第563話 ロイヤル敗者復活戦

『観客の皆様! お待たせいたしました! いよいよ決勝トーナメントを行います! 早速一回戦です! カトラス選手対ゴレイム選手! 双方構え!』


『始め!』


決勝トーナメント前に国王の挨拶はないのか。それにしても二人とも強いな。軽装でスパスパ攻めるカトラス選手に、重装備でどっしり受けるゴレイム選手か。


『勝負あり! 勝者カトラス選手!』


結局鎧の隙間をうまく通したカトラス選手が勝った。


『二回戦を始めます! ウリエン選手対スパルタニアン選手! 双方構え!」


『始め!』


早くも兄上の出番だ。やはり姉上が、いやアンリエットお姉さんもうるさい。どうやら相手は破極流の槍使いだ。歳は三十過ぎと見た。熟練者なのだろう。兄上は間合いに入れず苦戦している。

しかもスパルタニアン選手の回転はどんどん上がっていく。まさに槍衾やりぶすまだ。私ならとっくに負けてる。

しかし兄上は……なんと木刀を横、水平にして槍の穂先を受け止めている。そうか、兄上もエビルヒュージトレントの木刀を持ってるもんな。それならあんな受け止め方も可能か。

動きが止まった。木刀と槍の押し合いになっている。両者の間合いはニメイルもない。しかしお互い進退窮まったようだが……


にらみ合いは一分余り続いた。しかし両者の力が拮抗していたためか、スパルタニアン選手の槍が耐えきれなかったらしい。柄の中ほどに少しヒビが入ったかと思ったらすぐに折れてしまった。槍の折れるに任せて兄上は弾けるように前方に身一つで飛び出した。そのままスパルタニアン選手の顔に前蹴り! ガードをしようにも両腕は痺れてしまっているようで、そのまま顎を蹴り抜かれた。腕が痺れているのは兄上も同じだから蹴りを使ったんだよな。接戦だったな。さすが兄上。場内も黄色い歓声が飛び交っている。姉上も気が狂わんばかりに叫んでいる。うるさいな。


「お兄さんすごかったね! 一瞬で間合いを詰めて鮮やかな蹴り! かっこいいなあ!」

「ふふふスティード君はよく分かってるわね。後でお小遣いをたくさんあげるわ!」




順当に試合は進み八人が出揃った。


『ここまでを振り返っていかがでしょう。誰かフェルナンド様が注目された選手はいましたでしょうか?』


『ここまで勝ち残ってきた選手ですからね。どの選手にもそれなりに注目しておりますよ。もしも無尽流のレイモンド選手と破極流のオミット選手の道場主対決が実現するならば楽しみですな。』


『そうですよね。今回はなんと王都を代表する二大道場の主が出場していますからね! 果たしてこの二人の対戦は見ることができるのでしょうか!? 抽選の結果が非常に楽しみです! おっとここで緊急のお知らせです! なんと今から陛下が敗者にチャンスをお与えになるそうです! 今破れた八名は武舞台にお上がりください!』


『おそらくですが、ご覧になるだけでは我慢できなくなられたのでしょう。芸をお見せくださるご予定を前倒しされたのではないでしょうか。』


おお、国王が貴賓室から飛び降りてきた。そして人差し指を伸ばして腕を高く上げている。


『一分だ。余に一分間ほど自由に攻撃をして参れ! 見事かすり傷でもつけた暁には近衛騎士見習いとして召し抱えてやろう。ただし、一分経過したら余は魔法も使って反撃をする。その時はお前達も魔法を使って構わんぞ?』


マジか! 正気か! 側近止めろや!


『さあ面白くなって参りました! しかし前代未聞ではありません! 数回に一回は起こり得ることなのです! さあ武舞台上の敗者の皆さん! やりますか? やらない方はとっとと降りてくださいね! 国王陛下に腕をアピールする絶好の機会ですよ! ここで降りるなんて男じゃない! おっと一人だけ女性もおりましたね! ご存知の通り陛下はお強いですよ!? くれぐれも全力で挑んでください!』


たまにあるんかい!

