第822話 ダミアンとカムイ

翌朝、朝食が済んだらギルドに行こう。そしてドラゴンの素材を回収したら領都へ。みんな無事だろうか……




ギルドの解体倉庫にて。


「おはよう。これが目録な。で、どうする?」


「おはようございます。拝見しますね。」


肉から骨から選り取り見取りだな。しかし組合長に少しは恩を売っておかないとな……


「では牙を半分、角は両方とも。それから魔石と髭を貰います。残りはギルドに納品ってことで。」


「了解だ。では査定と支払いに三十分ほど待ってもらえるか? 現物は持って行っていい」


「では早速……」


ドラゴンの肉にも興味はあったが、まだまだヒュドラの肉が残ってるしな。ドラゴンの鱗は皮とセットでファトナトゥールに納品したし、角は初だな。何を作るのがいいだろうか。




併設の酒場で待つ。私とアレクはミルクセーキ、コーちゃんは酒だ。朝からもう……


「カース……お金は大丈夫なの? いくらなんでも使い過ぎじゃあ……」


アレクが心配するのももっともだ。先日のアレクサンドライトに始まり、サウザンドミヅチのコート、この度のドラゴン装備一式。古龍のブーツもあったな。私の全財産はもう金貨千枚を下回ってしまっているのだ。

最盛期の二十分の一以下だ。この先、貴族の身分を失うことも確定したわけだし、少しは気をつけないとな。


「心配ありがとね。だいぶ少なくなったけど大丈夫だよ。さすがにもうお金を使う予定もないしね。」


しかし、今この瞬間思い出してしまった。楽園に風呂と公衆トイレを作ろうとしていることを。まあいいや、また今度にしよう。金が入ったら発注しようかな。普通の公衆トイレは汲み取り式だが、楽園でそんなことをするのは面倒だ。だから作るならスライム浄化槽式にするしかない。まあ汲み取り式にしてラグナの仕事にしてもいいのだが。

そして国王が新たな街を作るなら、私だって今のうちに楽園を広げておきたい。幸い岩はいくらでもあるから、わざわざ城壁を作らなくても無造作に置くだけでも充分な囲いはできる。今後領土を主張するために広範囲に渡って囲ってしまうのも面白いかも知れない。


うーん、これって領主の思考だな。やだやだ、この歳でワーカーホリックかよ。まだアルコホリックの方がマシだな。


「ピュイピュイ」


コーちゃんはいつものように、その場その場でやりたいと思ったことをやればいいよと言っている。この子ホントに凄いな……


コーちゃんが三杯目の酒を飲み干す頃、準備が出来たようで受付に呼ばれた。


「じゃあ少し待っててね。」


受付前に移動する私。無言で紙を見せてくる受付嬢。ああ、大金だから他に奴に聞かれないよう配慮してくれてるのね。どれどれ……

白金貨が二枚と大金貨四枚、そして金貨が五十二枚か。まあこんなもんだろう。


「オッケーです。組合長によろしくお伝えください。口座に入れておいてください。」


「了解いたしました。来月の昇級試験、忘れずに受けてくださいね」


「ええ、分かっております。」


一気に全財産が四倍以上に増えた。風呂とトイレを発注できるが……少し様子見かな。しばらくは無駄使いを抑えるつもりなのだ。


「お待たせ。じゃあ領都に行こうか。」


「ええ、領都も心配だわ。」


「ピュイピュイ」


え? カムイが心配? そうだよな……カムイも大変だったもんな……よし、急ごう。





到着。いつもの北の城門は無事だった。しかし城壁がだいぶ崩れていた。過酷な戦いがあったのだろう。


手続きをして、辺境伯邸に急ぐ。セバスティアーノさんが亡くなったんだよな……他にもたくさん……




辺境伯邸。外壁に変化はない。門番さんも居る。私とアレクは快く通してもらった。


「ダミアン!」


「おおカースか。オメーのことだ、どうせ無事だと思ったぜ。」


「先生の……肉片は……どうなってる?」


ミンチにしてしまったからな……もう焼却処分されていても不思議ではないが……


「……ちっと来いや……」


ダミアンの後ろを歩く。どこに行くんだ?




