第859話 八等星昇格試験 中-2

訓練場に移動した私達。さっきまでここで試験してたってのに。


「さて、お前ら約束だ。金貨五枚賭けて模擬戦三回でいいな?」


「おお、っとうぉ?」

「いいぜっぐぅお?」

「逃げんっなぉょ?」


素直な奴らでよかった。きっちり掛かった。


「さて、誰から来る? 一対一なら素手でもいいが?」


「お、おい……今のって契約魔法か……?」

「だ、だよな……ならやっぱあいつマジで……?」

「魔王……なのか……?」


おや、気付いてくれたかな? でも賭け金が安い……


「素手って言ったよなぁ? そんなら俺がやるぁ! 魔王のタマぁとったらぁ!」


おっ、剣を抜いて襲いかかってきた。遅い。剣が振り下ろされるタイミングでこいつの右に一歩踏み込む。空振りはしたがすぐさま下から斬り上げられた剣が私に迫る。だがタイミングぴったりだ。靴の裏で踏み潰す。


「なっ!?」


あっさり折れてしまう剣。ナマクラだな。そのまま右足を踏み込み左足でハイキック。頭部に直撃、終わりだ。さすがに古龍のブーツはとんでもないな。


「ほれ、次は誰だ?」


「調子に乗んなよ! 次ぁ俺だ!」


おっ、槍使いか。突いてきやがるな。しかし引き手が遅い。突きっぱなしじゃだめだぜ?


「なっ!?」


簡単に掴まれてしまうからな。そのまま槍を引き寄せ腹に横蹴り。はいお終い。このブーツやっぱ凄いわ。こいつは槍術の心得がないままで槍を使ってるパターンか。弱い魔物相手なら問題なかったんだろうがな。


「よーし、お前で最後『火球』だな。」


お、私が喋ってるのにいきなり魔法かよ。まあ自動防御は張ってないけど効かない。やはり私の装備は反則だな。顔にさえ当たらなければいい。


「て、てめぇ、なんで魔法が効かねぇ!?」


「お前の魔力がショボいからだろ?」


『火球』

『火槍』


今度は当たらない。制御が甘いからだな。落ち着いて狙えよな。


『火壁』


あーあ、そんな視界が悪くなる魔法なんか使って。いいのかねぇ。

見えてないのをいいことに、火の壁の向こうにいるであろう相手を目掛けてドロップキック。胸部に命中、吹っ飛ぶ相手。そのまま近寄り顔を蹴り飛ばしておく。


よーし終わった終わった。さて、財布をいただこうか。どれどれ……


「お疲れー。魔法も武器も使わないなんて余裕ね。何やってんの?」


「約束通り金貨を五枚いただくだけだよ。あぁ、ブーツが武器みたいなもんだからね。」


「魔法も効かないし、やっぱりすごい装備なのね。」


足りない。面倒だなもぅ。


「おら、起きろ。」


頭を蹴って起こす。早く起きろ。


「ぐうっ……」


「起きたか。金貨が足りねーぞ。残り八枚、早く払え。」


「うぐっ……」


ほっ、魔力庫からチャリンと出てきた。


「よし、これで勘弁してやる。あんまり調子に乗るなよ?」


「お、おうぐぅ……」


あー、終わった終わった。そろそろ通過者を発表して最後の試験かな。


「手際がいいわね。すっかり慣れてる様子みたいだし。」


「なんだかいつもこうなるんだよね。懲りない奴らだよね。」


まあそいつらにとっては初めてなんだろうけどさ。




そして私達は受付前、エロイーズさんの所に集まる。


「さあて結果が出たよぉ? 呼ばれたモンは不合格さ。出て行きな。」


なんとも趣味の悪い呼び方な気もするが……




私は呼ばれなくてよかった。ベレンガリアさんもだ。


「では以上さ。残ってるモンは付いて来「待てよ!」な……」


ん? 不合格者か?


「なんで俺が不合格なんだよ! 説明しろよ!」

「そうだそうだ! 納得いかねー!」

「無傷のクセに合格してる奴だっているじゃねーか!」


エロイーズさんが鞭をサッと振るうと今の三人の頬が裂けた。痛みにのたうちまわっている。うわー痛そ。


「その程度の攻撃も避けられないから不合格なのさぁ。行くよ!」


エロイーズさんの後ろを歩き、到着したのはクタナツ城壁外の北東部。まだまだ荒地が多いエリアだ。


「さーて、お前達が筆記試験で最後に答えた問題、覚えてるよねぇ? 今からトロルが来る。答えた通りに行動できるかどうか見せてもらうよ? ああ、解答よりさらにいい行動ができたらアタシが可愛がってあげてもいいねぇ?」


なるほど。これは面白い。口だけでなく、なおかつ机上の空論でもないところを見せろと。ちなみに全員かなりやる気になっている。しかし四人組が前提なのはどうするのだろうか?


『あなたは駆け出しの四人組十等星パーティーのメンバーである。クタナツから北に五十キロル地点で他のパーティーからトロルをなすりつけられた。最善の行動を示せ』


「さぁて、最初はカプリスバインドの四人からだ。もうすぐトロルが来るよぉ? 本来ならば擦りつけだから準備する間もないんだがねぇ?」


あ、そうか。パーティー単位で参加してる奴らもいるのか。


「お前達の解答をまとめると、マシューとマーロウが足止めをしている間にワイトスが魔力を溜めて大きい魔法を使う。トドメにバーニンが首を刎ねると。ずいぶんと都合がいいねぇ? さぁて、トロルの登場だよぉ?」


あ、ゴモリエールさんだ。まさか、トロル役?


うお、いきなり襲いかかってるし。でもゴモリエールさんにしてはえらく遅いな。あー、トロル役だからか。ほうほう、前衛二人がしっかりと盾になっているじゃないか。しかし……


攻撃を受け止めてしまったため、吹っ飛ばされてる。二人ともだ。せっかくゆっくりやってくれているのに。それでもギリギリ魔力は溜まったようで大きめの火球をゴモリエールさんにぶち当てることはできた。その隙に首にも剣を叩き込めたようだ。


「合格じゃ。ギリギリじゃがのう。あれぐらいの火力ならどうにかトロルの動きを止めることはできようぞ。そしてトドメを狙ったお主、無理に首を狙う必要はない。今の場合、心臓に剣を突き立てた方が効果的じゃろうて。精進するがいい。」


なるほど。トロルを倒せる程度の攻撃をすれば合格と見なされるわけか。面白い試験になりそうだ。

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