第713話 真昼の情事

「信じられませんな。あのエルフがそのような矮小な理由で行動するはずがない。これには大きな裏があるはずです。」


何だこのジジイ? そんなの私が知るかよ。


「じゃあ他の二匹のエルフを取り調べしたらどうですか? 三、四日不眠不休で餌もやってませんが、まだ生きてると思いますよ。」


すっかり忘れてた。奴隷にするんだから死なれては困る。


「何を隠している? エルフと手を組んで王座でも狙うつもりか?」


助っ人に呼んでおいてそれはないだろ……王座なんか要らねーよ。あっ、キアラは欲しがるかな?


「いや、だから調べたらいいじゃないですか。明日の朝一、何なら今からでも。」


「そこまでだ。控えよ宰相。今はそのようなことを言っている場合ではない。すまぬなカースよ。こやつは心配性でな。悪気はないのだ。では、明日に備えて休んでくれ。他の二人もよろしく頼むぞ?」


宰相……アジャーニ家のボスか。クタナツ代官の祖父ねぇ。まあ……あれこれ疑う役も必要だわな。疑われる方は面倒だけど。


「はい。失礼します。」

「全力を尽くします。」

「ははあ!」


アステロイドさんはえらく小さくなってるな。逆にオディ兄は落ち着いている。

メイドさんに案内されたのは結構な大部屋。ここに三人とは贅沢だな。


「オディ兄、久しぶりにきれいにしてよ。」


「ああ、いいとも。じゃあアステロイドさんも、ほいっ!」


うーん、やはりオディ兄の洗濯魔法は効くなぁ。私の洗濯魔法はただ洗うだけだが、オディ兄のはその上リラックス感まである。ほっこりだ。


「相変わらずいい腕だ。それだけでも食っていけるぜ。それよりお前ら、よく国王陛下の御前で平気だったな。」


「僕はもう何回もお会いしてますので。」


王宮で命を狙われたことすらあるもんな。


「僕はカースのオマケなんで。何も気にする必要がないんですよ。」


「そんなもんか……まあ俺もいい土産話ができたもんだ。あっと言う間に王都に来たと思ったら、今度は王宮、それも国王陛下の御前ときたもんだ。勇者の末裔か……ありゃ強ぇわ。」


アステロイドさんほどになると国王の強さが分かるのか。すごいな。


「ゴレライアスさんが引退されるそうですし、これからはアステロイドさんがクタナツの冒険者を牽引しないとですね! 御目見おめみえの冒険者なんてそうそういませんよね。」


「おお……それもそうだな。生きて帰らねーとよ。」




こうして他愛もない話をしながら私達は床に就いた。範囲警戒と自動防御は張っているが、消音はかけてない。夜中に呼ばれたら嫌々だが起きないといけないもんな。一気に解決できればいいんだが……


