第681話 王宮からの招待

結局昨日は午後からデビルズホールへ行ってしまった。これ系の店なのに、昼から開いてるとは……

コーちゃんは相当気に入ってしまったらしい。悪い子だ。

意外なのはサンドラちゃん。ディスコなのに盆踊りのようなリズム感ゼロの踊りを披露してくれた。味があってよし!


そして健全にも、夕食に間に合うように帰った。この店は病みつきになりそうだ。




そして本日。私とアレクは王宮に向かっている。もちろんコーちゃんも一緒だ。


「今日は誰に会うことになるのかな?」


「カースったら。誰なんて言ってはだめよ? どなた、でしょ?」


「あはは、そうだね。そもそも現在の王族ってどんな方がいらっしゃるの?」


「国王陛下と王妃殿下は存じ上げてるわよね? それに王太子殿下も。私達がお会いしたことがないのは、王太子妃アントワーヌ様と王太子殿下の御長男ブランチウッド様、二男フランツウッド様、御長女マリアンヌ様かしら。」


多過ぎる!

覚えられるわけないだろ! それにしてもアレクは本当に詳しいよな。頼り甲斐満点だ!


そして馬車は停まり私達は降りる。


「こちらにお願いいたします」


メイドっぽい人だ。付いて行けばいいのか。


「はい。」




歩くこと二十数分、相変わらず広過ぎる!


「ここでお待ちください」


控え室って感じだ。中にはティーセットや茶菓子が用意してあった。


コーちゃん、これは安全かな?


「ピュイピュイ」


コーちゃんが言うなら間違いない。


「アレク、食べながら待ってようよ。」


「そうね。職人の技が光ってるものね。美味しそうね。」


おっ、マジで美味しい。ただ甘いだけでなく、複雑な旨味が感じられる。甘ったるくもない。お茶も菓子との相性を考えてあるのだろう、主役を引き立てる味わいだ。じんわりと甘い。




「お待たせいたしました。こちらへお願いします」


おっ、意外と早かったな。さて、どこに案内してくれるんだ?




歩くこと十数分。

見慣れない部屋に案内された。ここはどこだ?


重厚な扉が開かれ入室を促された。ならば入ろう。おや、意外と普通の部屋だ。重鎮が大勢控えてるタイプではなく、辺境伯とかの応接室って感じか。


「こっちよ。」


「あ、王妃様。お久しぶりです。」

「お久しぶりでございます。」

「ピュイピュイ」


「よく来てくれたわね。会いたかったわカースちゃん。よく今日まで生きていてくれたわ。」


そう言って王妃は私を抱きしめた。それはまるで母上のように慈愛に満ち、マーリンのように暖かかった。


「聞いていたわ。魔力を失ったんですってね。それなのによく元気でいてくれたわね。本当に来てくれてありがとう。」


「ご無沙汰しております。お召しにより参上いたしました。王妃様もお元気そうで何よりです。」

「お招きいただきましてありがとうございます。」

「ピュイピュイ」


「アレックスちゃんにコーちゃんもようこそ。来てくれて嬉しいわ。」


「それで献上するものなんですが、どこに置きましょうか? 検査とかされるんですよね?」


「ええ、後でお願い。まさかドラゴンゾンビとはね。ムリーマ山脈中を探せばドラゴンはいくつか見つかるでしょうけど、ドラゴンゾンビはかなり珍しいわ。」


そうなのか。いつだったか鍛錬遠足の時にはコボルトのアンデッドによく襲われたものだ。


「さあ! 色々とお話しを聞かせてちょうだいね。」


それからは王妃とのお喋りタイムだった。それなら王妃用にもお土産を用意しておいてもよかったな。




二十分は話していただろうか。執事っぽい人がやってきた。


「殿下。準備が整いましてございます」


「そう。分かったわ。じゃあカースちゃん、行くわよ。いよいよドラゴンゾンビを見せてもらうわね。」


「はい!」


場所の準備が必要だったわけか。先にやっておけと言いたくもあるが、王妃が私達と会話をするために時間を割いてくれたってのが真実だろうな。やっぱこのおばさん好きだわ。


そして執事、護衛に囲まれた王妃、私達、の順で王宮内を移動する。さてさて、どこに行くのやら。




到着した場所は地下室風の倉庫だった。まあ階段は下ったのだが、本当に地下なのかは分からない。


「さあカースちゃん。あの辺り、部屋の中央に出してもらえるかしら?」


「分かりました。」


魔力庫から取り出し、改めて見てみるとやはり大きい。全長五十メイル近くあるんじゃないか? クタナツで拡張してなかったら収納できなかったな。


「これは……すごいわね。陛下のドラゴンと同じか、むしろ大きいぐらいだわ……」


「牙はこちらで貰っておいてもいいですか?」


「もちろんいいのよ。これはカースちゃんのものなんだから。むしろそれだけでいいの? 角とか背骨とか希少よ?」


「お気遣いありがとうございます。牙だけで十分です。じゃあ抜きますね。」


『金操』


金操で牙を抜くのも慣れたものだ。顎を固定しつつ牙を抜くという相反する力の向きを制御するのもいい稽古だもんな。


「本当に魔力が復活したのねカースちゃん。嬉しいわ。それでね、本来ならご褒美の相談をするところだけど、今回は私に任せてもらえる? あっと驚くご褒美を用意してみせるわ。」


「ありがとうございます。ぜひ、それでお願いします!」


伯母さんによると凄いご褒美が貰えるらしいしな。楽しみにしておくとしよう。


「ところで、ドラゴンゾンビの骨って何に使われるんですか? 鎧とか?」


「うふふ、内緒。ご褒美の時に教えてあげるわ。八月の終わりか九月の初めごろ来てくれる?」


「分かりました。それでは八月の終わり頃に参ります。」


その時はお土産ぐらい用意しておこうかな。どうやら今からこの骨を加工して何か作るようだな。時間がかかるものだな。まあ楽しみにしておこう。


「お話も終わったことですし、お昼にしましょうか? 食べて行ってくれるわよね?」


「はい、ご馳走になります。」

「恐縮でございます。」

「ピュイピュイ」


もちろんコーちゃんにはお酒を用意してもらった。贅沢者め。私もペイチの実ぐらいリクエストしてもバチはあたらないよな。

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