第642話 狙われたカムイとコーネリアス

サンドラちゃんとあれこれお話をしていたら教授が起きてきたので、そろそろお開きとなった。サンドラちゃんも手紙を書くので、近いうちにゼマティス家まで届けに来るそうだ。


それから私とアレクはいつもの連れ込み宿に行く。コーちゃんとカムイには先に帰ってもらった。




夕方、満足してゼマティス家に帰った私達をちょっとした事件が待っていた。


「この狼がうちのウィンドルちゃんを噛んだのよ! どうしてくれるのよ!」


「まあまあ落ち着いてくださいな。この子はそんなことをする子ではありませんわ。」


「おばあちゃん、ただ今帰りました。カムイがどうかしましたか?」


「アンタが飼い主なの! どうしてくれるのよ! うちのウィンドルちゃんが噛まれたのよ!」


「ガウガウ」


ふんふん。コーちゃんと帰っていたら、馬車から男の子が降りてきた。カムイを触ろうとするから威嚇した。無視して帰っていたら男の子以外に数人が襲ってきたので返り討ちにした。噛んではいない。頭突きしかしてないと。さすがカムイ。えらいぞ。


「うちのカムイに手を出そうとして返り討ちですか。それでも懲りずに文句付けに来たんですか? ここがどこだか分かってんですか?」


「ピュイピュイ」


ふんふん。コーちゃんまで捕まえようとしたのか。目についたから短絡的にやったのかな。目を離した私も悪かったが、バカな奴もいたもんだな。


「うるさいうるさい! この狼と蛇を寄越しなさい! そしたら許してあげるわ! 私を誰だと思ってるのよ!」


知らねーよ。名乗れよ。


「ドナハマナ伯爵家ゆかりの方でしょうか。ここがゼマティス家だと分かって来られたのですか?」


さすがおばあちゃん。名乗られなくても分かるのか。

しかしこのおばさん、ゼマティス家と聞いて急に見下し顔になったぞ。まさか子爵家だからって舐めてんのか?


「ふん、私はトレイナ・ド・ドナハマナよ! 子爵家風情が対等な口を聞ける相手じゃないのよ!」


本気かよ……アレクのとこを男爵家だからって見下す奴がたまにいるらしいが、王都のゼマティス家だぞ? 魔道貴族だぞ? まさか知らない? そんなわけないよな……


「要はフォーチュンスネイクとフェンリル狼が欲しいのでしょう? 欲は身を滅ぼしますよ?」


「ふん、大人しく差し出した方が身のためよ! ドナハマナ伯爵家はアジャーニ家とも繋がりがあるのよ! こんな吹けば飛ぶような子爵家なんか一捻りなのよ!」


思い出したぞ! ドナハマナ伯爵家って言ったら城塞都市ラフォートか! てことはアジャーニ家でもヤコビニ派の方じゃねーか! なんで生き残ってんだよ! まあ口出しなんかしないけどね。おばあちゃんにお任せだな。


「やってみますか? まさか本当にゼマティス家をただの子爵家だと思ってらっしゃるの?」


「きぃーー! バカにして! 見てなさいよ! アジャーニ家に言いつけてやるから!」


小太りのおばさんと薄らバカそうな男の子、そして数名の護衛はドタドタとゼマティス家から出ていった。傍若無人すぎるだろ。


「カース。コーちゃん達だけで街を歩かせたのは良くないわね。あんな人達はいくらでもいるのよ。分かったわね?」


「はい。僕が迂闊でした。ごめんなさい。ところでおばあちゃん、あいつらってヤコビニ派の傘下じゃないんですか? よく生き残ってますよね?」


「建前上はアジャーニ家の傘下ってことになってるの。自分達はヤコビニ派に従ったんじゃない、アジャーニ家に従ったんだってね。だから王宮としても処罰はなし。そもそも王都の外の争いに王家はあまり口出しされないのよ。」


「なるほど。そんなものなんですね。」


ならば極端な話、辺境伯が南進政策なんかやっても国王は動かないってことか? ムリーマ山脈の南側を併呑しようとしても……

まあ辺境伯に旨味がなさそうだけど。


しかしあのおばさん、どの面してアジャーニ家に言うつもりなんだろうな。まさか今まで城塞都市に籠ってたもので、王都の事情をマジで知らないとか?

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