第620話 カース、出頭する

パイロの日。せっかくの休みだろうにおじいちゃんには申し訳ないな。私を連れて王城に向かっている。アレクとコーちゃん、そしてカムイも一緒だ。おじいちゃん曰く、力を見せておくのも悪くないそうだ。


そして城門を通り抜け、前回とは違う方面に向かっている。ここはどこだろう?


「さあ着いたぞ。こっちじゃ。」


おじいちゃんに連れられて向かっているのは騎士団の詰所っぽい、いや大きさからして本部かな?


すれ違う騎士達が次々と横に避けて敬礼をする。さすがおじいちゃん。私はどうしようもないので、平静を装って後ろを歩くのみだ。


やがて奥まった部屋に到着した。いかにも高そうな扉だ。ツカツカと入るおじいちゃん。


「孫を連れて来たぞ。」


「お前はいつも急だな。まあ座れ。」


「うちの自慢の孫達じゃ。」


「カース・ド・マーティンです。」

「アレクサンドリーネ・ド・アレクサンドルでございます。騎士長ブランシャール卿のご高名はかねがね伺っております。」


ぬおっ、騎士長だって? さすがアレク。よく知ってるな。


「ようこそ。私もクタナツとは縁が深い。セロニアス・ド・ブランシャールだ。アントン、アントニウスとは昔から切磋琢磨し合う仲だ。」


「さて、セリーよ。陛下とのお約束通りカースは出頭した。この場合の罪状はどう聞いておる?」


「金貨百枚でいいそうだ。ただし後日王宮に出向いてもらう必要がある。」


「分かりました。お支払いいたします。」


「待て待てカースや。先日の偽勇者の賞金がある。あれで払っておくわい。」


「ありがとうございますおじいちゃん!」


それからは雑談タイムだった。魔蠍どころか闇ギルド、暗殺ギルドなど、スラムが丸ごと弾圧の対象となっており、かなりの人数が奴隷落ちとなり鉱山に送られたらしい。本当に全滅したのか? そして毒の出所はついに分からなかったとか。あの時姉上を刺した残りの二人については、フェルナンド先生も探してくれたのだが、見つからなかったらしいし。どうせ死んでるんだろ。先生にもお礼を言いに行かないとな。恥ずかしながら私は姉上から聞くまでは全然気付かなかった。自動防御の感覚からすると私には一人ずつ刺しに来たんだろうな。


闇ギルドと言えばラグナ。そしてもう一人のあいつも生きてたんだな。ゼマティス家で真面目に働いているらしい。昨日もいたはずなのに溶け込みすぎてるのか、さっぱり分からなかった。帰ったら話してみよう。楽園行きが無期延期になってしまったからな。


何にしても大した罪にならなくてよかった。金貨百枚って普通なら奴隷落ちよりキツい罪だけどさ。ムカついて大暴れしようにも、あっさり鎮圧されてしまうだけだもんな。大人しく生きていこう。国王に貰った各種許可証が取り出せないのはまずいかな。不敬罪とか言われたらどうしよう?


それに魔力のことをおじいちゃんにも伝えておかないとな。また気が重くなってきた。まあバレてるかも知れないけど。


「ところでカース君はもうクタナツへ帰ってしまうのか? 休みを王都で過ごしたりはしないか?」


「急いで帰ることはないですね。こちらのアレクサンドリーネの冬休みに合わせるつもりです。」


「私は領都の魔法学校に通っておりますので、もう一週間ぐらい滞在できるかと思います。」


「どうしたセリーよ。カースに何かあるのか?」


「王国騎士団に欲しいのだ。あの魔法なしの部、決勝戦。その歳でよくあそこまで……あの子、スティードは近衛に行ってしまうだろう。ウリエンも近衛にとられた……君が欲しい!」


じじいに君が欲しいって言われるのはキツいな。


「はっはっは。無茶を言うな。カースは王妃殿下直々のお誘いすら断ったのじゃぞ。旅に出るからとな。」


そうだった。旅にも出られなくなってしまった……参ったな。将来設計もズタズタだな……まあいいや。


「そうなんです。旅に出るかは分からなくなりましたが、クタナツで暮らすつもりなものですから。」


「そうか……私の叔父はクタナツの前騎士長だったのだが、いい所のようだ。羨ましいな……」


前騎士長!? アレクパパの前任か。

そしてまた雑談が盛り上がってしまった。

話はカムイやコーちゃんのことにまで及び、出頭しに来たはずなのに楽しいひと時を過ごしてしまった。

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