第912話 朝風呂リリス

翌朝。私が先に目を覚ました。昼まで寝ててもよかったのに。コーちゃんも私の首に巻きついている。


よし朝風呂に行こうかな。コーちゃんは?


「ピュイー」


二度寝するのね。今度はアレクに巻きついて。かわいいなぁもう。


それにしてもマギトレントの湯船はいいなあ。お湯が冷めないからいつでも温かい。温泉並みじゃないか。


あれ? 誰か入ってる。ダミアンじゃないよな? となると……


「おはよ。早起きだな。」


「お、おはようございます旦那様! 使用人の分際で失礼を……」


「いやいや、構わんよ。マーリンから聞いてない? 好きに入っていいって。」


「はい、確かにお聞きしております。」


「そうなんだよ。ここの風呂は最高だからな。好きに入るべきなんだよ。な? いい風呂だろ?」


「え、ええ。奴隷の身には贅沢すぎるほどに……」


確かにリリスは奴隷だったな。この際だから聞いておこうかな。


「リリス、お前はなぜ奴隷になった? 魔力も高いし教養もある。そして礼儀だってわきまえている。そんなお前がなぜ?」


「私も若かったということです……あれは十数年前……私には将来を誓い合った男性がいました。」


うわぁこれは長い話になりそうだな。しかもリリスには契約魔法が効いてるから、私の質問には正直に答えてしまう。参ったな……




「……そして私の身は奴隷へと落ちたわけです……」


長かった……

簡単に言うとリリスは男に騙されたんだ。走れメロス的な結婚詐欺とでも言うべきか。

男が作った莫大な借金、そのカタとしてリリスの身柄を差し出された。男は金策をすると言って出かけたっきり、約束の日になっても帰ってこなかったと。そして法に則って売り飛ばされたわけか。あーあ。

男の名はサダーク・ローノ。どうせ詰まらん詐欺師なんだろうよ。


それからの話は特筆するようなことはなかった。いい主人、悪い主人。色んな主人の元を転々とし最終的に私の所に来たわけか。




「私は買われた先々で色んな目に遭いました。当主のお手付きになり内心喜んでいたら奥方から売りに出されたり、跡取りに見染められたと思ったら身に覚えのない盗みの罪をでっち上げられたり……」


「ツイてなかったな。いくら貴族と奴隷の結婚が珍しくないと言ってもな。」


まさにうちのオディ兄がそうだもんな。普通は周りが邪魔するよな。わざわざ奴隷と結婚なんかさせないわな。


「そうですね……私は昔からツイてないんです……旦那様に買われるまで……」


「ところで、そのサダークの顔は覚えているか?」


「ええ……忘れようとしても忘れられません……」


「賞金かけてやるよ。そいつに。」


「は!? 旦那様、今なんと?」


「サダークに賞金かけてやるよ。面白い事になりそうじゃないか?」


「し、しかしあのような小悪党に賞金など……」


「賞金額は白金貨一枚もあれば十分だろうよ。捕まったら面白いだろうしな。」


「は、白……旦那様……ありがとうございます……」


「見つかるかどうかは分からんけどな。じゃあ先に上がるわ。リリスはゆっくりしな。朝飯はいらない。たぶん昼前に食べると思うから。」


「は、はい。ゆっくりさせていただきます……」


リリスは年相応に熟れた身体をしていたな。どことなくマリーを思い出してしまった。それにしてもそんな詐欺師に引っかかっていたとは。許せんな。

いつだったかヤコビニの孫娘が奴隷として売られてたよな。あいつも男に騙されたって話だったが。同じ相手だったら面白いな。そのうち話でも聞いてみるか。


さーて二度寝二度寝。眠くならなかったらアレクの寝顔を観察していよう。ふふふ。

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