第857話 八等星昇格試験 前

ヴァルの日。今日も朝からクタナツのギルドだ。先週九等星になったばかりだが、本日は八等星昇格試験だ。さーて、どんな試験なのだろうか。


少し早かったか。またまたミルクセーキでも飲みながら待ってよう。知った顔は……


「おやぁ? カースじゃないかぃ? 久しぶりだねえ。」


「エロイーズさん! おはようございます! お久しぶりです。」


うわぁ、相変わらず綺麗な人だわ。しかももう秋だってのにタイトなミニスカートなんか履いて。上半身だってほぼビキニじゃないか。へそなんか出しちゃって、妖艶だなぁ。しかし、私の下半身は反応しないのだ。


「アンタがこんな時間にギルドにいるとは珍しいねぇ。何か依頼でも受けるのかい?」


「いえ、八等星の昇格試験を受けるんですよ。エロイーズさんは?」


「こいつは奇遇だねぇ。アタシは試験官さ。ヌルい試験だがねぇ。」


おお、エロイーズさんが試験官か! ちょっと楽しみだな。


「どうだい? 一番で合格したらご褒美だ。濃厚なやつをカマしてあげようかねぇ?」


それは興味深い。しかし私の体はアレク以外には反応しないのさ。


「いやぁー、では合格してからのお楽しみってことで。ドキドキですね。」


「少しは大人びたかと思えば……いきなりジジイにでもなったってのかい? アンタもよく分かんないやつだねぇ?」


「あはは、よく言われます。そろそろ時間ですかね?」


「ああ、まったく……つまんない男になりやがって……」


エロイーズさんの嗅覚はすごいな。私が全然反応してないことが分かったのだろうか。私はアレクオンリーラブだからな。


さて、今日の試験はいきなり訓練場に集合だ。四十人ぐらいか。はたしてこれは多い方か少ない方か。


「さぁーて集まったねぇ? 八等星昇格試験を始めるよぉ? アタシは試験官のエロイーズ・ビーナシア、五等星さ。さあて内容だけど五分だね。五分ほど立っていられたら合格さぁ。簡単だろぅ? 質問は無いね? じゃあ始め」「質問だ!」


「あぁ? 手短に言いなー!」


「アンタと付き合いたい! 合格したら考えてくれ!」

「俺も俺も!」

「俺もだ! タイプを教えてくれ!」

「何でもするから!」

「お姉様ぁーん!」


「開始! さあ逃げな!」


問答無用か。下らない質問だったもんな。エロイーズさんの趣味はどうせイケメンなんだろ? 大抵歳下の美少年ばっかり連れてるもんな。あれ? ならば私も美少年なのか?

いやいや、客観的に判断しても違うな……残念ながら……はぁ……


「ほらほらほらぁ! 逃げないと酷い目にあうよぉー!」


私が十歳の頃は当時の私より少し歳上を連れていたように思う。ここ最近は知らないが多分今の私前後の年齢が好みなのではないだろうか。女の子もイケるって話だったな。さっきもエロイーズさんファンの女の子が黄色い声をあげてたもんな。色んな人がいるもんだなぁ。


「ほらほらほらぁ! 逃げらんないなら防いでご覧よ? 鞭はねぇ! 先端を見たってダメさ! アタシの手元をよく見て避けるんだよぉ!」


なんだかエロイーズさん段々興奮してないか? 女王様かよ。鞭が似合うよなぁ。鞭ならば接近戦に持ち込めばいいと考えた奴も何人かいるようだが、そもそも近付けない。全員ただの九等星だもんなぁ……

もし近付けたとしても、あの美しい足からは想像もつかない危ない蹴りが飛んで来るんだもんな。おまけに紫の布がチラチラして集中力まで奪われるって寸法だ。ところで今日は何色だ……?


ちなみに私は隠形を使って空中に浮いている。エロイーズさんにはバレてるかも知れないが、まあ構わんだろう。まさに高みの見物だ。そろそろ五分かという頃にナイフが飛んできた。やはりバレてたか。


「ほぅら残り十秒だよぉ! 男を見せなぁ! 女はキレイな肌を晒しなぁ!」


そんな肌も鞭で打たれれば酷い傷になるではないか。まさかエロイーズさんは夜のプレイでも鞭を使う派なのか!? それなら全力で逃げなければならないな。


いや、逆に考えるんだ。私がアレクを拘束し、細い水鞭で叩くのはどうだろうか? うーん、アレクなら喜びそうな気もするが……保留だな。あまり若いうちからアブノーマルなプレイをするのはよくない。せめて目隠しぐらいにしておこう。


「ほぅら五分だよ! ほらほらほらぁ! 立ちな! 立てば合格だよぉ!」


うわぁ痛そう……

無傷の奴なんていないじゃん……私ぐらいか。盾を持ってる奴もいるってのに、盾を持つ手を攻撃されてるし……逃げておいてよかった。


結局立ち上がれたのは約半数だった。上出来だよな。

おや、よく見たらあの人が来てるじゃないか。まだ九等星だったのか……


「さぁて、次は筆記試験だねぇ。せいぜいがんばりなぁ。ああそうそう、解答用紙が汚れて読めなかったら減点だからねぇ。気を付けな。」


一団はノロノロと移動を開始する。


「ちんたら歩いても構わないけどね? 開始は五分後、終了は砂計すなばかりしだいだよぉ?」


なるほど。色々と厳しいのね。私はさっさと移動しよう。




「来てない奴もいるねぇ。まあ知ったこっちゃない。始めるよ。開始!」


解答用紙を汚さぬよう血を止めたり、着替えたりしているのだろう。問題はほぼ四択か。楽勝だな。




またまた最後の問題だけ記述式か。

問題は……

『あなたは駆け出しの四人組十等星パーティーのメンバーである。クタナツから北に五十キロル地点で他のパーティーからトロルをなすりつけられた。最善の行動を示せ。』


面倒な問題だ。解答者の実力が仮定されてないってことは、自分基準でいいってことか。それとギルドからの評価に乖離がないように、かつ最善の行動を書けばいいのかな。


ならば私の解答は……


『とりあえずトロルを仕留めてから擦りつけを行ったパーティーを尋問する。契約魔法で洗いざらい吐かせて、偶然だったり、悪意でも真摯に謝罪すれば条件次第で許す。そうでなければ死んでもらう』


これって私のことを知らない人間が採点したら点数もらえないよな。まあ一問ぐらい落としても構わないさ。やはり早く終わったから出ていよう。今から採点するから時間が空くんだよな。昼飯にはまだ早いか。


「カース君、お弁当があるよ。」


おや、この声は。

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