それにしても、アレクがいないとベッドが広いな……




翌朝。ぐっすり眠れた。もっと寝ていたいけどメイドさんが呼びに来たのだからしょうがない。朝食か。


朝食のメニューを見てびっくり。何これ? マーティン家の朝食より貧相なんだが。


「大変申し訳ございません。実は食料が残り少なく、陛下ですら一日一食なのです」


おやおや。そこにも私達を呼んだ理由があるのか。ならば教団側の食料は? 奴らの方が何十倍も人数が多いってのに。まあいいか。


「オークならたくさん持ってますけど、提供しましょうか?」


「ぜ! ぜひお願いいたします! ささ! こちらに!」


メイドさんにすごい勢いで引きずられてしまった。胸が当たるが、アレクほどのボリュームも張りもない。


連れて行かれた先は倉庫。やや低温の保管庫か。


「百匹いますけど、全部出しますか?」


「さ、さすがですね……今日のところは十匹お願いできますか? もちろん陛下に伝わるようにしておきますので。」


「いいですよ。陛下へのご報告も任せます。臣たる者なら当然のことです。」


メイドさん相手に点数を稼いでも仕方がないのだが。傲慢よりは謙虚の方がいいだろう。




さて、一人遅れて朝食だ。




「おう、お前らはどうする? 俺はせっかくなんで王宮内を歩き回るつもりだが。」


「それいいですね。僕も行きますよ。」


アステロイドさんとオディ兄は散歩か。私は、うーん。


「僕は二度寝します。何かあったらメイドさんが起こしてくれるそうなので。」


「若さがねーなー。夜眠れなくなっても知らねーぞ?」


アステロイドさんは妙にハイだな。いや、それも当然か。王宮だもんな。ここを自由に歩き回れる機会なんて二度とないはずだ。


「迷子にならないでくださいね。簡単に迷いますよ。」


「メイドがいるから大丈夫だ。じゃあ後でな。」

「行ってくるよ。」


さーて、二度寝だ二度寝。ぐうぐう。






範囲警戒に反応あり。私達の部屋に入ってきたのは誰だ? メイドさんだ。


「奴らが現れましたか?」


「い、いいえ、違うんです……」


だったら起こすなよ。


「では何事で?」


「そ、その、隣に……添い寝を……」


「それは残念でした。夜なら良かったんですがね。もう起きてしまいましたので。またにしましょう。」


「で、でも、もう私……」


あーあ。服を脱ぎ始めちゃったよ。このパターン多くないか? いや二回目、だよな?


「そっちは間に合ってます。恥をかかせて申し訳ありませんが。というか明らかに命令されてますよね。今なら追求しませんから出て行っていいですよ。」


普通に考えて二十代中盤、それも王宮で働けるレベルのメイドが十歳ほども歳下のガキに惚れるか? タラし込めとでも命令されてるのが見え見えだ。


「ち、違います! 私はただ、カース様がカッコいいから、つい……」


はい嘘ー! 私だって自分の顔ぐらい分かっている。どこにでも居そうな特徴のない顔。よく凡庸と言われるが、その通りだ。兄上や父上のようなイケメン達とは比ぶべくもない。


「そうですか。それはありがとうございます。では一つ約束してください。正直に言うと。僕は正直な女性が好きなんです。」


「は、はいっおぉ……今のは、まさか……」


「そうです。毎度お馴染み契約魔法です。では正直に答えてくださいね。」


「用事を思い出しました! 失礼します!」


メイドさんは脱兎のごとく部屋から出て行ってしまった。やるなぁ。私から質問さえされなければ、答えることもないもんな。つまり命令されてやったのは間違いないと。今はそんなことしてる場合じゃないってのに……ここの奴は何考えてんだか……宰相か?




そして昼食時には国王、王妃と同席し今日までの流れを説明しておいた。国王は初動の遅れを悔やんでいるようだが、この調子ではおそらく変化はなかったことだろう。遊びなだけに真剣に準備をした節があるからな。

それに加えて、まさか王国騎士団が裏切るだなんて誰が想像する? 正確にはおよそ四割が裏切っている。三割は王都の各詰所や外に散らばっており、一割は裏切りの初動でほぼ殺された。例の毒が猛威を振るったのだ。残る二割は囚われの身だったり、はたまた非番だったために王城にいなかったりらしい。ウリエン兄上はこのパターンだな。


ちなみに王妃からはとても感謝され、きつく抱き締められてしまった。愛すべきおばさんだ。




昼からの私は日向ぼっこしながらの昼寝を堪能した。最近忙しかったもんな。たまにはいいよな。まあ実際にはのんびりしつつも工作をしているわけだが。ところで、少しぐらいは日に焼けたかな?

こうしてのんびりとメイドさんや行き来する騎士さんを眺めていたが、意外と士気は高そうに見えた。食料が減ると士気も低下するのが戦争あるあるのはずだが。


こうして何事もなく王宮一日目は終わった。




かに思えた……

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