第517話
十月二十日、サラスヴァの日。
短距離転移は一旦忘れて道場で汗を流す。
「カース君、ちょっと打ち込んで来てみな。」
道場主レイモンド先生が声をかけてくれた。行くぞ! 虎徹が唸るぜ!
レイモンド先生は強いのか弱いのか分からなかった。つまり私では計り知れないほど差があるということだ。ただ、打ち込むのがとても気持ちよかった。「そうだそれ!」「いい感じだよ!」「すごい! その一撃最高だ!」なんて言われるとやる気が出てくる。やはり道場主とは教え上手なのだな。レイモンド先生のこのような稽古を幇間稽古などと揶揄する者もいるらしいが、子供達にはきっと受けがいいだろう。やっぱり人は褒めて伸ばさないとね。
そこにフェルナンド先生がやって来て……
「カース君、度々すまないが外でこの間のあれを撃ってもらえるかい?」
「押忍! もちろんです!」
先生にご指名されるとは喜ばしい。全力でやろう。
外に出て、先生の周囲に水壁を張る。それを興味深そうに見つめるアレク。先生は目隠しをしており、準備万端なようだ。
「いきます!」『
いつも通り無難に弾かれてしまう。先日ボスオーガを仕留めた細長い弾丸でもあまり変化はないようだ。それ以外にも徹甲弾や榴弾、散弾を混ぜているが、ことごとく弾かれている。衝撃だって貫通しているはずだが……一体あの木刀は何で出来ているんだ?
時折『氷弾』や『氷球』『水球』なども混ぜているが、そのような弾きにくい攻撃には触らず避けるか、上手く往なしている。瞬時の判断が凄すぎる。見えていたとしても難しいってのに。
四十分ぐらい経った頃。
「そろそろ終わりにしよう。全力の一撃を頼むよ。」
よし、前回エビルヒュージトレントの鍛錬棒を叩き折った魔法で……『徹甲魔弾』
あの時よりさらに魔力を込めてやる。
やはり先生は地面に向けて往なしたようで土煙がもくもくと立ち上がる。先生の木刀は、折れて……ない……
「いい攻撃だった。しかし私もそう何回も無様な真似を晒すわけにはいかないからね。上手くいってよかったよ。これはお礼だ。いつもありがとう。」
「押忍! お役に立てたなら光栄です。ありがたくいただきます。」
ペイチの実を貰った。アレクと半分ずつ食べよう。
「ありがとう。美味しそうね。でも剣鬼様って凄すぎるわね。カースのあの攻撃を涼しい顔をして受け流すなんて。私なら一発すら防御できないわ。」
「先生は凄いよね! あれで未熟とか言われてもねぇ? 参るよね。」
アレクは可愛いしペイチの実は美味しいし。至れり尽くせりだな。
しかし困ったな……あれだけやって無傷とは。次からは火球や落雷も使ってみるべきか。
この日は他の先輩方にも稽古をつけてもらい、充実した一日だった。帰ったら魔法陣の続きだ。こちらは難航しそうなんだよな……
そこでアイデア。フリーハンドで書こうとするから上手くいかないのでは?
だから定規とコンパスを作ってみた。単純な金属製品を作るのはお手の物だ。そもそも私の場合、手で描くより魔法で描いた方がきれいに描ける。金操で定規やコンパスを動かせば効率もアップ。そもそも紙に描かなくても金属板に金操で無理矢理凹凸を付けた方がきれいに仕上がりそうだ。
できた。これって凸版印刷も出来たりするんじゃないか? 魔法陣を印刷できたらとてつもない効率化なのでは?
面倒なことになりそうだ……このアイデアはボツにしよう。普通に紙に描くとしよう。金操は使うけど。幾何学模様は定規やコンパスを使うと描きやすいが、合間合間に記入されている文字が厄介なんだよな……
まだまだじっくり取り組む必要がありそうだ。
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