第673話 虫歯ドラゴンとの再会

朝、マーリンの料理を食べてから領都を飛び立った。王都に行く前に虫歯ドラゴンの所に寄ってみよう。年寄りって話だったが元気にしてるだろうか。


アレクは記憶力抜群。来た道は違っても一度行った場所に再び行くことも難しくない。アレクのナビにより私達はムリーマ山脈南西部にやって来た。果たしてあのドラゴンはいるのか?




この辺りのはずだが……


うっ? 何だこれ? 臭いぞ?

しかも周囲がおどろおどろしい……まるで何もかも腐ってしまったかのようだ。木も土も、岩すらも……


「何事だろうね? すごく臭いね……」


「ねぇこの匂いって……あの時のスライムと似てない?」


「言われてみれば。じゃああの時みたいに危ないスライムがいるのかも知れないね。注意しておこう。」


「ええ。」


「ピュイピュイ!」


え? あそこにいる?




いた。


何だあれ……


二年前の冬に見た時は深緑だった鱗は汚いこげ茶色、むしろ黒に近い。眼球はなくなっており、ところどころ鱗も剥げ落ち、肉は腐り骨が見えている。


まさか……ゾンビ?


ドラゴンがゾンビになることなんてあるのか?


「アレク……匂いの原因はこいつみたいだね……」


「ええ、まさかドラゴンゾンビとはね。初めて見たわ……」


やっぱりゾンビなのか……


「ピュイピュイ!」


え? 苦しんでるから殺してやれ?

ゾンビなのに苦しんでるの?

でもやろう。任せておいて。


『火球』


ゾンビ相手だ。きっと何もかも燃やし尽くすのが一番。体がかなり大きいから火球も大きくしてたくさん撃たないとな。


おっと、ブレスで反撃が来た。自動防御の前にはドラゴンブレスだろうが無意味だが……魔力の消費がただ事ではない。二年前の私なら五発ぐらいしか耐えられなかっただろう。さすがドラゴン。


ではトドメだ……

さらば虫歯ドラゴン!


『豪火球』


直径二十メイル、特大の火球だ。

灰は灰に、塵は塵に……


「グオォォォオオオォォーー!!」


あの時聞いたような大声だ。お前も無念だったろうな。どんな感覚かは分からんが、年老いてゾンビになってしまうとは。骨が残ってたら拾ってやるからな。


そして奴は大きな音を立てて地面に倒れ込んだ。周囲は溶岩と化しているが、こいつはまだ燃え尽きていない。すごい奴だ。もっと火を追加しておくか。『火球』


「ピュイピュイ」


ありがとうだって? コーちゃんは優しいな。どういたしまして。


「もう少し待ってから骨とかを回収しようか。それから王都に向かおう。」


「ええ、ドラゴンでさえカースの敵じゃないのね。あれを見て。」


アレクが指を向けた方向にはドラゴンブレスの跡がありありと見て取れた。私が防いだやつ以外が山々を削り取り、山肌や木々を腐らせていたのだ。


「いやなブレスだね。ここで倒してなかったらムリーマ山脈が丸ごとこうなってたかも知れないね。」


「つまりカースが救ったのよ。ムリーマ山脈だけでなくローランド王国をね。」


「はは、大げさだよ。被害が広がったら誰かが退治するだろうよ。」


「そうかもね。でもカースほど無傷ではできないわ。大好き……」


そこに繋がるんかい。まったくアレクはかわいいんだから。




さーて、そろそろ火も収まったかな。熱気は全然収まってないけど。あれだけたくさん魔法を使ったのに魔物が全然寄って来ないのはラッキーだったな。


どれどれ……うわ、あれだけの炎の中で骨や牙がほとんど残ってる。ドラゴン凄すぎだろ。ボーンドラゴンとかにはならないよな? それこそファンタジーあるあるだと思うが……

うわ、熱そうだな……あれじゃ触れないから冷やすしかないか『高波』

ついでに他の火も消しておいた。

普段から山火事なんか気にしないで魔法使ってるもんな。我ながら容赦ないぜ。


しかしすごいぞ。いきなり冷やしたのに全然ひび割れたりしてない。どんな素材なんだよ。これから何が作れるんだ? 国王とかに献上してもいいが……


「よしお待たせ。火も消えたことだし行こう。」


「ええ、王都も久しぶりね。また来れるなんて嬉しいわ。」


「ピュイピュイ」




久しぶりの王都。東側の第一城壁前までやって来た。ここからは歩きだ。のんびり行こう。見たところ何も変わっていない。懐かしいなぁ。


「ねぇ彼女ー! 俺らと踊りに行こうよ!」

「そうそう! 弟なんか置いてよ! 今夜の吟遊詩人はクールだぜ?」

「とびきりアツいグルーブでハイになろうじゃん!」


こいつら昼前から何語を話してんだ?


「間に合ってるわ。消えなさい。」

「せっかくだ。店の名前と場所ぐらい聞いてやるよ。」


「ああ? 弟はだまってな!」

「調子こいた格好しやがってよ!」

「今どき魔王スタイルかよ? ダッセー!」


ん? 何か聞き捨てならないキーワードがあったぞ?


「魔王スタイルって何?」


「ああ? 魔王カースを知らねーのか? どこの田舎もんよ?」

「おおかたどっかでスタイルだけ聞いて真似してんだろ?」

「古くせー格好しやがってよ! 今の流行りはこれだぜ?」


マジかこいつら……

袖のあるウエストコート、そして尻が隠れるほど丈が長い。意味が分からん。それもうウエストコートじゃないじゃん。

トラウザーズは太め、いわゆるドカン? 何でそんなのが流行るんだよ……

超ダサい……私のボンタンを見習えってんだ。作ったはいいが、一回も履いてないけど。


「で、結局店の名前と場所は? 気が向いたら行くからよ。」


「無理すんなって! お子様が入れる店じゃねーぞ?」

「そーそー、俺らみたいな王都でちったぁ知れてん冒険者が一緒じゃねーとよ?」

「デビルズホールは高ぇーぞ?」


ふーん、デビルズホールって言うのか。それだけ分かったらもういいや『麻痺』


首都だけあって流行のスピードが早いのかな。まさか私の格好を古臭いと言われてしまうとは。だからって変えないけどね。このスタイルが気に入ってるんだから仕方ない。


「一回ぐらい行ってもいいかもね。クールな吟遊詩人ってのが気になるよ。」


「いいわよ。たまには夜遊びもいいわよね。」


「ピュイピュイ」


コーちゃんは酒を飲めると期待しているな? きっと飲めるよ! それにしても傾奇者がいなくなったら今度は冒険者が幅を利かせてるのか? 闇ギルドもなくなったことだし。

狼を狩り過ぎたら鹿が増え過ぎて山が枯れたみたいな話だろうか。違うか。

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