第711話 アレクサンドリーネの義母

そして翌朝、いや昼前かな。起きてみると事態が急変していた。


「すまん……俺が少し目を離した隙に……」


デフロックお兄さんに夜の見張りついでに捕まえた幹部三人の見張りも頼んでいたのだ。まあ庭に寝かせているだけだから難しくもない話だと思っていたのだが。それを見張りの交代などでお兄さんが持ち場を離れた隙に、生き残った学生によって……殺されてしまった……


「こいつらはアンセルやバニヤーニを殺したんだ! 仇を討って何が悪い!」

「そうだそうだ! ソルダーヌ様だってきっとこうしたさ!」

「王都をめちゃくちゃにされたのよ! 許せるわけないでしょ!」

「だいたい魔王が僕らを守ってくれるはずじゃなかったのか!」


あれだけ苦労して捕まえて……芝居までして……契約魔法をかけたのに……

昼から取り調べをするから近寄らないよう言っておいたのだが……全て無駄になってしまった……


あーあ、やる気なくした。こいつらに罰を与えようとは思わないけどさ。どこかの部屋に閉じ込めておかなかった私が悪いんだし……

でもまさか貴族であるこいつらが、こんなにも愚かだったなんて……情報の貴重さをまるで理解していない……


愚かなのは私もか……はぁ……




あ、そうだ。そういえば私ってエイミーちゃんを襲った濡れ衣で出て行けって言われてたんだ。そうだな。出て行こう。


「アレク、オディ兄、マリー。ゼマティス家に行くよ。ここに僕らの居場所はなさそうだから。」


「そうね。残念だけど。」

「かしこまりました。」

「構わないよ。」

「ピュイピュイ」


「すまん……俺のミスで……気を悪くさせちまったな。」


「いえ、お兄さんの所為ではありません。元々出て行けって言われてたのを思い出しただけです。ところで、結界魔法陣が壊れてるので守りにくいと思います。だから気が向きましたらゼマティス家に来てくださいね。」


可哀想に、王都留守居役さんも夜中の襲撃で亡くなってしまったしな。その上ソルダーヌちゃんも不在、お兄さん一人の頑張りでは守り切れまい。このお兄さんには死んで欲しくないんだよな。


それから忘れてはいけないのが……


「パスカル君とベレンガリアさんはどうする?」


「僕としては本当はそっちに行きたい。しかしソルダーヌ様に助けを求めておいて、舌の根も乾かぬうちにここを出ることはできないよ。」


「やれやれね。私はそんな義理はないけどバカな弟の面倒を見ないといけないから。ギリギリまでこっちに残るわ。」


二人とも心まで貴族なんだな。私とは大違いだ。行きにくくなってしまったぞ。まあ行くけどね。


「分かったよ。死ぬぐらいならゼマティス家に来てよね。」


それからキアラには後で私が海まで迎えに行こう。適当に探しても見つかるはずだ。キアラの魔力は絶大だからな。







「と、いう訳でみんなでこっちに来たよ。一気に疲れちゃったよ……」


「仕方ないわねぇ。人が言う通りに動いたら誰も苦労はしないものね。カース、あなたや友人を基準にしてもダメなものはダメだからね。」


全くだ。母上の言うことはいつもありがたいなぁ。その分こちらの防御が固くなったから良しとしよう。むしろ戦力過剰かも。


「じゃあキアラの所に行ってくるね。アレクも行こうよ。」


「ええ。ではイザベル様、行って参ります。」


「あぁ待ってちょうだい。カースはアルベルティーヌ様をお義母さんと呼んでるわ。ならアレックスちゃんも私を『お義母さん』と呼んでいいのよ?」


「は、はい! お、お義母様……」


うおおおー! 見たぞ久々の赤面アレク! かわいい! 可愛すぎる! 先ほどまでの倦怠感が吹き飛ぶぜ!


「じゃあ行ってらっしゃい。」


ありがとう母上!




やって来ましたサウジアス海。キアラはどこかなー。私もアレクもすでに水着になっている。


『魔力探査』


さすがに魔力の高い魔物が多いようだ。しかし範囲を広げてみると、キアラの居場所は一目瞭然。まあ……見えないけど……


『キアラー。楽しんでるかーい?』


『あー、カー兄も来たのー? アー姉もー?』


ちなみにアレクは水中気や水中視、伝言などは使えない。それでも泳ぐ分には問題なしだ。




『という訳で、今夜は母上の実家に帰るからな。おじいちゃんの家だぞー。』


『おじいちゃん? おじいちゃんかぁー。楽しみだねー!』


おじいちゃんはいないけどね。今頃どこにいるんだろうな……

留守は守るぞ!




それからキアラと協力してたくさんの魔物をゲットした。アスピドケロンとまではいかないが、それなりに大きな亀もゲットした。みんなで甲羅鍋が楽しめそうだ。重症のソルダーヌちゃんにも元気を出してもらわないといけないもんな。




そして日没前。ゼマティス家に帰り着いた私達は料理を始める。前回はアレクサンドル家のマトレシアさんが指示してくれたけど、今回はマリーが仕切ってくれた。


おかげでかなり美味しい鍋となった。兄上や姉上にも食べて欲しいな……持って行けばいいか。鍋ごとね。全員が食べ終わったらおすそ分けに持って行こう!


ちなみにアレクはソルダーヌちゃんを、マリーはエイミーちゃんを、それぞれ介助した。ようやく意識が戻ったが、まだ手足がうまく動かないようだ。そりゃこんな状態では帰せないよな。あれだけの大岩に潰されて、よく生きてたものだ。辺境派はこれからどうなってしまうのだろうか。

あーあ、教団の幹部や紫の鎧の情報が欲しかったな……

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