第773話 ゼマティス家の人々

王都の城門が閉まるにはまだ余裕がある。第三城壁内まで歩いても間に合うだろう。


「じゃあカース君、僕は兄上の所に行くから。」

「僕は姉上の所だよ。」

「私は寮が気になるから一旦帰ってみるわね。」


「あら? ゼマティス家に来ないの?」


「前回のお礼もあるからご厄介になりたいところだけど、兄上一家も心配なんだ。明日また顔を出すよ。」


あー、そりゃそうだ。スティード君の一番上のお兄さんは王都在住だもんな。それにセルジュ君もお姉さんが心配だわな。


「分かった。じゃあみんな、また明日ね。多分僕達は出かけないとは思うよ。」

「サンドラちゃんも気をつけてよ? まだ危ないかも知れないんだから。」


「ええ、分かってるわ。それに教授のことも心配だしね。」


「ピュイピュイ」


なんと、コーちゃんが付いててくれると。


「サンドラちゃん、コーちゃんも行くって。これなら大丈夫だよ。」


「コーちゃんたら……いつもありがとう。」


こうして私達一行は一時解散となり、私とアレクとカムイ、おまけにラグナはゼマティス家へと向かうのだった。




第三城壁内エリアはだいぶ復興が進んでいるように見える。たった二週間ですごいペースだな。結局盗賊はこのエリアまでは来なかったのか?


あ、ゼマティス家の門が直ってる。門番さんもいる。


「カース坊ちゃんのお越しだよ。門を開けてもらおうか。」


ラグナの奴えらそうだな。副メイド長って言ったか、そりゃえらいのか。


門が開く。庭は片付いているが、玄関はまだ壊れたままだ。外側を優先したってことか。貴族らしいな。




中には全員が集合していた。ちょうど夕食時、いいタイミングで来たものだ。


「どうも伯母さん、またお世話になります。」

「お邪魔いたします。」

「ガウガウ」

「只今帰りました。」


「カース君にアレックスちゃん、カムイもよく来てくれたわね。あなたもあちこち大変ねぇ。あらあら、それにラグナまで。」


「道中ムリーマ山脈でたまたま伯父さんに会いましたので、ラグナだけ拾ってきました。伯父さん達は歩いて帰るそうです。」


そしてラグナはそそくさと食堂から出て行った。




「慰霊祭は明後日よ。間に合ってよかったわ。お義姉さんが心配されていたわよ?」


「母上は心配してなかったの?」


「私は気楽な立場よ。建前上はゼマティス家ではないものね。でもお義姉さんは大変よ。兄上も長男もいないんだから。」


当主のグレゴリウス伯父さんも、長男のガスパール兄さんも修行中だもんな。シャルロットお姉ちゃんと、ギュスターヴ君では頼りにならないってか?


照れ臭い話だが、今回の事件で一番手柄は私だ。その私が出席しなければ王家としても格好がつかないわな。もしかして私の出欠の確認に何度も使者が来たかな? まあいいや。


「カー兄! 明日海に行こうよー!」


うおっ、キアラが一段と黒くなっている。小麦色の健康優良児だな。


「おーう! 行こう行こう! オディ兄とマリーも行くよね?」


「ああ行こうか。この夏は泳いでばかりだったよ。」


そういえばマリーに手紙を預かっていたな。後で渡そう。

しかも国王に村長の手紙も渡さないといけないか。面倒だな、明日でいいや。海に行く前に少し寄ってみるか。


大丈夫だよな?

他に忘れてる用事なんてないよな? スケジュール帳でも用意するべきか……

いや、忘れたら忘れたでいい。私は自由に過ごすんだ!


「ねぇカース、明日はサンドラちゃん達が来るんじゃなかった?」


あ、早速忘れてた……


「そうだったね……キアラ、悪い。海は昼からにしよう。セルジュ君やスティード君が来てからってことで……」


「えー、じゃあ先に行ってるねー。フランツ君と行くからー。」


ぐっ、あの野郎……キアラと海に行ってイチャイチャしてんじゃないだろうな……まだ九歳なんだぞ!


「そ、そうか……王子によろしくな。」


だったらついでに王子に手紙を渡しておくか……いや、さすがにだめだな。せめて側近さんに渡したいところだ。


「カース、夏休みは楽しめた?」


ん? シャルロットお姉ちゃんキャラが変わってないか?


「中々楽しめたよ。明日の夕食に面白い食材を提供するから楽しみにしといてね。」


「そう、それならよかったわ。今回はアンタばっかりに負担をかけてしまったもの。私はウリエンさんの家を守っただけ……」


「それはタイミングが悪かったよね。仕方ないと思うよ。それを言ったら伯父さんとガスパール兄さんなんか何もしてないんだから。」


「ふふっ、それもそうね。イザベル叔母様がいらっしゃらなかったらゼマティス家はどうなっていたことか。」


長女になってしまったもんな。お姉ちゃんも色々と考えることがあるんだろう。がんばって欲しいものだ。




和やかな雰囲気で夕食が終わり、ティータイムだ。風呂に入ったりお喋りをしたり各々が自由に過ごしている。やはりギュスターヴ君はそそくさと自室に戻って行ったようだ。


私はマリーに手紙を渡そう。


「マリー、これお母さんから。」


「ありがとうございます。その分では私からの手紙も読まれたようですね。何の非もない坊ちゃんに大変ご無礼をいたしました。」


「マリーさん。マリーさんの意図は分かったわ。私がカースに愛想を尽かすことなんてあり得ないわよ。」


おっと、アレク参戦か。


「それはようございました。お幸せで何よりです。」


いつものマリーかな。よかったよかった。


「あれ? そういえばアステロイドさん達は?」


全員集合かと思ったらそうでもなかったな。


「彼らはクタナツの凄腕だけあって、王都の冒険者達に人気なのです。飲みの席に呼ばれてるようですね。ただ、そのうち二人は顔を出すだけで戻ってくるでしょう。奥様の護衛ですから。」


マリーにとって母上は今でも奥様か。今さらイザベルさんとも呼びにくいだろうしね。


さて、そろそろ私達も風呂に入って寝るとしようか。明日は王城に行って、サンドラちゃん達を待ってから海だな。

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