえばそうでしたね。近衛騎士ですら苦戦したと聞いております! さあ、そんなすごい剣を持つ二人ですが! 戦況は互角! フリードリヒ選手の魔法乱れ撃ちの前にその場に釘付けにされています!』


そこに猛然と突っ込むネクタール選手か。うーん、適当につけた私のポーションと同じ名前だな。まあいいや。

ほう……やるなぁ……

見事なコンビネーションで味方に魔法が当たらないどころか、ネクタール選手の体をブラインドにしてヒイズル組を狙っている。これにはあいつらも苦戦する……かと思えば……


『なっ! なんとぉー! ネクタール選手の剣と両腕がぁー! スパッと切断されてしまったぁー!』


『やはりかぃ。どうやら本物のムラサキメタリックのようだねぇ。』


そういやラグナの奴、控室でダミアンとイチャイチャしてたもんだから私があいつらと話していたのを聞いてないんだな?


勝負はフリードリヒ選手が降参し、ネクタール選手は救護室へ運ばれた。今なら問題なくくっ付くだろう。それにしても高そうな剣を紙のように斬り裂きやがったな……


あいつらが次の私の相手か……

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