第640話 敗者の行末
ソルダーヌちゃんと食事に行った翌朝。
今日から新年だが、別にお年玉なんてもらえない。餅つきも羽根つきもない。凧上げぐらい自前でやってみてもいいかも知れない。
ゼマティス家での朝食。グレゴリウス伯父さんとガスパール兄さんがいないのは当然として、アンリエットお姉さんがいない。冬休みだから遊びにでも行ったのかな? それにどことなくみんな雰囲気がおかしい。何かあったのか?
「おじいちゃん、元気がないようですがどうしたんですか?」
「ふぅ……カースや。見ての通りじゃ。アンリエットがおらんな? 勘当したからじゃ。」
「勘当ですか? それは一体どうしたことで?」
「負けたからよ。我らは魔道貴族。王家指南役じゃ。どんな手を使ってでも負けは許されぬ。本来ならば死をもって償ってもらうのじゃが、ワシにはできぬ。よってアンリエットは勘当、そしてワシは引退することにした。」
なるほど。同じ孫でもゼマティスの名を持つ者とそうでない者の差は大きいな。私はマーティンでよかった。
「アンリエットの勝ちに拘る姿勢はよかったのじゃが、実力の差はいかんともし難い。負けるぐらいなら逃げるべきじゃが、それすら出来なかったのであれば是非もない。」
「そうでしたか……ではアンリエットお姉さんは今どこに?」
「カース君? その話はここまでよ。負けた者はもう貴族ではないの。だから家族でもないのよ。」
「伯母様……失礼しました。」
これが魔道貴族……
指南役の看板は軽くないよな……
だから伯父さんも兄さんも必死に修行しているんだろうな……負けたら終わりか……
朝食後、アレクがデートに誘ってきた。もちろん行くとも。
アレクとコーちゃん、そしてカムイ。みんなでお出かけだ。
「今日はどこへ行くの?」
「アンリエットお姉様のところよ。気になるものね。」
「え? 居場所知ってるの?」
「ええ、昨夜おじいちゃんから聞いていたの。私からは言いにくくて、今まで言えなかったの……」
「そっか。ありがとね。」
まあ大して気になるってほどではない。他所の家庭の事情に口出しする気なんかないしね。
「着いたわよ。」
「魔法学院?」
「そうなの。エリザベスお姉さんと同じく、卒業までここの寮に住むことにしたそうよ。」
なるほど。よく空きがあったな。アレクが中に入って行くのを私はそこら辺で待っている。今更ここの学生に絡まれることもあるまい。
「き、君は! エリザベスの弟さん!?」
「ま、魔王さん!?」
「ち、ちわす!」
ん? ここの学生かな? いや、見覚えがあるぞ?
「こんにちは。お兄さん達って確かアンリエットお姉さんの親衛隊?」
確か私と対戦した三人組だよな?
「あ、ああ。今日はどうしたんだい?」
「え、エリザベスの優勝おめでとうござっす!」
「お、おめっす!」
こいつらってこんなキャラだったっけ?
「アンリエットお姉さんに会いに来ただけですよ。」
「そ、そうかい。王国一武闘会は見せてもらった。君はとんでもない男だったんだね」
「どーも。ところでお兄さん達は今でもお姉さんの親衛隊なんですか?」
「当たり前だろう!」
「と、当然だ!」
「も、もちろんす!」
意外だな。今のお姉さんはただの平民だぞ?
「カース君。来てくれてありがとう。」
噂をすれば。お姉さんが出てきた。アレクありがとう。
「うん。調子はどうかと思ってさ。元気そうだね。」
「そうね。アレックスちゃんには苦戦させられたわ。」
「今思えば私が甘かったですわ。短剣ではなく、返しのある槍か何かで刺すべきだったのです。あそこしかお姉様に勝つチャンスはありませんでした。」
あぁー、確かに下から槍で体を貫いたらアレクの勝ちだったろうな。
「ふふ、まあいいわ。結局母上の力まで借りたのにエリザベスには負けて勘当されて。今やただの平民よ。ホリゴル? いいの?」
「アンリエット様! 僕はいつでもアンリエット様の味方です!」
あの時、雷雲の魔法を使った彼だったかな。ホリゴルって言うのか。それよりも……
「伯母様の力を借りたって何のこと?」
「気付いてなかったの? 対戦中にエリザベスが横に吹っ飛んだでしょ? あれは母上の魔法なのよ。」
マジか……
さすがお姉さん、どんな手でも使うんだな……
そこまでやっても姉上には勝てなかったのか……
確かに姉上の自在反射なんて予想できるはずがないもんな。あれこそ反則だよな。
しかしアンリエットお姉さんも工夫したんだな。自力で勝てないなら伯母さんの力も使うとは。やっぱ何でもアリって怖いわ。
この後、全員でお茶をした。ホリゴルさんの奢りだった。
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