第564話 決勝トーナメント二回戦

『決勝トーナメント二回戦を開始いたします! 陛下の華麗な戦いの後ではやりにくかも知れませんが、張り切っていきましょう!』


『残り八人。いささか偏った気もしますが、実力的に致し方ありませんな。』


『そうなのです! フェルナンド様の言う通りなのです! 二回戦への進出者のうちなんと五名が近衛騎士! 自重しろと言いたいところですが基本的に参加は自由! 止めることなどできません!』


『まあ彼らもこの日に休みが取れるとは限らないのが辛いところですな。』


『さあ! 二回戦第一試合を始めます! 一人目はァー! 無尽流の若き道場主! レイモンド・リメジー選手! 対する二人目はァー! 中堅近衛騎士! ワイドバーン・ド・エフェルト選手!』


『双方構え!』


『始め!』


レイモンド先生の対戦相手はおそらく三十代中盤。どっしり構えた剛剣使いといった印象だ。装備は兄上も着用していた近衛騎士の正式な鎧。武器だけが自前のようだ。


落ち着いた立ち上がりから一転して乱打戦。ワイドバーン選手はごつい剛剣を使っているのに先生と同等の速さで剣を振るっている。

しかし突然剛剣を落とした! よく見るとワイドバーン選手の右手の親指が切り落とされている。レイモンド先生の仕業だ。

次の瞬間ワイドバーン選手の首筋から鮮血が飛び散った。


『勝負あり! レイモンド選手の勝利です! 治癒魔法使いのナーサリーさん! すぐ来てください!』


『接戦でした。レイモンド選手にも余裕がなかったためこうなってしまった。あれで中堅クラスとは、やはり近衛騎士は強敵ですな。』


レイモンド先生の剣にも何やら秘密がありそうだな。ワイドバーン選手ほどの人が間合いを間違えるはずがないもんな。


『二回戦第二試合を始めます! 一人目は破極流の道場主! オミット・ダーティロード選手! 対する二人目はこれまた中堅近衛騎士! ジェラルド・ド・マクドナルド選手!』


『双方構え!』


『始め!』


オミット選手がいきなりの猛攻だ。三又の槍を縦横無尽に振り回して攻め立てる。対してジェラルド選手は盾を巧みに使って全てを防ぐ。思えば盾をまともに使うところを見たのは初めてのような気がする。クタナツの騎士は盾なんか持ってないもんな。これは膠着するかと思ったらオミット選手が盾ごとジェラルド選手を貫いた。あの頑丈そうな盾を一体どうやって!?


『勝負あり! オミット選手の勝利です! またまた治癒魔法使いのナーサリーさん! すぐに来てください!』


『時間こそかかってないもののギリギリの接戦でしたな。ジェラルド選手の巧みな盾捌き、あれを攻略する方法が他になかったようです。おそらくオミット選手の槍はもう使えません。あれほどの業物を犠牲にしてようやく掴んだ勝利です。』


そういうものなのか。やはり先生の解説は一味違うな。勉強になるぜ。


『二回戦第三試合を始めます! 一人目は王太子殿下の近衛騎士! ウリエン・ド・マーティン選手! 対する二人目はこちらは王太子殿下の妹君、エカテリーナ王女の近衛騎士! キャロライン・ド・バーグマン選手!』


『双方構え!』


『始め!』


兄上の出番だ。同僚対決と言えるのだろうか。相手は兄上より大柄で歳上の女性のようだ。どことなくクタナツのごっついお姉さんことゴモリエールさんを思い出すが、あの人ほどの圧力は感じない。近衛騎士もまだまだだな。

兄上の武器は一見すると普通のロングソードだが、実はすごかったりするのだろうか? キャロライン選手の武器はハルバード。私の身の丈よりも大きい。あんなの防御不可能じゃないか。


すごい……兄上の身のこなしがキレッキレだ。いつか見たノワール狼の子供、クロちゃんのように緩急自在。いきなり最高速を出したかと思えば突如停止する。鎧を着用しているのに凄いな。キャロラインさんは全く追いきれてない。あれだけのハルバードを嵐のように振り回しているが、それより兄上の方が速い! しかも避けるだけでなくうまく往なしたりもしている。まるで父上のような柔らかい往なし方だ。

あっ、ハルバードが武舞台にめり込んだ! 兄上が往なしたせいだ。そこに兄上が上段からロングソードを打ち込むと、ハルバードの柄が見事に断ち切れてしまった!しかしキャロライン選手も短くなった柄だけを持ち半ば徒手空拳で戦い続けている。軽くなった分、速度は増したようだが……


やはり兄上ほどの相手となるとリーチの違いは絶望的な差だったようだ。キャロライン選手は短剣も使って奮闘はしたが、結局はジリジリと追い詰められて場外負けとなった。


『勝負あり! ウリエン選手の勝利です! 近衛騎士同士の対戦でしたがフェルナンド様、いかがだったでしょう!?』


『ウリエン選手は普通のロングソードであのハルバードの柄を切断してしまいましたね。あれが全てです。近衛騎士の正式なロングソードを普通と言っていいかはともかくですが。』


『確かあれって王国騎士には支給されておらず、近衛騎士だけが持てるそれなりの業物だったかと思います。魔法とも相性がいいようにミスリルとの合金で杖の代わりにも使えると聞いております。武器も鎧も正式なものを使うなんて、やっぱりウリエン選手はあの若さで『模範騎士』と呼ばれるだけありますね!』


『なるほど。それほどの代物でしたか。ならば腕が半分、装備の力が半分と言ったところでしょうか。ウリエン選手はようやく心眼の入口に立ったようですな。』


さすが兄上。やはり心眼を極めつつあるんだろうな。ミスリル合金のロングソードか……私が先生から貰った自称安物の剣とどちらが上物なんだろう? 先生の言う安物ってあてにならないんだよな。


第四試合は近衛騎士対五等星冒険者だった。これまた接戦となり近衛騎士がギリギリの勝利をおさめた。

残り四人、格上ばかりだが兄上には頑張って欲しい。

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