第615話 騎士学校の教官 オーベール・ブラン

ヴァルの日。アレクは私が寝ている間に学校に行ったようだ。セルジュ君とスティード君はそもそも昨日の夕食後に帰っている。

スティード君の実技のテストは午後一時半ぐらいからと聞いてるので、まだ余裕があるな。マーリンがいるなら何か食べさせてもらおう。それからブラブラ寄り道しながら行けばちょうどいいかな。


コーちゃんとカムイは留守番だし、領都を一人で歩くのも久しぶりだな。コーヒーでも飲んでから行きたいとこだが、無駄遣いはだめだな。


さて、騎士学校に着いた。受付に挨拶したら案内してもらえた。ここは校庭か。

おっ、もうすぐ始まりそうだ。実技のテストってどんな風に行うんだろう?


四グループに分かれており、それぞれの中にニ種類の制服が見える。学年が違うのかな?

違う制服同士で一対一の対戦を行うようだ。




おっ、スティード君発見! 今からか。相手は……スティード君より大きいな。


しかし開始から一分も経たずスティード君は勝った。やっぱりすごいな。また強くなっている。


「スティード君。すごかったね。」


「やあカース君。来てくれてありがとう。どうにか勝てたよ。」


「ところで制服が違うのは何の違い?」


「ああ、相手は四年生なんだよ。明日は僕らが二年生を相手にするんだけどね。」


つまり四年生でもスティード君には敵わないと。


「なるほど! 他にもまだ対戦するの?」


「うん。同級生ともやるし、教官ともやるよ。集団戦は四年生からだけどね。」


「じゃあまだあるね! 楽しみにしておくよ!」


いかんな。王国一武闘会を見たせいか、スティード君以外の対戦がショボく見えてしまう。


「元気そうだな。アイリーンが帰って来なくて心配したんだぞ。」


「やあ。迷惑をかけてしまったね。アイリーンちゃんとはラブラブらしいね。」


この大きな男の子は、ターブレ・ド・バラデュール君だったか。いつの間にアイリーンちゃんといい仲になったんだろうな。


「ターブレ君、カース君は大変だったんだよ。エリザベスお姉さんのおかげで早く帰って来れたんだしね。」


「分かってる。あいつもいい刺激になったらしくおかげで首席に返り咲きだ。世話になった。」


「それはよかったね。でもアレクだって負けないよ。」


そっか……またアイリーンちゃんが首席なのか……

だからアレクは私に見に来て欲しいって言ったのかな。まるで自分を追い込むように……


「じゃあカース君、出番だから行くね。しっかり見ててね。」


「うん! 頑張ってね!」


今度の相手は同級生のようだ。しかし相手にならない。十秒で終わってる。


おっ、立て続けに対戦している。あれも同級生か。だがやはり相手にならない。スティード君が強すぎる。


全く参考にならない。

再びスティード君達と雑談をしていたら、また出番のようだ。最後は教官との対戦か。

頑張れスティード君!




おおー!

すごく白熱している!

当たり前だけど教官は相当強い!

さすがのスティード君も攻めあぐねているようだ。

ぬおっ! 教官の上段からの打ち下ろし、それが逸れたと思ったら突如跳ね上がり、木剣の峰がスティード君の顎を捉えた? いや、スティード君もきっちり避けてる? いや、頬が切れている。それでもよく避けたものだ。


対戦はそこで終わった。どうやら合格らしい。スティード君は肩で息をしている。全力を尽くしたんだろうな。


「すごかったね。あんなのよく避けられたよね! さすがスティード君!」


「ありがとう。まさか教官にあれを使われるとは思わなかったよ。避けられてよかったよ。」


へぇー。生徒相手にはあんまり使わないのかな? ならばむしろスティード君が使わせたと見るべきだな。


「そこの君。マーティン家だそうだね。よかったら私とひと勝負どうだい?」


おや、さっきの教官だ。ありがたく受けよう。


「願ってもありません。お願いいたします。」


そう言って私は虎徹を構えた。


「打ってきたまえ。」


ほう、受けてくれるのか。それならガンガンいこう。




くっ、当たり前だけど強い。さすがに父上ほどではないが私の虎徹を巧みに往なしている。しかしそのままだと教官の木剣が持たないぞ? 後二、三回で折れそうだ。


「いい攻撃だ。自分の強みを理解しているようだ。ではこちらからも行くぞ?」


うお、猛攻というほどではないが、型通りに攻めてくる。お前は基本を疎かにしてないのか? きちんと基礎から鍛えているのか? そう問われているかのようだ。


体力はともかく型の基礎ならかなりみっちりやってるからな。そっちがその気なら……

教官が突いてくる。私が躱すと思ってるんだろう? 躱さん! 左の籠手で受ける。

それと同時に私も虎徹で突く。くらえ!


「ふむ。基本はよくできている。うちでも十位以内には入れるだろう。」


くそ、あっさりと虎徹を掴まれてしまった。ならば! 教官が左手で虎徹を引く動きに合わせて接近、伸びてる膝に蹴りをぶち込んでやる!

ちっ、ビクともしない!

なら虎徹を握ってる手を極めてやるよ! 虎徹を離さないと手首が折れるぜ?

あら、あっさり離すのね。


「ここまで! 見事だ。お前達! 見ていたな? 剣を取られようと何が起ころうと最後まで勝負を諦めないこの姿勢こそが騎士に必要なのだ。しかも、私がこうして話している間にすら隙を窺っている。」


ちっ、バレてる。全く隙がない。参ったな。


「私はオーベール・ブラン。君の兄に合格を宣告した日が懐かしい。」


「兄上にですか!?」


「ああ。クタナツでな。騎士学校への入学試験を担当したのさ。そんな彼も今や近衛騎士とはな。私も鼻が高いってものさ。」


「ありがとうございます! 兄上をそんな風に言っていただけるなんて!」


へえぇー因縁だな。兄上を担当した教官だったなんて。来てよかった! しっかし、こんな話をしてる間にすら警戒してやがる……




「さすがカース君だったね! やっぱりすごいよ! 後でやろうね!」


「いいよ。ちゃんと手加減してよね。」


スティード君と手合わせするのはいいけど、手加減してくれないともう私では相手にならない……


「俺もだ! スティードには勝てないが、君には勝ちたい!」


バラデュール君は正直だな。まあいいや。私もこれからは剣術を磨かないといけないもんな。みんなで切磋琢磨しようぜ!

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