第570話 表彰式

折れた刃先が落下して妙なる音を立てた後、先生は掲げた手をゆっくりと降ろす。

ふと見れば先生の上腕部にはうっすら傷が付いている。服が切れただけで血が出るほどではないようだが……マジで!?


『今の試合の解説をお願いしたいと思います! フェルナンド様、よろしいですか!?』


『ええ、見事な剣筋でした。私の自慢の名剣がこの有り様です。しかも手傷まで。さすが陛下だと思います。実は解説するほどのことはありません。陛下は私の剣に剣を合わせてこられました。陛下の剣は総オリハルコンの王剣。私の剣に勝ち目はありません。しかし未熟な私はオリハルコンを斬ってみたいという欲求に勝てなかったのです。そしてまんまと剣を切り飛ばされてしまいました。陛下がお倒れになった理由は剣を切られた瞬間に私が左手で頭部を揺さぶったからです。』


『何ということでしょう! 陛下はなんと! 剣鬼フェルナンド様の名剣を叩き斬ってしまわれましたぁー! 前人未到の快挙です! 皆さん! 陛下に盛大な拍手をお願いしまーす!』


いつの間にそんなことしたんだよ! 先生は体術も一流なのか。それにしても陛下コールがすごい。あの先生にここまで善戦したんだから当然だよな。すごい男だ。


おっ、起き上がった。




『皆の者。見たであろう! これが男の、ローランドの民の生き様だ! いかに余とて剣鬼殿に勝てるなどと思い上がってはおらん! しかし! 目の前に巨大な壁がそびえ立っておれば登るのが男であろう! ドラゴンがいれば戦うのが男であろう! 余の誇る臣民達よ! 挑む心を忘れるでないぞ!』


なぜわざわざこんなことをしたのかは、まだ納得できないが人気は間違いなく上がった。ただの人気取りとは思えないが……実はただの趣味なのか? すっかり空気が国王一色になってしまったな。勝って当たり前だからか、先生には誰も注目していない気さえする。


『お待たせいたしました! レイモンド選手が目を覚ましたそうです! 表彰式を行います!』


レイモンド先生が武舞台へと足を運ぶ。体が重そうだ。


『ただいまより表彰式を行います! 皆さま、ご起立、脱帽の上、ご注目ください。まずは国王陛下より総評をいただきます。全員静聴!』


『まずは参加者諸君に労いの言葉を贈りたい。よくやった! いい戦いであった! 月並みだが何名かにはスカウトが向かうこともあるだろう!さて、総評だったな。余は満足している。余興がてら剣鬼殿に稽古をつけてもらったこともだが、王都が誇る二大道場の主の激戦を見れたことに、いたく満足している。どちらの道場もこの調子で精進するがよい。王家が誇る近衛騎士達の奮闘ぶりにも概ね満足している。多少は稽古を厳しくするかも知れんがな。明日も期待しているぞ! お前達! 大儀であった!』


『それではトロフィーと賞金の授与を行います! レイモンド・リメジー選手、前へ!』


レイモンド先生は国王からトロフィーと賞金を受け取っている。さあ、何をお願いするんだろう?


「優勝者の特権だ。望みを言ってみよ。」


「それでは恐れながら……私にも『宗家の極み』を伝授していただけないでしょうか。」


「無理だな。理由はお前が道場主だからだ。他にせよ。」


「なるほど。私が浅慮でした。ではお金をください。金貨で千枚。実は道場が老朽化しておりまして……」


「いいだろう。ついでに大工も手配してやろう。道場の床は木であろう? そこいらの大工には難しいからな。」


「陛下の寛大な御心に感謝いたします。」


『なんと! リメジー選手! 貴重なお願いを道場のために使ってしまいました! これこそ道場主としてのあるべき姿! 場内からも拍手が止まりませーん!』


レイモンド先生は会場のあらゆる方向に頭を下げている。意外な一面だ。


『これにて王国一武闘会 一般の部、魔法なし部門を終了いたします! それでは国王陛下の御退出です! ご起立、脱帽でお見送りください!』


普通に歩いて武舞台から降りていった。天井が塞がっているもんな。


さあ、今夜は祝勝会だな。道場で宴会かな?

楽しくなりそうだ。

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