誰も降りないようだ。みんなやる気だな。国王は素手のようだが……


『それでは仕官を賭けた一発勝負です! 双方構え!』


『始め!』




『おおーっと勇猛果敢に攻めるかと思えば慎重に周りを取り囲んでいるぅー! 』


『見ての通り陛下は素手です。おそらくそのままお相手をなさるのでしょう。だから八人は慎重に間合いを詰めて一気に制圧するつもりのようですな。』


『行ったぁー! 左右から剣使いが二人! 後ろからは槍使いだぁー!』


剣の二人はお互いを刺してしまわないように上下に分けて攻撃をしている。それでも国王にはするすると躱されている。くそ、明らかに私より強いじゃないか。当たり前か……まだまだジジイじゃないのか……


『なんとぉー! 左右からの剣を躱しながら槍の穂先を両手で挟み取ってしまったぁー! そのまま左右に蹴り! 剣の二人は場外まで飛ばされてしまったぁぁぁーー!!』


『真剣白刃取りと言うらしい。両手で挟み込んで相手の刃物を奪う技ですね。クタナツギルドの組合長が得意とする技です。』


『残り六人! このまま一分が経過してしまうのか! 私のお尻を触った陛下を許してはいけません!ガンガンやってください!』


意外と俗な男なのか? 国王ともなると後宮に女をたくさんキープしてそうなものだが。


『どうしてお尻だけなんですか! どうしてそのまま一気に最後まで突っ走って下さらなかったのですか! ハッ! まさか陛下は……いえ何でもありません、後宮に入りたい。』


そっちの意味かよ! 観客には大ウケだ。身を削って笑いをとるなんてこの人は本物の司会者のようだ。


『槍を手に入れた陛下は水を得た河馬ケルピーですな。しかも破極流は言うに及ばず『宗家の極み』を会得しておられるようだ。』


『何ですか? その『宗家の極み』とは?』


『現在の剣や槍のほとんどの流派は遡れば勇者ムラサキに行き着きます。つまりその大元となった術理が王家にのみ存在するわけです。その中で全ての技、動き、奥義を会得することが『宗家の極み』と呼ばれております。つまり陛下は武芸百般というわけですな。』


『丁寧な解説ありがとうございます! あと十秒、そして残ったのは二人! さあどうする!?』


おっ、二人が一列縦隊で突っ込んで行く! 国王はどっしりと構えて動く様子はない。前の選手がまだ間合いから遠いにも関わらず、剣を上段に振りかぶった瞬間、その選手の腹から槍が突き出てきた……

さすがの国王も一瞬面食らったようで動きが一歩遅れている。しかも上段からは剣が振り下ろされた!


次の瞬間、その二人は国王の槍でまとめて場外まで叩き飛ばされた。終わった……のか?




『見事であった! 今の攻撃は片方を一方的に利用したように見えて全く違う。二人の深い信頼による連携攻撃だ。見よ! ほんの少しだが傷が付いておる! よってこの二人は近衛騎士見習いに内定だ!』


遠見を使わないと見えないぐらい小さい傷が脇の辺りに付いている。ゴージャスな礼服でよくあれだけの動きができるもんだ。この辺りも国王の人気の秘密なんだろうな。すごいわ。


『破極流のスパルタニアン選手! サイクロンズ選手! おめでとうございます! 近衛騎士見習いとしての地獄の訓練が待っていることとは思いますが、頑張ってください! 陛下も見事な演舞をありがとうございました後宮! 皆様! 今一度盛大な拍手をお願いいたします後宮!』


『見事な動きで大変参考になりました。これで私ももう少し強くなれそうですよ。』


私が見ても分からないが、先生から見れば参考になったってことだな。やはり先生はどこまでも強くなるのだろう。すごいお人だ。

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