ダミアンの私室か。ここはさほど壊れてないな。


「これだ……」


ダミアンが魔力庫から取り出したのは……氷漬けにされたアッカーマン先生の頭部と胴体だった……


「おい……これはどういうことだ……」


「オメーがクタナツに行っちまった後だ。復活しやがったぜ。オメーにやられる瞬間、神酒の欠片を飲んだんだろうぜ。」


「ならなぜ死んでるんだ! ダミアンがやったのか!?」


「バカ言うな。俺やリリスじゃ相手にもならねーよ。例え寿命が切れかけた老いぼれでもな……」


「寿命? つまり先生はあれから復活したが、寿命か薬の副作用で死んだってことか?」


確か『神酒の欠片』は服用後の生存率が一割もないんだったか……


「たぶんな。カース、オメーは『達人』の人生最後の相手として選ばれたみてーだぜ?」


なん……だと……?


そんなことがあるのか? 死期を悟った先生は畳の上で死ぬことを良しとせず、戦って死ぬために私を狙ったと言うことか? ならば、それに巻き込まれた者は? そして死んでしまった者は? どうなると言うんだ!?

アレクから聞いた……『ワシの人生にはワシしかおらぬ』

あまりにも身勝手すぎる……しかし何かを極めるとは、そういうことなのだろうか……


「先生の遺体は俺が回収する。ダミアン、すまんが今回の件、なるべく広めて欲しくない。できるか?」


「まあ狙われたのは俺ってことになってるしよ。達人を見て生きてるのも俺とリリスだけ。どうにでもなるさ。」


「すまんな。こんな状況なのに……無尽流が心配でな……あ、そういえば先生以外の刺客はどうなった?」


足をぶち切って放置してた奴とか居たはずだが。


「全員死んでたわ。どうやら使い捨てらしくてな。失敗したら即、自殺するように契約魔法が掛けられてたようだ。」


「そうか……南の城門はどうだ? きっちり守れたか?」


「ああ、モーガン爺も奮闘したらしくてな。どうにか守り抜いたようだ。」


そうか。それならよかった。ドラゴンより強い奴がいたら知らせてくれとは言ったが、クタナツに帰ってしまったからな。


「ああ、それでよぉ。モーガン爺がオメーに渡す物があるとよ。後で顔出してやれや。」


「ああ、分かった。」


もしかして、あの時使った切り札を回収しておいてくれたのかな? あれを失くしたらミスリルボードどころではない損失だもんな。期待はしていたが。


「それからカムイだ。鼻の調子が悪くて参ってるぜ。何とかしてやれよ。」


「おお、そいつはすまんな。カムイはどこ……」「ガウガウ」


おおカムイ、元気そう……ではないな。鼻が辛いんだな。放っておいて悪かったな。『浄化』

鼻周りを念入りにきれいにする。真っ向勝負ならカムイは先生と五分に戦えたんだな。それなのに経験の浅さが出てしまって敗北と。「ガウガウ」

次はもう負けない? ふふ、頼もしいぞ。アッカーマン先生が相手だったんだ。負けても恥ではない。でもアレクと自分の命がかかってたもんな、負けましたじゃあ済まないよな。お互い命拾いしたな。「ガウガウ」


よし、カムイ。行政府に行く前にうちに帰って風呂にしようか。今回のご褒美だ、じっくり洗ってブラッシングしてやろうな。


「ガウガウ!」


「じゃあダミアン、一度帰るわ。行政府に寄った後でまた来るわ。」


「おお、すまんがリリスとラグナは借りてるぜ。ゴーレムもな。」


そうだった。ゴーレムがいたな。あいつらの戦闘力ってどうなんだ? セバスティアーノさんがいないと大変だな……

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