第591話 エリザベスの冒険
翌日、エリザベスは昼過ぎに目を覚ました。懐かしい自室。一体何年ぶりだろう。まだ寝ていたいが、そうもいかない。疲れた体を引きずって居間に降りていく。そこにはベレンガリアとオディロンがいた。キアラは学校だろう。
「姉上! 大丈夫なの!?」
「オディロン……久しぶりね。アンタの羅針盤とマリーのおかげで助かったわ。」
「エリザベスさん、食欲はありますか? なくても食べてもらいますけど。」
「ええ、ありがとう。いただくわ。」
それからエリザベスは分かる限りの状況を説明する。
「カースが……」
「あのカース君がそこまで……」
「ええ、カースの魔力が無ければ死んでたわ。その代わりカースは……バカな奴……」
「じゃあ姉上、あれをカースに届けてよ。母上の秘蔵のポーション。今のカースに効くかは分からないけど。」
「それがあったわね。王都にも行くことだしゼマティス家からもかき集めてくるわ。じゃあ私は寝るから。明日の朝出発するわね。」
「何もできなくてごめんよ。使い道があるかは分からないけど、これも持っておいて。」
オディロンが差し出したのは木製の籠手、脛当て、胸当て、胴巻、鉢金だった。
「良い物持ってるわね。借りておくわ。じゃあおやすみ。」
そう言ってエリザベスは自室へと引っ込んでしまった。かなり疲れていることだろう。
「ベレンちゃん……僕は何をするべきなんだろうね……姉が死にかけて、弟は意識不明。手を出せる範囲を超えてしまってるよ……」
「何言ってんのよ。オディロンの羅針盤のおかげでエリザベスさんは帰って来れたのよ? それに今はオディロンがこの家の主人よ? 旦那様と奥様がご不在のマーティン家を守ることが第一よ!」
「そうだね。キアラのこともあるし。僕がしっかりしないとね。」
「そうそう。独り寝が寂しいなら添い寝してあげるし。サービスしてあげなくもないわよ?」
「いや、それはいいや。むしろ嫌。」
オディロンはマリーの正体を知っても少し驚いただけだった。そもそも幼少期から外見が全く変わってないのだ。不思議に思わない方がおかしい。
それだけに子供ができないことにも納得していた。どうしても子供を切望しているわけではないが、愛する妻との間に子を望むのは自然なことだ。
つまり今後オディロン夫婦に子供はできないことが確定してしまった。それも少しだけショックではあるが、些細な問題である。オディロンにとってはマリーより優先するものなどない。
どうやら自分はマリーより先に死ぬことになりそうだが、それも些細なことだ……などと考えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます